九話
九話目です。どぞ。
「さっきから気になっていたんですが、そちらのお嬢さんはどなたでしょうか?失礼でなければ伺ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いません。そこにいるのはエリュー=ヴァン=ホープマンです。私の孫娘でね。今は、先ほどの襲撃で気絶してしまいましたが」
俺は其れを聞くと、少し驚いた。苗字があるということは、貴族を意味する。
「貴族様…ですか?」
「だからといって、急にかしこまらないでください。貴方は我が家の恩人ですから。あぁ、名乗り遅れましたが、私はオース=ヴァン=ホープマンです。ホープマン家の当主をやっていましたが、今は家督を息子に継いでいます」
俺は、貴族があることを聞くと、ワクワクした。ファンタジー感すげぇなんて思ってしまったのはついで。
「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」
そう言って、軽くお辞儀をした。すると、オースは俺の行動に一瞬戸惑ったが、すぐに納得した。
「あぁ、オミン殿は東国連合がご出身でしたな」
(あぁ、お辞儀って、あんまりしないんだっけ、西洋じゃ。西洋?まぁいっか)
「これは失礼しました。いつものくせが出てしまいました」
「いえ、いいですよ。こういう異文化に触れるのも不思議なので、むしろ楽しいものですよ」
オースは軽く笑いながらそう言ってくれた。
(しかし、東国連合か。お辞儀やら、苗字やら、結構元の世界のアジア圏に似てるな)
すると、
「うぅん…」
という、小さな声が聞こえてきた。どうやら、気絶していたお嬢さんの目が覚めたらしい。子供らしく、小さな手で目を擦りながら起き上がると、俺に気づいたらしい。まだ眠そうな目でこっちを見てきた。すると、お嬢さんが口を開く。
「…おじちゃん誰?」
(お、おじちゃん…)
26歳でおじちゃんと言われた俺は、かなりショックを受けた。いや、26歳っておじちゃんなのか?
「エ、エリュー、こちらは先ほどの襲撃で我々を助けてくださった、オミン殿です」
オースも少し慌てている。さすがに開口一番でおじちゃんと言ったのは予想外だったのだろう。
「オミン殿、失礼しました。エリューが…」
「いや、いいんです。軍で結構苦労したので、顔も老けてしまったのでしょう…」
俺は、オースの言葉を、泣きそうにながら返した。そこで、オースに事情を聞かれ、やっと状況が理解できたエリューは慌てて姿勢を正した。
「こ、これは失礼しました!恩人に向かっておじちゃんなんて、どうかお許しください!」
「いえ、いいです。もう気にしていないです。大丈夫です。あはは…」
絶対大丈夫じゃない口調、声、顔で言葉を交わした。
「ちなみに、聞かせてもらえませんか?エリュー様は自分が何歳に見えますか?」
エリューは小さく口を開いた。
「…三十代後半かと」
俺は再びショックを受けた。
「い、一応オース様にも聞きましょう」
「…30ではないでしょうか」
(うっ…)
痛い。なんでだろう、すごく痛い。
「正解は26歳でした、ハハ、ハ…」
俺の言葉に、馬車の中には気まずい空気と沈黙が訪れた。
誤字脱字、間違い等ございましたら、教えていただけば幸いです。
________________________________________
令和二年師走五日:編集前の原稿を上げてしまっていたことを今更気づいてしまいました…すみません。