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挿話7

 会議室を出ると、衛兵に囲まれて男が立っていた。

 あれがローガン次期侯爵か。

 何だか想像していたよりも小柄で、気の弱そうな男だ。まあ、人は見かけによらないものだけど。


 僕の視線に気づいたのか、ローガン次期侯爵も僕を見て顔を顰めた。

 母親と同じように「この低俗そうな男は誰だ」なんて考えているに違いない。


 室内からの合図で扉が開き、ローガン次期侯爵は会議室へと消えた。

 今この時、パトリシアさんの隣にいてあげられないことがもどかしく悔しかった。


 パトリシアさんと一緒に王宮まで来ても部屋には入れられないと、ノアに言われていた。

 僕は確かに部外者だし、宮廷人でもないのだから仕方ないと納得はしている。

 無理に居座ればパトリシアさんの不利益になりかねない。

 ノアを信じて任せるしかない。




 事前に教えてもらった隣の小部屋に入ると、中には予定外の先客がいて壁に貼り付くように立っていた。何も知らない人が見れば不自然なことこの上ない。


「アル、何でいるの?」


 振り向いたアルが笑顔を浮かべた。


「やあ、久しぶり。ノアのやり方を見学しようと思ってさ。本当は父上の名代として会議室に入れてもらいたかったんだけど、それは断られたんだ」


 アルの父上が僕の再従兄になるけれど、アルが僕の1つ上と歳が近くて、親戚というよりも幼馴染というのが相応しい関係だ。


 アルの傍に行くと、アルが「ここ」と壁を指差した。

 この部屋の壁には装飾に紛れて小さな穴がいくつか空いていて、隣の会議室を覗けるようになっているのだ。どういう仕掛けかわからないが、壁に近づくと話し声もよく聞こえた。

 もちろん、向こう側からは気づかれないらしい。さすが王宮。


 僕も壁の穴を覗き込んだ。

 いい大人がふたり並んで壁にへばりついてるなんて、客観的に考えれば滑稽な光景だろうな。


 ちょうどパトリシアさんが正面に見えた。いつもより固い表情で、肩も強張っている。

 手前にローガン侯爵夫妻の後ろ姿、右手にノアとふたりの部下、左手に次期侯爵と衛兵たちだ。


 ノアは屋敷にいる時とはまったく違う顔をして、得られた情報を精査して導き出した結論を淡々と並べていく。

 さらにはパトリシアさんが望んだ離縁も向こうから言い出したこととして成立させてしまった。


「やっぱりノアは絶対に敵に回したくないな」


 アルの呟きに苦笑した。


「ノアだってアルと敵対する予定はないよ。ああ見えて、面倒な事はできるだけ避ける人だし」


 そう言いつつ、僕もノアが兄で良かったと心から思う。

 もちろん兄弟で争うなんていくらでもある話だけど、僕にそんなつもりはさらさらない。


「それにしてもあの男、自分が罪を犯したってことが本当にわかってないみたいだな。母親はわかっていても認めたくないから、どうにかして悪いのはパトリシアかシェリルだってことにしたいんだろうけど」


「ノアに通用するはずないのに」


「でも、最悪なのはローガン侯爵か。まるで他人事の顔でさ。そもそも苦手なことには背を向けて構わないって身をもって息子に教えていたのは自分なのに」


「だね」


 結局のところ、ローガン家の元凶は侯爵だ。あの人になら妻子を別の方向に導くことも可能だったはず。

 今回のことでローガン侯爵も罰を受けるのだろうが、まさに自業自得でしかない。

 もちろん、侯爵夫人や子息も気の毒になんて思えない。パトリシアさんを傷つけた人たちを僕が許すことは決してない。


 僕たちの父上は苦手なことだらけだけど、そこから逃げたりなんかしなかった。母上に助けられながら、きちんと公爵としての責任を果たしていた。

 そんな父上だから、あのノアも尊敬している。


 まあ、父上は結婚は自分の望む相手としたし、母上とは今だに仲の良い夫婦のまま。

 そこはノアも同じだから、敢えて侯爵にそのあたりの説教めいたことは言わないのだろう。


 ふいに扉がノックされた。

 姿を見せたのは義兄上だった。やや緊張した面持ちの宮廷人をふたり伴っている。


「殿下もおいででしたか」


 義兄上がアルに丁寧に礼をすると、後ろのふたりも続いた。


「ここでは形式ばったことは必要ないから、私のことは気にせず進めてくれ」


 アルの言葉に頷いてから、義兄上が僕を見た。


「メイ、連れて来たよ。こちらがパトリシア嬢の父上のオーティス伯爵と弟のスコットだ。あれが先ほど話したコーウェン公爵弟のメイナードです」


 オーティス伯爵も子息も、ローガン家の人たちと違って穏やかそうな方たちだった。いかにもパトリシアさんの家族という感じで安心した。

 だけど、パトリシアさんの父上を前にしていると思うとちょっとドキドキもする。普段は緊張なんかすることないのに。

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