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挿話13 クレア

メイ母です。

 もしも私が最初の婚約者と婚約解消ではなく離婚をしていたなら、セディは私と結婚したのだろうか。

 そんなことを考えたものの、本人に尋ねてみることは思いとどまった。


 ーー僕にはクレアしかいないんだから、クレアが僕の求婚を受けてくれたかくれないか、だよ。


 セディの答えはきっとこんなところだ。


 私は婚約解消でも自分がセディと結婚していいのか悩んだけれど、離婚ならさらに悩んで、それでも最後にはセディの手を取っていたと思う。


 そういえば、私の婚約解消の裏ではお義父様がこっそり動いていらっしゃったのだ。

 例えセディとの再会時点で私が離婚していなかったとしても、きっと愛息子が望めばお義父様が何とかしたはずで、やはり結果は同じだったに違いない。


 答えのわかりきった質問をわざわざセディにする必要はない。

 もしもの話でも私が別の相手と結婚していたらなんて想像をさせたら、セディは哀しい顔をするに決まっているのだから。




 そもそも私がそんなことを考えたのは、タズルナのメルとロッティの屋敷に滞在中、エルウェズからの定期連絡とともに届いたメイの手紙がきっかけだった。


 手紙の書き出しはエルウェズを旅立つ私たちの見送りに姿を見せなかったことに対する謝罪だった。

 しかし、それに続いて「帰国したら紹介したい人がいる」とあってピンと来た。メイもとうとう見つけたのだと。

 このところ何となく様子がおかしかったのも、その人が理由だったに違いない。


 一緒に届いたセアラの手紙によれば、アンダーソンドレス工房で働くことになった貴族の女性を我が家で預かることにしたという。

 おそらくその女性がメイの紹介したい人なのだ。

 真面目なセアラがその女性についてはあまり詳しく書いていなかったのは、メイから報せるべきだと判断したからだろう。


 果たして、タズルナを離れる少し前に届いたメイからの2通めの手紙には、結婚の意志が記されていた。

 相手の女性は既婚者で離縁を望んで婚家を出てきたのだが、ノアの協力でもうすぐ解決するとあった。私が手紙を読んだ時点では離婚が成立していたかもしれない。

 そういえば、ノアは国王陛下から特別任務を命じられたと言っていた。あるいは、女性もそれに関係している人物なのだろうか。


 さらに女性には3歳の娘がいるらしい。メイはその娘がすっかり自分に懐いてくれたと嬉しそうに書いていた。

 あの小さかったメイが結婚するだけでなく親になるのかと思うと感慨深い。

 もっとも、末っ子も今では父や兄より背が高く、肩幅も広くなってしまったのだが。


 相手が既婚者だからとメイの結婚に反対するつもりはなかった。

 セアラが屋敷に住まわせることを許し、ノアが離縁のために動いているなら、人物は確かだろう。

 公爵家の次男でありながらドレス職人になったメイなら、どんな女性を結婚相手に選んでも不思議はないと思っていた。年齢や身分の差があっても、婚姻歴があっても。




 とりあえず、タズルナにいる間に娘たちにはメイが結婚することを伝えておいた。

 だが、セディにそれを告げたのはタズルナからエルウェズに戻る旅の最終日、馬車がもうすぐ都に入るという頃になってからだった。


 メイが結婚を決めた。相手には娘がいる。ふたりもメイと一緒に屋敷で私たちを出迎えてくれる。

 セディはそれを聞いた途端、固まってしまった。


「大丈夫かな。僕、メイのお嫁さんと仲良くできるかな」


「大丈夫よ。メイもあなたが仲良くなれないような相手を選ばないわ」


「お母様の仰るとおりですわ、お父様」


 メリーが力強く同意してくれた。


 セディはこうなるとわかっていたから私はここまで黙っていたのだが、もう少し先のほうがよかったかもしれない。


 セディは極度の人見知りで特に女性が苦手だ。初対面ではどうしても緊張のあまり表情が消えてしまう。

 それでも子どもの頃に私が言った「公爵家の人間らしく相手を真っ直ぐ見て堂々としていろ」という言葉を守っているのだが、綺麗な顔立ちのせいでセディのことをよく知らない相手からは冷たく見えてしまうらしい。

 私からすれば、今だに天使のように可愛い夫なのだけれど。


 それはともかく、1度親しくなってしまえば問題はない。

 セアラのことなど、会った翌日には実の娘同様に扱っていた。


 セディの人見知りに関する詳しい事情はノアにしか話していないのだが、他の子どもたちも父親の性質はよく理解してくれている。


 アリスも子どもの頃はセディに似た性格だったのに、結婚して母親になったことでずいぶん強くなったようだ。

 今は落ち着いた様子でルーカスにメイのことを話していた。


「それに、ほら、女の子の孫が増えるのよ。ドレスを選べるの楽しみでしょう?」


 私が言うと、セディの目が少しだけ輝いた。


「メイ、僕にも選ばせてくれるかな?」


「くれるわよ」


 メルとロッティの子は娘ふたりなので、セディはエルウェズから孫のためのお土産にドレスを持っていき、タズルナ滞在中にもあちらの国の店でドレスを買ってあげていた。

 ロッティからは多すぎると苦情も出たが。


 対して、エルウェズにいる孫は男の子が4人で、女の子はソフィアひとりだけ。

 だから、夏に生まれる予定のノア夫婦の3番めの子が「女の子だといいな」とセディはしょっちゅう口にしている。

 もっとも、娘たちの妊娠がわかるたびに同じようなことを言っていて、いざ生まれたのが男の子でも目に入れても痛くないくらいには可愛がってきたのだけれど。


「メイのお嫁さんも良い娘だといいな」


 不安いっぱいの顔で呟くセディの手をしっかりと握った。


「セディ、私たちの息子を信じましょう」


 窓の向こうに懐かしい我が家が見えてきた。

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