第5話《 選択の間》
シューティングスターの思い出話が終わると同時に、二人は光の塊に到着した。
近づいて分かったのだが、光は銀河のように渦を巻いていて、とても大きいことがわかった。その高さは百メートルはあり、幅もそれと同じくらいある。
「ここが《選択の間》の入り口ですか。とても大きいですね」
「ここには様々な魂達が通るの。これぐらい大きくないと通れない者もいるのよ」
「そんな大きい魂もあるんですか!」
「ええ。魂の大きさは生前の身体に比例するのよ。さあ入りましょう」
シューティングスターは躊躇うことなく大きな光の中に入っていく。
「ま、待ってください!」
置いていかれそうになったコウは慌てて後を追いかけた。
眩しい光を潜り抜けると、そこは今までとは打って変わった雰囲気を持つ場所だった。そこは先程のような星空の光はなく真っ暗な部屋だ。
けれども、ある光源のおかげで視界は確保されている。部屋の一番奥には複数のドアがありそれが蛍の様に周囲に光を放つ。
そのドアの前には、数百、いや数千もしかしたらそれ以上の数で長い列ができている。彼らはそのドアに入る為に待っているようだった。
コウを待っていたシューティングスターが列の一つを鼻で指し示す。
「あなたは……ほら、そこに並びなさい」
「この列に並ぶんですか?」
「ええ。そこは人間が並ぶところなの」
コウに教えると、シューティングスターはその場から離れようとする。
「どこに行くんですか?」
「私の並ぶところは、あそこ」
シューティングスターが首を向けた方にコウも目を向ける。
そこにも長い列ができていて、様々な動物達がいた。犬と猿とキジがまるで昔話の様に並んでいたりする。
ゾウは自慢の長い鼻にリスを乗せ、キリンの頭にはフクロウが止まっていた。その光景はどんな動物園でも見ることはできないだろう。
あまり動物に興味がないコウにとっても、その光景は目を奪われるものであった。
「あちらも見てご覧なさい」
コウが、夢中になっているのを見抜いたのか、シューティングスターが、さらに驚かせようと首を反対側に向ける。
「ああっ!」
コウは目を見開いて思わず声を出してしまう。
動物達が並ぶ列の反対側に別の列が出来ていたのだ。それは動くことはないと思っていた木や花といった植物達だった。
何十メートルはありそうな杉や桜の木がいて、その下にはチューリップにバラにヒマワリなどがまるで童話の様に整列している。
よく見ると木や花達は、根っこで身体を支え歩いていた。杉の木が動くたびに周りの小さい花達が、潰されない様に上手く避けていく。
「植物が動いてる……」
「彼らだって死ねば魂になるわ。そうなればここに集まり、来世をどうするか選ぶのよ」
コウは植物の列に向けていた両目を、横に来たシューティングスターの方に向けた。
「つまり《選択の間》で、次の人生が決まるんですね」
シューティングスターは問題が解けた生徒を褒める様に頷く。
「ええ。そういう事。さあ、あなたも並びなさい。そして新しい人生を迎えるの」
「はい」
シューティングスターはコウを列まで案内する。
「じゃあ、私も自分の並ぶべき列に向かうわ。あなたとはここでお別れ」
「……あの、ありがとうございました」
ここがどこかも分からない自分を、親切にここまで導いてくれた牝馬に一言お礼を言った。
「大したことはしてないわ」
シューティングスターは、返事をしてコウの元から離れようと頭を動かす。
「あ、あとひとつだけ聞きたいことがあります!」
コウは慌ててシューティングスターを引き止めていた。
「何かしら?」
再びコウの方を振り向いたシューティングスターは首をかしげる様な仕草をした。
「えっと、その……ですね」
呼び止めてから何も考えてなかったことに気づく。その間も牝馬はじっと待ってくれている。
コウにとって、目の前の牝馬の存在は、まるで迷子の時に自分を見つけてくれた母親の様な存在。 迷って泣いていた自分を見つけてくれた母親と姿を重ねていた。
けれど、甘えてばかりではよくないのは自分でも分かっている。今の彼は、あの時えんえんと泣いていた子供ではないのだ。
「生まれ変わってもし出会うことがあったら、その背中に乗せてもらってもいいですか?」
だから、再会の約束をすることにした。
「ええ、もちろん。あなたなら大歓迎よ。コウ」
シューティングスターの顔の表情は変わらないが、声音から喜んでで承諾してくれた事がわかった。もちろん生まれ変われば会える可能性はほぼないことは、お互い分かっている。
「その時までにちゃんと乗馬の勉強しておきます」
「その時を楽しみにしているわ」
シューティングスターはゆっくり頷くと自分が並ぶ列に向かって振り返り、蹄を鳴らして優雅に歩く。
フサフサの白い尻尾が左右に揺れる様は、まるでコウに手を振っている様だった。