「枷」
男主人公、現代、学校、部活動、全年齢
奏 翠
男。中学2年生。主人公。バスケ部所属。
僕には重すぎたんだ。先輩や顧問の先生は僕に期待をかけてくれるけれど、その期待は足枷にしかならない。僕には才能なんてなければ素質だってない。それに、失敗をバネに成功を生み出すなんてそんな綺麗事を成せる程図太くはない。···うん、そうなのだろう。内申のためなんて理由で軽はずみに入ったところから誤っていたんだ。心の底からやりたい訳じゃないのに続けられるわけが無い。バスケ部に決めたのも特に深い理由はない。唯一バスケなら少しだけやっていたから。けれど、すぐに辞めてしまったから、ほぼ未経験の様なものだ。別に、仲間が嫌いな訳では無いし、いじめられている訳でも無い。まあ、自分が受動的なために別段仲が良い訳でも無いが。むしろ、楽しくやっている。だが、あくまでも仲間と過ごす事が楽しいだけであって、バスケは負にしか成りえていない。そもそも、僕はひとつの事にのめり込めるような人間ではない。そもそも部活という物が性に合わないのだろう。
今は、2年生一学期が始まる直前の春休みだ。今が丁度いい。退部しよう。一年続けたんだ。良い切れ目だろう?毎年、1年生は任意で入部届け、2、3年生は継続、転部、退部届けのいずれかを出すことになっている。出すのは継続届けではなく、退部届けだ。仲間は驚くかもしれないが、決めたのだから仕方ない。
新学期、継続届ではなく退部届けを握り締めて顧問の元へ向かった。
「奏さん?どういうことですか?」
予想通り過ぎて反吐が出るような返しだ。
「部活というものが合いませんでした。」
「仲間に迷惑がかかるとは思わないんですか?」
こいつ、パワハラで訴えてやろうか。勝手だろうが。そんなことは心の奥底に押し込めて。
「それは重々承知の上です。仲間に迷惑をかけてしまうけれど、部活を枷にして過ごすのは仲間にもっと迷惑をかけるだろうし、失礼だと思いました。」
「結局は自分勝手なだけなんだよ?」
まあ、普通は継続届けが出されるのが常識だ。反感を買うのは予想外でない。ところでお前は反感を買ったからには口論を売らなきゃダメなのか。
「自分勝手なのも分かっています。今言った通り。」
「辞め癖が付きますよ?」
「一つの事に打ち込むのが美徳だと誰が決めたんです?」
「でも転々とするのは安定が得られないじゃない。」
「それも1つの生き方です。というか論点をすり替えないでください?」
「じゃあ、入部した時の決意はどうしたの?」
切り札か?切り札なら残酷なまでに切り捨ててやろうか。
「仲間と共に困難な状況を打破し、全国大会に進出したいっていう、あれですか?」
「そうよ?」
「普通、そんな綺麗事本気だと思います?嘘に決まってるじゃないですか。」
「はい?」
「入部の理由なんて結局“内申の為”ですよ。」
「·········辞めたらその内申は?」
「下がりますが何か。」
「何か。じゃないわよ!仲間や私、バスケを舐め腐ってんじゃないよ!」
「いちいちうるさいので早く受理して貰えます?強制退部の形でもいいですけど。」
「身勝手に始めて身勝手に辞めるなんて許されるわけないでしょうに。」
「退部届けは学校の仕組みですが。仕組みを利用しただけなんですが?何で用意されているものが使えないんです?修理中なら張り紙なりなんなり貼っといてくださいよ。」
「馬鹿にしてんの?」
「馬鹿にはしてないです。呆れてますが。」
「帰りなさい。」
「次に会うのは廊下ですれ違った時ですね。」
勢いのままバックれた。正当な手続きを踏もうとしたのに揉み消されたのだからどうにもできない。まあ、枷を外す事が出来たようだ。代償は多いけれど。
「おい翠?どこいくんだ?」
「···ここでないどこかに。」
先輩だ。会わない方が都合よかったのだが。
「どういうことだ?」
「五日後辺りにわかるんじゃないですかね。察しがよければ明日にでも。」
それだけ言い捨ててそのまま歩き去ってきてしまった。まあ、いいだろう。どうせもう行かないわけだし。
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