第39話《結果発表》
フォティアが集合場所の木の下についた時には、もうコミロフもその場で待っていた。
「おっ、やっと来おったな。待ちくたびれたわい」
「コミロフが早すぎるんだよ。大きい獲物は獲れたの?」
「うむ。おそらくフォティアよりは大きいサイズだろうて」
「ふ〜ん。自信満々だね」
「そういうお主は如何なのだ?」
「僕だって自信あるよ。おそらく今まででいちばんの大物だったからね」
「なら、お主の獲物を先に見せてもらうとするか」
「いいよ。驚くなよ……はいっ」
フォティアが少し勿体ぶって背中に担いでいたウサギを取り出す。
「ほほおっ、中々デカイの。こりゃいい勝負になるかもしれん」
「でしょっ。ん? いい勝負?」
「ワシの一番はこいつじゃ」
コミロフが取り出したのは茶色の毛並みのウサギで、一見するとフォティアと同じくらい、いや、もしかしたら向こうの方が大きいかもしれない。
「ワシの、勝ちじゃな」
フォティアには、師匠の兜で隠れた顔が勝利を確信してニヤニヤしてるように見えた。
「むむむっ。ぼ、僕の獲物のほうが大きいに決まってる! ちゃんと測ってみようよ」
「ふむ。いいじゃろう」
二人は自分が仕留めた獲物を地面に並べると、どちらが大きいかを目を皿にして比べていく。
そして出た結論は……。
白い毛並みを持つ方が僅かに大きかった。
「これはつまり……僕の勝ち?」
「お主の勝ちじゃな。おめでとうフォティア……遂に狩りでは抜かれてしまったのう」
「よっ……しゃああぁぁぁっ!」
初めて、狩りでコミロフより大きい獲物を獲る事が出来て、嬉しさのあまりフォティアは大声で叫んだ。
その叫びは、まわりの木で一休みしていた鳥たちも逃げ出すほどだった。
「フォティア。声がでかい。森中の生き物が驚いてしまうぞ」
「ごめんごめん。だって本当に嬉しかったんだもん」
「まあ、ええわい。さて少し休憩したら、戻るとするか」
「うん。早くラトスーアにも見せてあげたいな」
木の下で一休みをしているフォティアは干し肉を齧りながら、隣で車座で座るコミロフにある疑問を投げかける。
「むぐむぐっ……ねえ、コミロフ」
「食べながら喋ると舌噛むぞ」
「そうだった……んくっ」
フォティアは口の中を水で空っぽにしてから聞きたかったことを聞くことにした。
「ぷはっ……コミロフ聞きたいことあるんだけど」
「何じゃ?」
「コミロフの胸の傷って、その天界にいた時についたもの?」
「ああ、コレか、気になるかの?」
「うん。初めて会った時から、全身はいつも綺麗なのに、その傷だけずっとそのままだからさ」
コミロフは、じっと自分の胸の傷を見つめたまま話し出す気配がない
「ごめん。その話したくなかったらいいよ」
「いや、そういうわけじゃない。お主も知っていてもいいだろ」
コミロフは自分の傷を見つめたまま、まるで思い出すようにポツリと話し始めた。
「天界という国は、一年中暖かく心地よい気候で、飢えも病もない素晴らしい場所じゃ。
そこには我々天使や、様々な神々が暮らしておった。
ワシが天界で神王を護る騎士を任された時には、長い間戦もなく平和な時間じゃった。あの時までは……」
「あの時……それって冥王が攻めて来た事?」
「そうじゃ。冥王は桁違いの強さだった。あやつ一人で、ワシら天使はもちろん、神々も次々と倒れていき、奴が歩いた後の美しかった天界は腐り果て闇に包まれておった」
「そんなに、冥王は強かったんだ」
「ああ、我々は数万年もの長い間、争いとは無縁だった。その隙を突かれて、一気に神王のおる玉座の間まで攻め込まれてしまった。
そこで奴と対面したワシは一目見て力の差を思い知らさせ動かなかった。その間に仲間の騎士たちが、目の前の佇む奴に果敢に挑み、そして散っていったよ。
……その間ワシは動くことも出来ずに、漆黒の剣を振るう冥王をただ見ていることしかできなかった!」
コミロフは拳を固く握り締めて、自分の腿を思いっきり叩きつけた。
「全員を返り討ちにした冥王は、剣を構えずにワシの元に近づくとこう尋ねて来た。『ボクが怖いの?』と。
ワシは力が抜けて持っている剣も落として、ただ頷くことしかできなかった。
答えた直後、胸に衝撃が走り、冥王の手に握られた漆黒の刀身がワシの胸から背中を貫いていた。
そして、ワシは、女神アストラ様に魂を救われてここに逃げ延びたというわけじゃ」
その話を聞いて フォティアは、コミロフの胸に出来た大きな傷を凝視する。
「その傷は直らないの?」
「無理じゃな。いくらアストラ様の力でも、ワシの魂しか救えなかった。肉体は冥王の剣に貫かれた時に、グズグズに腐り果てたのじゃよ。それを見ながらワシは一度死んだのじゃよ」
そう話していると、聞いて悲しくなったのか、青空を雲が覆い隠そうとしていた。
それを見てコミロフはこの話はおしまいと言って、立ち上がる。
「雨も降って来そうじゃし、そろそろ帰るとするかの」
「うん」
コミロフに続いてフォティアも立ち上がり、獲った獲物を背中に担ぐ。
二人は意気揚々と縦穴の洞窟の玄関口を目指すのだった。




