タイムリープそして鍵との出会い
いぶきは手にのせた五粒の睡眠薬を勢いよく口に放り込み、水で流しこんだ。朦朧とする意識の中いぶきは最愛の人。自分が救えなかった人。どんなときも励ましてくれた人。かけがえのない人へと思いを馳せるのだった。
「待ってろゆうひ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その一言を最後にいぶきは意識を落とすのだった。
「起きて・・・・起きなさい・・・・・・・・・」
どこからともなくそんな女性の声が聞こえてくる。その声はどこか強くどこか優しかった。
「んんぅぅ・・・・・・・・」
目をこする。だんだんと開けていく視界。そこには、いぶきが今まで見た中で一番美しいといえるような夕焼けが広がっていた。
「ここはどこだ?確か俺は・・・・・・」
「ここはあなたの精神世界よ。」
そこには黒いフードをかぶった女らしき一人の影があった。
「精神世界?お前は誰なんだ。」
「私は・・・・・・そうねあなたの鍵とでも名乗っておこうかしら。」
「鍵?ていうかそもそも俺は死んだのか。」
「まだよ。ここは精神世界。外との時間は隔離されてるわ。だから現実世界では今は時間が進んでいない。だから、戻ろうとすれば戻れるわ。」
「・・・・・・・戻る気はない。俺はゆうひに会いに行くんだ。それにもう未練はない。」
「そう。意思は変わらないのね・・・・・。あなたは夢を叶えないまま死んでしまっていいの?高山ゆうひに誓ったのではないの?」
「なんでお前がそのことを知ってんだよ。」
「私はあなたの鍵よ。あなたのことはなんでも知っているわ。」
「チッ」
いぶきは苛つように舌打ちをするのだった。
「とにかくあなたには過去に戻って私の、鍵の欠片を探してきてもらうわ。」
「鍵?なにそれ?」
「あなたは成長する過程で鍵を失ったわ。だからそう育ってしまった。本来ならば夢を追いかけていたはずなのに・・。」
「そんなこと・・・・・・」
「高山ゆうひに会いたいのでしょう。過去に戻して会わせてあげるわ。それにこのまま死んだところであの世では決して会えないわ。それは紛れもない事実。あの世はあなたたちが思っているほど単純な世界ではないの。あの世とは生命の始まりと終わりの場所。終わりを迎えた生命は浄化され新しく生まれ変わる。その過程で記憶も消えるわ。それは永遠に続く自然の理。もしかしたら高山ゆうひはもう生まれ変わっているかもしれないわ。」
「まじかよ。死んでも会えないとか。俺は何のために死んだんだ。ゆうひ会いてえよ・・・どこにいるんだよ・・・・」
「これでわかった?あなたには、鍵の欠片を過去を通して探すか、あの世へ行って新しく生まれ変わるかよ。その際にあなたの記憶は消えるわ。さぁ決断しなさい。」
「ゆうひとの記憶もか・・・・・。一つ質問いいか。」
「ええどうぞ。」
「仮に過去を体験するとして体験したあとはどうなるんだ。」
「もう一度選択する権利を与えるわ生きるも良し死んでも良しよ。」
「そうか・・・・・。」
「どうするの?」
「よし。決めた。俺は過去を体験するよ。もしかしたらゆうひを救えるかもしれないし。」
「そう・・・・・・・・・。じゃあ過去へ戻って鍵を探してきなさい。」
「ああ」
徐々にいぶきの体が白い光に包まれる。
あなたに希望の光があらんことを。薄っすらそんな声が聞こえた気がした。