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挿話10

 部屋を出ると、廊下の少し先をネリーと並んで歩くクレアの後ろ姿が見えた。


「クレア」


 僕が呼びかけるとクレアはすぐに振り向いた。


「メイ」


 こちらへと駆けてきたクレアを抱き上げる。


「おかあさまがいないの」


 今にも涙が溢れ落ちそうな目で見つめられて、ついさっきまでこの上なく浮かれていたことに罪悪感を覚えた。


 だって、昨夜のパティはものすごく可愛いかったんだよ。

 口づけを知らなかったことから想像していた以上に無垢で、僕の言動1つ1つに戸惑ったり驚いたりしながらも素直に反応して、甘い声で僕の名前を呼んでは縋りついてくるものだから、僕は何度理性が飛びそうになったか。

 無理はさせたくなかったのに1度で収まらなかったうえ、もう少しで朝から貪るところだった。


 いや、口にできない言い訳を並べるより、今はクレアだ。

 客間に戻ったらお母様の姿がなくて、どんなに不安だっただろう。


 クレアを追ってきたネリーはホッとした様子だった。

 多分、ネリーはパティが僕と一緒にいることを知っていたもののクレアにそれを告げることはできず、苦肉の策としてクレアを僕の部屋の近くまで連れて来たのだろう。

 実際、クレアに部屋に突入されていたら、ちょっと困った状況になっていたはずだ。


「ごめん、クレア。お母様はメイの部屋にいるんだ」


「ほんと?」


 クレアが僕の部屋の扉を見つめた。

 抱き上げていなかったら真っ直ぐ飛び込んでいただろうが、まだ拙い。


「うん。でも今はぐっすり寝てるから、起きるまでメイと一緒に待ってよう?」


 クレアは少し考える顔をしてから、コクリと頷いた。


 何となく、パティとクレアが初めてこの屋敷に来た日を思い出した。

 居間で眠ってしまったパティを抱き上げて客間まで運んだことを。

 昨夜、あの日以来で抱き上げたパティは少し体重が増えたみたいだった。肌や髪の色艶は見違えるほど良くなっていて、どこもかしこも綺麗だった。


「よし。じゃあ、今日はメイとお着替えしようか」


「メイ、できるの?」


「できるよ。何と言っても、メイはクレアのお父様だからね」


 そう言うと、クレアは恥ずかしそうに僕の首にしがみついた。

 その可愛らしい仕草にさっきのパティを思い出して、母娘だなあと思う。


 ネリーにパティのことを頼んでから、客間へと歩き出した。


 ふと、他の部屋にもクレアの声は聞こえただろうかと考えた。僕はともかく、パティは気にするに違いない。

 アリスとコリン夫婦の部屋は僕の隣だけど、コリンはもう仕事をしているはずだ。

 ノアたちの部屋は階段を挟んで反対側にあるし、ノアや子どもたちはそう簡単に起きないから、聞いたとしてもセアラだけだな。


「おとうさま」


「何?」


「どうしておかあさまはおとうさまのおへやでねてるの?」


 やっぱり来たか。さて、何て答えよう。


「実は、お母様とお父様は一緒に寝るものなんだよ」


「そうなの? じゃあ、もうクレアはおかあさまとねたらだめなの?」


 クレアの顔が翳った。

 僕は物心ついた頃にはひとりで寝ていたけれど、たまに母上と父上に挟まれて寝た時は嬉しかったな。


「もちろん、そんなことないよ。そうだ。今夜はクレアとお母様とお父様と、3人で寝ようか?」


「うん」


 クレアの無邪気な笑顔が、今の僕には眩しかった。

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