時の旅人との出会い
懐かしい学校への通学路。いぶきの実家からは歩いて15分位だ。一人暮らしを始めてからは一度も行っていない。その道をゆうひと一緒に歩いている。夢のようだ。何度も思い出した風景の中に俺は今いる。この瞬間を焼き付けようと思った。未練を残さないように。そう考えているとゆうひがあっ・・と突然声をあげた。
どうしたゆうひ?と問いかける。
「ジャージ忘れた。体育忘れてた。」
「まじ?どうする?」
ゆうひはもともと病弱なため体育はいつも見学だった。そのためジャージは必須アイテムだ。
「取りに戻るからいーくん先に行ってて。」
「いやそんなわけにいかないだろ。俺のジャージでよかったら、取りにいってくるよ?」
「いーくんのジャージ!!!でも悪いよ。」
「いーよ別に。」
「そう?じゃあ私がいーくんのジャージ取りに行ってくるから、この先の公園で待っててよ。」
「大丈夫か?」
「うん!!ありがとう。待っててすぐとってくるから。」
「ああ。」
そういうとゆうひは俺の家へと踵を返すのだった。
ゆうひと別れ俺は少し先にある公園へよ向かった。そのときどこからかさみしげなメロディーにのせられた歌声が聞こえてきた。五十歳くらいだろうか。白髪が交じりはじめた髪を肩あたりまで乱雑に伸ばし、ミラー付きのサングラスをして、ギター片手に歌っている男性がいた。聞いている人は誰もいなかった。だが何故だか勝手に足が進んだ。
「♪君が隣にいる環境が 当たり前だと思ってた
心の落ち着きが永遠だと感じてた
失った途端 崩れていく マイワールド
抱いた夢も 築いた努力も 今はもうどうでもいいんだ
君のいない世界はこんなにも退屈で 鬱屈で
気づいたんだそう僕は
ただ君に恋してたー♪ 愛してたー♪」
ポロッ
何故だかわからないがいぶきの瞳から涙が流れた。
「ジャカジャカジャーン」
終わりを告げるギターをかき鳴らす音。静寂に包まれる環境。パチパチパチパチ考えるより先に手が動いていた。
「ありがとーう。」
決めポーズを決めそう伝えるギタリスト。
「あの・・・なんだかすごくよかったです。なんか心にしみました。お名前は何というのですか?」
「そうかい。俺の歌が俺の思いが届いたんだね・・・・・・。名前はんーすまない。芸名は持ってないんだ。そうだな時の旅人とでも呼んでくれ。」
「時の旅人ですか。かっこいいですね。応援してます!頑張ってください!」
「ありがとう。でもかっこよくなんてないさ。僕は時の旅人 時を彷徨う者さ。」
そういうとギターをケースにしまい始める。そのときふと俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「いーくんおまたせ。」
その声をきき視線を移す。せわしなさそうに走ってくるのは俺の家に体育着を取りに行ったゆうひだ。
「おう。」
「こんなところでなんで立ってるの?」
「いや歌を聴いてて。」
「歌?だれのー?」
「いやここにいる人の。」
そういい視線を時の旅人さんに戻す。しかしそこには誰もいなかった。
「あれ?」
「そんなことより急ごう学校はやく行かなきゃはじまっちゃうよ。」
「おおう・・・。そうだな・・・。」
きっと帰ったのだろう。今度会ったときはゆうひにも教えてあげよう。そう思い学校へと足を向けるいぶきだった。
「悪いね。彼女に会うわけにはいかないんだ。」
そう言い木々に隠れ二人の登校姿を見つめる時の旅人だった。