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インナースペースオペラ  作者: 犬上田鍬
5/7

RPG 内宇宙活劇(インナースペースオペラ)

 インナーフォースたちとの戦いのなかをどう潜り抜けて、そこに現れたのかわからないが、マン=タンクがヒミコたちを狙っていた。崩れた顔の死んだような人間部分の半身に対して、機械部分から覗く目玉がきょろきょろと不気味に動いている。

「あっ!」

 ヒミコたちは身を隠す間もなかった。既にマン=タンクの照準は彼らに定まっていたのだ。発射の爆音が鳴り響いた。

「!」

 爆音とともに、その場で身を伏せていたヒミコたちの頭上を金色のものが飛んでいった。それは反対側の廊下の端の壁に叩きつけられた。

 恐る恐る頭を持ち上げた彼らの目に、なにか巨大な物体の残骸が見えた。ゲンチャンが気づいていう。

「あの空飛ぶ金剛大仏だ!」

 ヒミコが教えた。

「ストレンジャーの一人、〝黄金の巨人〟タロスです。タロスはアタシの用心棒(カレント)なので、廊下の天井にへばりついて警護してくれてたんです。楯になってくれたんだわ」

「ヤバいぞ、二発目がくる!」

 マン=タンクの砲口は、まだこっちを狙っていた。ヒミコたちは頭を抱えて伏せていたが、一向に発射する気配がなかった。

「アグニだわ」

 ヒミコの言葉にクマたちが顔を上げると、マン=タンクは火に包まれていた。化け物の背後からアグニが火を吹いていた。火炎を浴びせられたマン=タンクは砲台を回転させて、アグニを攻撃しようとする。

 そのとき、ヒミコたちのそばをなにかが通り過ぎた。ペタペタと音を立てる裸足の脚とまったく無音の地下足袋の脚が見えた。反対側の階段から駆けあがってきたサイレンとハンゾーだった。

 ハンゾーが、大きなブーメランのような手裏剣を化け物の装甲ボディに放った。金属音がして、跳ね返ったブーメラン手裏剣はハンゾーの革手袋に収まる。

 気づいた化け物は再びこちらに砲身を向けた。その砲口めがけてサイレンが、かまえていた槍を突っ込んだ。

 次の瞬間、ものすごい音とともにマン=タンクは自爆した。砲口が塞がったまま、弾を発射したのだ。

 ゲンチャンは埃を払いながら、「おい」とワカに声をかけた。

「?」

「なんだ、アレ?」

 見ればタロスの残骸に大きなタマムシのようなものが、たかっている。残骸を集めてガスを吹きかけている。

「ヒミコちゃん、金剛大仏を喰ってるヤツがいるぞ」

 立ち上がったヒミコは手を振って教えた。

「アレもストレンジャーの一人、死を司る〝地底の精霊〟イシスです。タロスをリペアしているんです」

「リペア?」

「蘇らせているんですよ」

 ワカはきく。

「アレもだれかのエピゴンなの?」

「アレはゲームのリペアキットを擬態化したものです。インナーフォースのだれかが損害を受けると現れます」とヒミコは笑顔で親指を突き出す。

 一方、クマは破壊されたマン=タンクを指さしていう。

「見ろよ、こっちもリペアしてるぜ」

 マン=タンクの土台部分である装甲車から無数のマニピュレーターが這い出して、破損した銃座や砲身部分を修繕しているのだ。

「なんてヤツだ」

 ヒミコは腕を組んで「リペアキットを内蔵してるんですね、キリがないわ」と見つめている。その彼女のそばを蘇った大柄なタロスが横切った。

「?」

 タロスはマン=タンクからマニピュレーターをむしり取って、土台部分を叩き潰すのだ。アグニやサイレンも火炎放射や高圧放水で、化け物を元がどんなものだったかわからないくらいに粉砕してしまった。ヒミコたちは思わず手を叩いて彼らを讃えた。

「さあ、急ぎましょう」

 屋上へと続く階段を上がりドアを開くと、やっと建物の平面図がわかる床が拡がっていた。表面の塩化ビニールのコーティングが月の光に輝いて、スケートリンクのように見えた。

 満天の星空はクマやゲンチャンたちの住むフィジカルでは見ることがかなわない。まるで、その一粒が屋上の上に落ちていてもおかしくないほど近くで瞬いている。

 見たところ、屋上にはなにかそれらしきものは見当たらなかった。そこには通気塔以外の構築物がないのだ。彼らは目を皿のようにして、そこらを歩き回った。

「ここじゃないんじゃないのか?」

 ゲンチャンはなに気なく、ここを推理したチャンドラを見る。チャンドラは屋上の出口に立ったまま、中空を見上げていた。ゲンチャンもつられて、その視線の先を追う。

「アレ、なんだ?」

 ゲンチャンは上空の一方向を指さした。他の連中もゲンチャンが指さす方向に目を向けた。月明かりに照らされた星とは思えないものが宙に浮いていた。だれに指示されるわけでもなく、彼らはその物体が浮かんでいる真下あたりに集まる。

「人だよ。人が浮かんでいる」

「こっちにもいるぞ。こっちを見てるけど、アレ、倉井じゃないか?」

「倉井? ということは、こっちの背を向けているのは…?」と、クマが目を凝らした。

「あの格子柄のシャツはミッキーだよ。今日、着てた」と、ワカが思い出したようにいう。

「そうか、《宇宙空間》というのはこの星空のことだったんだな。場所も敷地の上空だし…」といいかけたゲンチャンは、眉をひそめて指さした。

「ミッキーのそばにもう一人いるぞ」

 見れば、ちょうど背を向けたミッキーの陰になって、妙なシルエットの人物が重なっていた。

「?」

「アイツはなんだ? 宇宙服を着てるのか?」

 ワカは目を細めて、謎の三人目を凝視した。そのワカの腕を引っ張ってヒミコはいう。

「下がって! あれはトラップにかかっただれかじゃありません」

 見ていると三人目はゆっくりと落下してくるのがわかった。やがて宇宙服に見えたのは銀色に輝くウロコ状の肌と判明した。

 ヒミコの表情は、それが次第に近づくにつれて険しくなっていった。

「アレがオブスキュア?」

《残念ながら、それもボクじゃないんだな》

 突然、屋外スピーカーから声がした。どこかでオブスキュアが見ているのだ。

《それはゾーンの結界を守っている〝半爬(はんは)虫人(ちゅうじん)〟。ボクの忠実な下僕だよ。強いよ、こいつは》

「プレイヤーがゾーンに入れば、アレの餌食になるわけね… 」

 ヒミコの視線は、それが静止した五メートルほど上空を睨んでいる。至近距離で見るそれは、やはりマン=タンクのような化け物の類だった。

 肘から先と膝から下が妙にバランスよく太く、全身にウロコを纏ったうえ、筋肉質の蛇腹がぴくぴくと動いている。顔だけがネコのように鋭く、吊り上がった真っ黒な眼はチャンドラのキラーサングラスにも通じる。まるでストレンジャーたちをせせら笑っているかのように、裂けた口から低い機械音のような唸りを響かせていた。例えれば二足歩行の大柄なアルマジロという感じだ。

 ハンゾーが半爬虫人めがけてブーメラン手裏剣を放ったが、まるでコンクリートの壁に小石をぶつけているのと同じだった。得物は手応えなく、ハンゾーの左手に戻ってきた。

 ヒミコたちの背後から火の玉が化け物めがけて突進した。アグニだ。アグニは化け物との間合いを図るように、まわりを飛び回った。

 それを下から見ていたヒミコたちは、半爬虫人と呼ばれる化け物がアグニの三倍くらいはあると認識した。ということは、彼らが思っていた以上に高いところでアグニと対峙しているとわかる。

「タロスじゃないとダメだわ。タロスは?」

 あたりを見回してもタロスの姿はなかった。チャンドラが教えた。

「アイツはマン=タンクをかまっているようだ。放っておくと、また再生するからな」

 ヒミコは険しい表情のまま、上空を見上げる。

「仕方ないなあ。こっちの怪物はアグニの相手じゃないわ」

 上空では、アグニが半爬虫人に火炎放射をしていた。しかし、まるでその空間が歪んでいるかのように化け物に火が届く前に屈折してしまう。アグニはさらに火勢を増した。すると化け物の前に火の壁が立つのだ。

「アイツ、シールドを張ってるぞ。ハンゾーの手裏剣も歯が立たないわけだ。このままだとアグニはオーバーロードになる」

 チャンドラは筋斗雲をつくり始めた。

「どうするの? 戦うつもり?」

 ヒミコは、実戦向きではないチャンドラが助太刀にいくものと思ったらしい。チャンドラはクールに口角を上げていう。

「心配するな、ソラ。アグニが半爬虫人を相手している間に二人を助け出す」

「大丈夫? あそこは目に見えても結界のなかよ」

 チャンドラは親指を突き上げていうのだ。

「なんのためにさっきゾーンのアドレスを調べたんだい? いざとなればジャンプすればいい」

 ふたりの話をきいていたワカがクマに質問する。メタフィジカル初心者の彼の特権だ。

「ジャンプするってどういうこと?」

「コンソールボックスを立ち上げて、ポジションシステムにアドレスを入れれば、そこに移動できるんだよ」

「へえー、そんなことできるの?」

「ここに没入(ダイブ)するときにスポットでやったことと同じさ。パーソナルマップなら地図が使えるから、いきたいところにポイントを置けばジャンプできるんだ」

 ワカは額に皴を寄せて目を見開いた。

 一方、心配げな表情のヒミコは、サイレンにアグニの援護をするように命じた。

「サイレン、頼んだわ」

 サイレンは親指を立てて、槍の先から高圧放水をし始めた。背中にはシールドがないようで、化け物のウロコ状の皮膚は濡れて光っているのがわかる。ただ、効いているとは思えなかった。化け物は尖った爪で擽ったそうに水を払っているだけだ。

「ハンゾーはタロスと交代して!」

 ヒミコには珍しくヒステリックな声だった。

 そのとき、筋斗雲にのったチャンドラを見つけた半爬虫人は、遊び半分の防戦をやめてアグニに長い舌を放った。舌の先が蛇のように二股に割れて、素早くアグニを掴むと引き寄せるのだ。どうやらカタをつけるつもりらしい。

 アグニは身動きが取れないまま、放熱を始めた。たまらず化け物はアグニの頭を鷲爪の手に持ち替え、地上めがけて叩きつけた。アグニは流れ星のように光跡を曳いて校庭の一角に墜落する。

「あっ、やられた!」

 ヒミコたちは屋上のフェンス越しにアグニが落ちたあたりを見つめる。校庭に大きな穴が開いて、そこから煙が立ち昇った。

 半爬虫人のシールドが解けたと見たサイレンは、キラーサングラスの眼に高圧放水を浴びせる。化け物は奇妙な叫びをあげて眼を覆った。

 その背後を人質二人、両脇に抱えたチャンドラが通り過ぎていく。サイレンはさらに、高圧放水を撃つ。しかし、すでに化け物のシールドが張られた後だった。

 アグニが墜落した穴からはしばらく燻ぶったような煙が上がっていたが、そこから再び火の玉が飛び出した。それに続いて鮮やかな色の大きなムシのようなものが這い出してきた。それを見たヒミコの顔は上気した。

「イシスにリペアされたんだわ」

 片目を抑えて舌先でサイレンを攻撃していた半爬虫人の前に、もう一度アグニが立ち向かう。化け物の背後に回り、火炎放射を始めた。当然、シールドに跳ね返されるのはわかっていただろう。

 屋外スピーカーからオブスキュアの嘲笑いが響く。

《こいつは学習するということを知らないのか。オマエの吐く炎など半爬虫人には微塵も効かないのだぞ》

 そして、さらにこう告げる。

《ボクはこいつが一番嫌いなんだ。半爬虫人、オマエの舌で跡形もなく溶かしてやれ》

 半爬虫人は舌先をアグニに向けて放った。アグニは素早い舌先から、辛うじて逃れながらも火炎放射をやめない。

 そのときだった。校庭中に轟音が響き渡ったのだ。まるで落雷かと思うほどの衝撃だった。一瞬、屋上の床が振動するのがヒミコたちにも伝わった。

 彼女たちは何が起きたのかと振り返る。上空のアグニと化け物もそちらに気をとられた。アグニの視線は、すぐに半爬虫人に戻された。化け物の蛇腹に大きな穴が開いていたのだ。

 半爬虫人は、初めてそのキラーサングラスのような眼を満月のように真ん丸にした。アグニに気をとられ、シールドを張っていない自分の背後から高射砲で撃たれたのに、やっと気づいたのだ。化け物はそのまま、下界に墜ちていった。

「タロス!」

 見れば、そこにマン=タンクの砲台に座ったタロスがいた。ちょうど、半爬虫人がいたあたりに砲身の照準を定めていた。タロスは、いくら潰しても再生しようとするマン=タンクのマニピュレーターを利用して、自分用の高射砲に改造したようだ。

「タロスは、ただのカレントじゃない」

 ヒミコたちは、ストレンジャーの連係プレイにまた飛び上がって拍手した。ゲンチャンが心配そうにフェンスから下を覗く。

「落ちたヤツは、また再生しないだろうな?」

「あの化け物はマン=タンクみたいにリペアキットを内蔵していないと思いますよ。その代りにシールドを搭載していたんですから」

 ヒミコは全員を見回した。

「三木さんは?」

 まるで死体のように脱力してうずくまる、もう一人の人質の傍らに立ったチャンドラが指さす先で、ミッキーは同級生たちに囲まれていた。

「大丈夫か、ミッキー」とクマが肩を叩くと、「いやあ、お世話になりました」と愛想笑いをする。

 そして、彼らをヒミコから遠ざけるように引っ張った。

「なんだよ、どうしたんだよ?」

「ちょっときいてほしいんだが…」と小声でいうのだ。

「オレがゾーンに捕まっていたときに、あの怪物が話しかけてきていうんだよ。ヒミコちゃんがカズトの汚名を晴らすために、二十年前の事故をオレのせいにしようとしてるって」

 他の三人はお互いを見合わせた。ミッキーのいう「怪物」とは、いま倒された半爬虫人のことだろう。

「怪物が、あの事故を起こしたっていうのか?」

「怪物って…」といいかけるゲンチャンを妨げて、ミッキーは続ける。

「そうじゃない。怪物の口を借りたオブスケアだろうと思うんだ。ヒミコちゃんがカズトを庇って、オブスケアがあの事故を起こしたことにしようと企んでいるって」

「あの怪物が、二十年前の事故を起こしたのはオブスケアではないっていったんだな?」

「怪物の口を借りて、運転していたのは断じてオレじゃない、と。ヒミコちゃんはオレを陥れようとしているんだって」

「二十年前に、もうオブスケアがいたっていうのか?」

「いや、ちょっと待て」とクマがゲンチャンに割り込む。そして、クマはゆっくりというのだ。

「ミッキー、オブスケアってなんだか知ってるか?」

「だからダークサイドだろ?」

「ダークサイドって?」

 ミッキーは「また、でたよ」と苦虫を噛み潰したような顔を見せた。

「チンドンヤやクモスケじゃないことはわかってる!」

「ミッキー、落ち着いてよくきけ」と、クマは諭すような口調になった。

「オレたちはオマエが捕まってる間にヒミコちゃんから、このゲームの由来をきいたんだ。詳しいことはあとで話すけど、このゲームはオブスケアに拉致された倉井を助けて終わりじゃないんだ」

「オブスケアを倒すことが目的なんだろ?」とミッキー。

「そうなんだけど、そのオブスケアっていうのは、もとをただせば倉井のダークサイドなんだよ」

「なんだ、倉井のダークサイドって?」

 クマは考えあぐねた末に、こういった。

「たぶん二十年前のあの事故が起因になっていると思うんだけど、倉井の心に暗黒面が生じたらしいんだよ」

「暗黒面?」

「そう。ヒミコちゃんがいうには、それはモラルのない邪悪な存在らしいんだ」

「よくわからんなあ… 」と腕組みで首を傾げた。

「倉井がそこにいて、倉井の暗黒面が別にいるってこと?」

「暗黒面だけが独立した人格を形成したんだよ」

「多重人格障害とか解離性同一性障害ってこと?」

 クマとゲンチャンは再び顔を見合わせ、笑いながらいい放った。

「オマエはチンドンヤを知らないわりに、レジデントやそういう難しいことはよく知ってるんだな」

「そういうことなの?」と驚いたような表情のミッキー。

 相槌を打つワカに、ミッキーはたしかめるようにきく。

「じゃあ、オブスケアっていうのは… 」

 その声がきこえたらしく、ストレンジャーたちといたヒミコがやってきた。

「どうしたんですか?」

 クマがミッキーからきいたことを彼女に話すと、ヒミコは驚愕の顔つきになった。

「だれもそんなことを想像しなかったのに… 」

 月光を浴びて、彼らはそのぬめぬめした輝きを放つ床の上に立ち尽くした。ヒミコはしばらく黙り込んでいたが、ゆっくりと顔をあげる。その唇には笑みさえも浮かんでいた。

「オブスキュアは墓穴を掘りましたね」

「どういうことだよ?」と、まだ要領をのみ込めないミッキーがいう。

 ヒミコは、チャンドラからきいたゾーンの内部の様子から憶測を話すのだ。

「おそらくゾーンの環境は催眠作用を起こさせるようになっているのでしょう。浅い眠りのなかで、捕らえた獲物を洗脳するのが目的だったんじゃないかな」

「ところが、オレたちが考えもしなかったことをミッキーに吹き込んでしまった?」

 クマの言葉にヒミコが答える。

「オブスキュアは、最初からアタシがそれを疑って、詮索していると思い込んでいたのでしょうね。アタシは、たんに事故の経緯を知りたかっただけなのに」

 ミッキーは置いてきぼりにされたことを焦っているのか、必死になって追いつこうとする。

「断じてオレじゃない、というのは断じてオブスケアだということの裏返しなの?」

「オブスケアはだれだよ」と皮肉そうな笑みを浮かべるクマ。

「だれが免許も持ってないヤツを疑うか? クルマの持ち主がいるのに、しかも相当の酒気帯びでだよ、わざわざ免許を持ってないヤツが運転するなんて思うか? それを自分の口からいうこと自体がおかしいじゃないか」

「ええっ… 」

 クマは顔にこそ出さなかったが、他の連中は戸惑いの色を隠せなかった。

「事故は現場検証も困難なほど酷かったし、さいわい生き残った倉井の証言があったから、オレたちはそれをうのみにするしかなかったけど」

「アイツがひた隠しにしていたのはそのことだったんだよ!」

 ゲンチャンを引き継ぐようにミッキーも思い出して付け加える。

「ワカが見ていなければ、それもたんなる憶測だけに終わっていたかもな」

 ワカは「ああ、無免許運転のことね」と頷く。

「三木さんを含めて、もう一回整理しましょう。とりあえずアジトへ…」と、ヒミコがいいかけたところで、ミッキーは慌てたように口をはさんだ。

「その前に一回解脱(イジェクト)しないと。もう時間だ」

 するとワカの顔色も変わった。

「じゃあ、オレも。ミッキーと同じでオレも街のスポットからダイブしてるから」

 ゲンチャンが時計を見ながら「もう三時間経ったのか」と呟いた。

「また戻ってくるだろ?」

 するとワカは、ヒミコに逆に問い返すのだ。

「まだ終わってないんでしょ?」

「まだ終わってません。オブスキュアが残ってます。再ダイブしたらアタシたちのアジトにきてください」といった。

「皆さんには倉井のダークサイドが殲滅したことと事故の真相をきいた証人になってもらいたいんです」


毎週金曜日23時に更新します。

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