発明品の効果
定年を迎えた初老の男がいた。それまで仕事に向けていた時間を、男は趣味の発明に費やした。結婚をしているわけでもないので、妻や子供はおらず、ずっと独り身。よって誰かに口やかましく、金や時間の使い方の文句を言われる事もない。
男は何かにとりつかれた様に発明に没頭し、数年の歳月を経て、ある発明品を作り上げた。
そんな出来事をどこで聞きつけたのか、テレビ局や新聞社のマスコミ、野次馬までが男の許を訪れ、人だかりで辺りはごった返している。
そこへ男が姿を現して言った。
「やあやあ皆さん、本日は私の発明完成披露会にようこそお越しくださいました。そしてこれが、私の開発した発明品です」
と、男は様々なボタンやダイヤル、メーターの付いた、ティッシュ箱ほどの大きさの、銀色の装置を取り出して見せた。
それを見た一人の記者が質問した。
「一体それはどのような装置なのでしょう」
しかし男は、はやる記者を制し、満足げに説明した。
「実は、もう既に装置は作動しており、効果は証明されています」
人々は訳がわからない様子で顔を見合わせた。男は構わず続けた。
「私は誰一人にも装置の完成を伝えておりませんでしたが、このように沢山の方々が集まってくださいました。この装置は、言うなれば集客装置。人々を集める装置です。独り身が長く、寂しい思いからこの装置を作った次第で…」