第一巻 最終話《旅立ちの時》
「アストラ。俺のこの力は何の為にあるのか教えてくれないか?」
「はい。全てお話しします」
座り込んだフォティアの背中に向けてアストラが語りかける。
「あなたの魂には《可能性なカケラ》が刻み込まれています。それは我らの王である神王ヴァシオンの魂のカケラです」
「神王ヴァシオンの魂が俺の中に?」
「はい。貴方以外に今まで千九九九人が、その力を授かり冥王に戦いを挑みました」
「そして、みんな負けたのか」
「ええ。挑んだ者は尽く敗北しました。生き残った者もいますが、殆どは力を失っています」
「じゃあ、俺はその冥王を倒す事が目的なんだな」
「少し違います。貴方には、冥王を倒す先導役として、人々を率いて欲しいのです。炎の力はその為にあるのです」
「俺の火の力の元に仲間達が集まり、共に冥王を倒すということか……」
「はい。嘘を言ってもしょうがないので正直に言います。いくら冥王の五指を倒せる貴方でも冥王を一人では倒せません。それほどまでに強大な存在なのです」
「そうか。アストラがそこまで言うんだ。きっととんでもないやつなんだろうな。その冥王は」
アストラは何も言わずただ頷くだけだった。
「それで俺はまずどこへ向かえばいい? 恥ずかしいけど、あまり地理には詳しくないんだ」
「貴方には、いずれ残る冥王の五指の四人を倒してもらいますが、今は外の情報を得る為にもここから北にあるフラスト王国へ向かいましょう。そこできっと懐かしい出会いもあるはずです」
「懐かしい。俺が知ってる人がいるのか?」
「ええ。人ではありませんが、きっと一目見ればわかると思います」
「そうか。じゃあ、そろそろここを出る準備をするか。師匠も弔ってやらないといけないしな」
★★★★★★☆
フォティアは武器庫で持ってきた武具を身体に装着していく。
まず長ズボンとくるぶしまでのブーツを履き、上半身にはシャツとミスリルのチェインメイル。その上に様々な道具を入れるベストにコートを羽織る。
次は持っていく武器だ。結局選んだのは使いこなしたものを選んだ。
全金属製のヒーターシールド。遠距離攻撃や静かに敵を倒すのに便利なショートボウと矢筒。それを背中に背負い、左腰にはダガーをそして右腰には、コミロフから譲り受けたバスタードソード 《エンダフェア》を提げる。
そして最後に両手を保護する革製の手袋を付けて準備は完了した。
「私もついていきます」
準備を終えた彼を待っていたアストラが口を開く。
「どうやってついてくるんだ。もう力は残ってないのだろう?」
「ええ。ですからこれを身につけていてください」
アストラが手渡したのは赤いクリスタルがはまった首飾りだ。
「私がこの中に入って色々手助けします」
「この中に、入れるのか?」
「ええ。こうすればそこに入れます」
アストラの身体が光り輝いた瞬間小さな光の珠となり、首飾りのクリスタルに収まる。
「これからよろしくお願いしますね」
「ああ、宜しく頼むよ」
二人のやりとりには、最初の頃の仲の良い息子と母親のような仲睦まじまい様子は鳴りを潜め、まるで、ただ必要だがら手を組んでいるような寂しい関係となっていた。
フォティアは傍にアーメットを持って、六年間暮らしていた縦穴の洞窟を出た。
「この洞窟はどうなるんだ?」
フォティアの頭の中にアストラの声が聞こえて来る。
『私が離れる事で、結界が完全に失われ朽ち果てていくでしょう』
「そうか」
今まで住んできた綺麗な住処を脳に刻み付ける為にしっかりと記憶してからフォティアは歩き出す。
「まず先に寄りたいところがあるんだけれどいいかな」
「どこに寄るのですか?」
「ヴァイス村さ」
★★★★★★☆
フォティアがたどり着いたのは六年前に悪魔に襲撃された生まれ故郷だった。逃げてから人の手が入っておらず家も畑も荒れ放題になっていた。
以前はいた家畜の姿も、死んだのか逃げたのか分からないがいなくなっている。
誰もいない村に帰郷するのはとても胸が締め付けられる。このまま寄らずに帰ろうとも思ったが、フォティアは意を決して足を踏み入れる。
朝霧に包まれた村は、この世から音が消えたかのように静寂に包まれている。
けれども、フォティアにはこの村で生きていた人々が見えていた。
誰もやらないと嘆きながら教会を一人で掃除していた村長。
自分の方が年上になってしまったが、本当の兄のようにいつも遊んでいたヒィトと、塗るととてもしみるけどよく効く薬を出してくれた祖母のアムスタ。
そして村にとって頼もしく、いつも目標にしていた父のゼルト。夜寝る前に本を読んでくれて美味しい料理を出してくれた母のホルル。
みんな笑顔で生活していた。それを見て涙がこみ上げて来るのを必死に抑える。
村の中央の教会にたどり着いたフォティアは、現実を突きつけられる。
奥にあった女神の像は無残に砕けて、床に大量に散らばるのは無数の人骨だった。
あの悪魔に食われここに捨てられたのかと思うと、フォティアはその場に崩れ落ちそうになる。
けれど、悲しみに暮れている場合ではない。彼らを弔うことが出来るのは自分しかいないんだから。
フォティアは立ち上がり、骨をひとつずつ集めていく。誰かは判別つかない。けれど村にいた人数は覚えている。
自分を含めて三十人いた。更に父の仲間の傭兵たち、リベス、ラース、ジョイの三人を合わせて三十三人。
フォティアは三十三個の墓を作り、そこに骨を埋めていく。
「ごめんなみんな。ちょっと違う人の骨が混ざってるだろうけど許してくれよ」
最後に作った三十三個めの墓にはここまで持ってきた兜を入れた。
「コミロフ。ここにいる人たちはみんないい人だ。きっと仲良くやっていけるよ。ありがとう師匠。《エンダフェア》大切に使うから」
みんなの墓を作ったフォティアは村に戻ると右の手袋をとって、そこから炎の剣を生み出す。
「なあ、これに名前はあるのか?」
『はい。最初の短剣は 《種火の短剣》と名付けていました』
「俺が一番最初に生み出したからか?」
『それもありますし、その種火がどんどんと大きくなり人々を導く篝火となるのです』
「じゃあ今の名前は……そうだな。 《焼き尽くすもの》だ」
フォティアは炎の剣―― 《焼き尽くすもの》を家の一軒一軒にその刃を当てていく。
炎は瞬く間に家を包み、そこから逃れられない魂を浄化していくようだった。
フォティアが最後に墓の方を振り向くと、そこには両親や村のみんながいた。その中には父のパーティの傭兵たちやコミロフも一緒にいて、こっちに笑顔で手を振っている。
フォティアも涙を溜めて笑顔で手を振り返す。
「行ってきます!」
それから一度も振り返らずに、生まれ故郷を後にするのだった。
【第一巻 完】
こちらを書き忘れてました。すいません。
えっと、最後まで読んでくれた方どうもありがとうございます。
楽しんでもらえたでしょうか? つまらなかったらどうしようと思いながらこれを書いています。
今年の小説の執筆はこれで最後になると思います。年末年始は仕事が忙しく、おそらく疲労で脳味噌は麻痺して執筆は難しいと思いますので。
取り敢えず、溜まっているゲームや小説、アニメを見て癒されながら、また小説のネタを吸収していこうと思います。
次に投稿する期間は空きますが、小説は書いていきますので、皆様どうぞ次の物語もお付き合いいただくととても嬉しいです。
後、ヴェラコス神話の続編も一応考えてあるので
もし、もし読んで見たいなという人がいましたら、一言くれると嬉しいなぁ。
それでは長くなりましたのでこの辺で失礼します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
また、次の物語で会いましょう。




