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第2話:喫茶店・1

ξ˚⊿˚)ξ <投稿初日は2話くらい投稿しろって……!

 激動の夜会を経て週明け。

 夜会の翌日は兄と今後の対応などを話しつつも今は4月、学校は普通にあるのよね。

 兄は知り合いの貴族家へ、わたしは学校、カウフォードへと登校します。


 次の社交イベントはカウフォードとリューブリッジのレガッタ(漕艇)対抗戦の観戦だから、校内では漕艇部のレギュラーの方達が人気。

 逞しい殿方が好みの女生徒たちは頬を染めて練習風景を眺めていたり、応援の差し入れをしているわ。


 わたしはルートヴィッヒ様一筋ですから興味ありません。

 いや、レガッタそのものは好きですけどね。煌めく水面をすいすいとまた力強く流線形のボートが進んでいくのは美しいですし。


「……閑散としているわね」


 校舎の廊下を歩いているけど生徒が全体的に少ないし、教室に着いて授業を待っていてもほとんど人がいないわ。


 それもそうか……、婚約破棄された令嬢たちがそのまま来るわけにはいかないだろうし、その親族や分家の家も対応に苦慮しているところでしょうね。

 縁談の釣書を急いで書いたり送ったり、あるいはそれを受けたりと忙しいのかも。

 王太子殿下やミズキ様だってこの状態では学校には来られないでしょうしね。


 ま、わたしには関係ないですけどねー。

 派閥に入るのを避けて立ち回っていた貧乏男爵の娘ですから。

 ……ああ、関係あったわ。ルートヴィッヒ様もきっと学内にいらっしゃらない。


 悲しい。

 ルートヴィッヒ様がいない空間で学ばねばならないとは人生の損失だわ。




 とまあ、そんなこんなで数日。今週の授業のノートはわざわざ清書までしたわ。後で休んでた子たちに貸して恩を売れるからね。

 早速、数日後に声がかかったもの。

 週末、わたしはノートを鞄に街へと繰り出した。


 町は聖女ミズキ様が王太子殿下の婚約者となったということで祝賀ムード一色。

 まあ、見たこともない大公令嬢より、疫病を祓った気さくな聖女様の方が民に人気があるのは仕方ないことでしょうけど。


 わたしは末端とはいえ貴族ですから、それに思うところが無いわけではないわ。

 でも王都のあちこちで売り出されはじめた、聖女考案のカスタードプリンなるお菓子の美味しさの分だけ、わたしもミズキ様のことを素晴らしいと思うの。


「テサシア。こっちよ」


 友人のアヴィーナ・キンシャーチャがカフェのテラス席で手をあげてわたしを呼んだ。


 4番通りのカフェテラス『ゼニヤッタ』はちょっと上品なお店。貴族専門というほどの高級店では無いから、中のカウンター席では平民の労働者たちの常連もコーヒーを飲んでいるけども、令嬢に口笛を吹くような品の無い客はいない。

 テラス席はカウンターの倍以上の料金が取られるけど、その分貴族や裕福な商家の隠居さんなんかがゆったりと過ごせるの。

 4人がけの席に座る同級生たちが3人。空いた席に近づき声をかける。


「ご機嫌よう、みんなお揃いで」


「ご機嫌よう、久しぶりね、テサシア」


 口々に挨拶を受ける。そう、みな休んでたから一週間ぶりよね。

 ウェイターにカフェラテを注文すると、わたしも席に着く。

 アヴィーナが待ってましたとばかりに声をかけた。


「ね、ね。テサシア。先日の婚約破棄の話なんだけど」


「待って。話の先にノート渡しておくわ。そちらで回して」


 わたしは遮ると机の上にノートを何冊も積み上げた。


「ありがとう!」


 感謝の声が重なる。


「対価はここの払いと、その婚約破棄の情報、あとはレガッタの席の確保でどう?」


「お安い御用よ!」


 わたしの提案にアヴィーナが胸を叩く。


「じゃあ早速婚約破棄の話なんだけど、テサシアもあの場にいたのよね?」


「ええ。あれ、なんであんな社交シーズン開始早々に夜会でやらかしたのかしら」


 ちょっとナゲイトア家に対する当たりが強くないかしらと不思議だったのよね。裏で穏便にできたのじゃないかなと。


「ここだけの話よ」


 アヴィーナが声を潜めて身を乗り出す。

 テーブルの中央で頭を寄せ合う。


「ナゲイトア家主導で聖女ミズキ様の暗殺計画が立てられていたの」


 ひゅっと息を呑む気配がした。


「確か?」


「本家筋の方から情報回ってきたわ」


 キンシャーチャ家は子爵だけど中央の歴史ある家の分家ですからね。

 わたしのとこみたいな田舎男爵家よりちゃんと情報が入っていて助かるわ。


「だとすると仕方ないのかしらね。いち早くクレイーザ様を排除したか」


 わたしは椅子に座り直す。

 ウェイターがカフェラテを持ってきて、わたしの前に置いた。

 カフェラテに砂糖を落とし、ゆっくりとスプーンを回してから口にする。

 そのちょっとした空白の時間の後、再びアヴィーナがわたしに声をかけた。


「ね、それよりさテサシア」


「何かしら」


「あなたの好きなルートヴィッヒ様もあの場で婚約破棄されてたわよね」


 んぐっ。


 摘まんでいたクッキーにむせる。


「テサシアはルートヴィッヒ様狙いなの!?」


「狙うわけないでしょう、冗談もほどほどにして。田舎男爵の娘が侯爵家嫡男と釣り合うわけないじゃない」


「それ言ったらミズキ様なんて異世界の平民だったらしいわよ」


「やめて、聖女と田舎男爵令嬢なんて比べないで。ドラゴン蜥蜴トカゲだわ」


 似ているところはあってもまるで違うという話よ。

 くすくすと笑い声がおきた。

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『モブ令嬢テサシア・ノーザランは理想の恋を追い求めない。』


8月1日発売


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― 新着の感想 ―
[一言] いくら相手が常識知らずだからといって婚約者が居るのに寄ってくる女を避けようとも窘めようとしないパープリンな王太子とその側近で大丈夫か、と思ったらちゃんと理由があった
[一言] カプリング厨かしら
[良い点] >後で休んでた子たちに貸して恩を売れるからね。 つこさ……テサシア嬢はしっかりしていらっしゃるw トカゲでもコモドドラゴン並のところを見せるんだ! テサシア! ……あっ、やっぱり本物のド…
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