最終話 真実
霧の中を歩く。
俺の意識とは、関係なく、レイナの後ろについていく、俺の体。
だが、口だけは、自分の意識で、動く。
「レイナ、あの人を助けてやってくれ」
「もう食べ終わったみたいだし、もう、遅いよ」
レイナは、そう言い、指を差した。
「ほら、魔物達が、帰っていく」
そう指を差した、先には、狼のような、黒い獣が、走っていた。
一瞬、姿が、見え、霧の中に消えていった。
あの魔物、どこかで、見覚えが……
頭が、痛い。
これは、俺の記憶!?
そうだ!?
「思い出した!」
俺は、あのモンスターに殺されたんだ。
アリーシャを守って、それで、首を噛まれて、死んだ。
「アリーシャ……」
アリーシャは、村に来た、旅人で、俺たちは、恋に落ちた。
そして、俺と結婚を誓いあった。
「あの女のこと、思い出したんだ、お兄ちゃん」
レイナは、足を止めた。
「アリーシャのことか?」
「お兄ちゃんの中から、消したはずなのに、しつこい女」
「なにを言っているんだ、レイナ……」
「なにって、あのアリーシャとかいう、泥棒女のことよ?」
「おまえ、アリーシャになにか、したのか?」
「あの女を殺すように、私が、モンスターに命令したのよ」
「えっ……」
「ついでに、村の奴らも、モンスターの餌にしてやった」
レイナが犯人……?
「なにを言ってるんだ、レイナ……」
「お兄ちゃんが、あの女と結婚式をあげるというから、村の人間ごと、殺してやったの」
まさか、そんな……
「でも、お兄ちゃんだけは、殺しちゃ、だめって、命令してたんだよ、なのに、モンスターが、勝手に殺しちゃって、やっぱ獣は、だめだね、スケルトンのほうが、従順でいいよ」
「レイナ、それで、アリーシャは……?」
「うん、モンスターに食べさしたよ」
「食べさした?」
アリーシャをレイナが……!?
「なんで、そんなことをしたんだ、レイナ!」
ひどすぎる。
「なんでって、お兄ちゃんが、いけないんだよ」
「俺が?」
「昔、私と結婚してくれるって言ってたのに、あんな他所者なんかと、結婚するとか、言っちゃって、私の気持ちを考えもしないで!」
「それは……」
「村の人に聞いても、兄弟は、結婚できないって言うんだ、そんなこと言う奴らは、死んで当然だよ」
「人には、ルールと言うものが、あるんだ、レイナ」
「なら、私達は、もう人じゃないから、大丈夫だね」
どうしたら、わかってくれるんだ、レイナ。
「そうだ、帰ったら、結婚式をあげよう、それで、一緒に、新しい家で、暮らそう、お兄ちゃん」
「俺の心は、アリーシャのものだ」
「また、あの女の名前……」
レイナは、頭を抱えた。
そして、いつもの笑顔をこちらに向けた。
「大丈夫、お兄ちゃん、また、私が、忘れさせてあげるから」
「忘れさせる!?」
どういうことだ?
「また、頭を開いて、脳みそ、少し、取り出して、いじって、忘れてもらうよ」
「なに!?」
「大丈夫、今度は、ちゃんと、忘れるように、完璧にやるから」
レイナは、そう言うと、また、歩きだした。
俺の体も、それに続くように、勝手に歩きだす。
このまま、いけば、永遠と、俺は、レイナと共に、暮らすことになるだろう。
死ぬことも、できない。
逃げることも、できない。
もう、俺には、どうすることも、できないようだ……




