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第35話《訓練》

 暗い洞窟の中を一つの人魂が浮かび上がる。


  よく見るとそれは人魂ではなく、火のついた松明だ。それを持つのは白銀のガントレットで保護されたコミロフの右手だ。


  コミロフは松明の炎で後ろについてくるものを導くために洞窟を照らしながら、歩いている。


  その後ろにいるのはフォティアだ。彼は足を滑らさないように注意しながら小走りに後を追いかける。


  洞窟は中央に川が流れていて、左右の石の地面は水に濡れて、とても滑りやすい。


  更に灯りを持つコミロフが、大股でどんどん先に進んでしまうので、フォティアは足元に気をつけながら、彼の背中を追っていた。


「ここじゃ」


  どこまで進んだのだろうか。後ろを振り返っても入り口が見えないほど。そもそもまっすぐ歩いてきたのかもわからない所で、コミロフが足を止めて右側に松明をかざす。


 そうする事でフォティアにもなぜそこで止まったのか理由がわかった。


  右側の壁に人一人が通れるほどの穴が空いていたのだ。


「ここに何があるんですか?」


「入れば分かるわい」


  兜でくぐもった声はまるでおじいさんのようだが、不思議と聞き取りにくいことはなかった。


  コミロフは言葉少なにそう言うと、そのまま横穴に入る。


(一体何があるんだろう?)


  そんな事を考えていると、コミロフが横穴に入ってしまったので松明の光も隠れ、あたりが闇に包まれる。


  道を見失うのは困ると、フォティアは慌てて横穴があったと思われる場所に飛び込んだ。


  そこに入ると、そこは一つの部屋だった。


  コミロフが部屋の壁に松明を差し込んだ事で全容が明らかになる。


「武器がいっぱいある」


  そう、フォティアの素直な感想の通りその部屋に置かれていたのは剣や槍などの大量の武器だ。更に補足すると、鎧や盾などの防具も置かれている。


  コミロフは迷う事なく部屋を進んで、置かれている長持ちから松明の光を反射する何かを取り出し、それを持ったまま振り向く。


「こっちに来い。ほら別に何も怖いことはしないから」


  コミロフに対してまだ警戒心が解けないフォティアは恐る恐る近づいていく。


「これから行う鍛錬はとてもきついものだ。何故かは分かるな?」


「みんなの仇を取るためです」


「その通り。しかしお前が悪魔を倒した瞬間。お前は冥王を敵に回すことになる。それは人間にとってとても辛く長い戦いの始まりだ。恐らく死んだほうが楽と思う時もあるだろう。

  ワシはそんな状況を生き抜ける術をお前に教えるのだ。ついてこれるな? ワシはラトスーア様のようには優しくは無いぞ。途中で逃げ出せばどうなるか分かっておるな?」


  コミロフはアーメットのスリットから、フォティアを睨みつける。その目は逃げたら殺すと語っていた。


「逃げません。どんな辛い事でもやりきって見せます!」


  フォティアはその兜の奥にあるであろう目を、負けないように睨みつけて決意を表明する。


  松明の灯りの中のにらめっこに最初に折れたのはフルプレートの方だった。


「その目の光があれば、やり切れそうだな。改めて自己紹介じゃ。ワシはコミロフ。よろしくなボウズ。いやフォティア」


 コミロフが差し出した金属の手をフォティアはしっかりと握りしめた。この時、手を介してやっと気持ちが通じたような気がしたのだった。


「それでコミロフさん……」


「おっと、ワシの事は呼び捨てで構わんぞ」


「じゃあ、コミロフ。その手に持っているのは?」


「ん? おおそうだった、そうだった。忘れてたわい。年取ると物覚えが悪くてのう。ワッハッハ」


  コミロフの大声が部屋中に反響して響き渡り、フォティアは思わず耳を塞いでしまう。


「コレはの。お前に渡そうと思ってな。これからの為に必要になるだろう」


  彼が差し出したのは、小さな銀の鎖で編まれたチェインメイルだ。


  それが松明の灯りを受けて目が眩むほどの眩い輝きを放つ。


「これをぼくにですか? 受け取ってもいいんですか?」


「構わん。これは唯のチェインメイルでは無いぞ。ホレ服の上でいいから着てみるのじゃ」


  半ば無理やり押し付けられたチェインメイルを手に取るフォティア。


  着てみると予想よりも少し小さく、首を通してからが苦労したが、なんとか着る事に成功する。


  銀のチェインメイルは半袖のシャツ型で首元から腹部までを守る。袖は二の腕までを守る長さだ。


「どうじゃ、着心地は?」


「ちょっとキツイかな」

「まあ、最初はそうじゃろう。もう少し待っておれ。ほら始まったぞ」


(何が始まったんだろう)


  そう思った途端、フォティアの視界の下が輝き出す。


「な、何が……」


  驚くフォティアの目の前で、チェインメイルの鎖ひとつひとつに彫られたルーンが輝き始めた。


  暫くしてから輝きが収まった頃。フォティアは着ているチェインメイルに違和感を感じた。


「あれ? キツくない? すごいぴったりとしている」


  何とチェインメイルが、自らフォティアの体型にジャストフィットするようにサイズを調整したのだ。


「その輪っかひとつひとつに彫られているルーンは着用者の身体にフィットするように出来ているのじゃ。だからお前の成長に合わせると同時に、チェインメイルも大きさを変えていくのじゃよ」


「へえ〜。凄いや!」


「うむ。それだけじゃ無いぞ。その金属はミスリルというとても希少なものだ。例え巨人に踏み潰されても無事じゃろうて」


「は、はあっ。凄いんですね」


  フォティアの頭の中で巨人が想像つかなかったが、とりあえず今着ているものは凄いんだなという事は伝わって来た。


「さて、そろそろ最初の訓練を始めるとするか」


「はい。お願いします」


  コミロフは一振りの剣を右手に取り、もう片方の手には槍のような木の棒を持っていた。


「これを使え」


  そう言って投げて渡したのは、木の棒の方だった。


「わっ、とっ! これは……槍?」


  コミロフは剣を左手に持ち替えて、松明を取ると、ついて来いと言って部屋を出てしまう。


  フォティアは自分の身長よりも長い棒を抱えるように後を追った。


★★★★★★★


「ここで、するんですか?」


「そうだ。何か問題があるかの?」


  フォティアの声は恐怖で震えているのに、対照的にコミロフは冷静そのものだった。


「も、問題だらけだよ! こんなところで訓練なんて!」


  抗議するフォティアの声と同じ様に橋の上に立つ彼の両足は生まれたての子鹿みたいに震えていた。


  彼らが立つのは、天井の穴と流れる川の中間に位置する手摺のない石の橋だった。


  幅は人一人分しかなく、少しでもバランスを崩したら、落ちて川の水を真っ赤に染める事は十歳の彼でも容易に想像できた。


「訓練は基本的にここでするぞ。高いところは苦手か?」


「いや、そこまで苦手じゃないですけど……」


  フォティアはちらりと下を覗き込む。すると吸い込まれそうな錯覚を覚えたので、慌てて視線を前に戻した。


「やっぱり怖いです」


「素直でよろしい。下手に嘘をついても自分のためにはならないからな。

  お主が落ちたら死ぬと感じる恐怖は実戦で言えば敵に負けて死ぬかもしれないという恐怖と同じだと思え。

  実戦では毎回その感覚がお前につきまとってくるということを忘れるな」


「は、はい!」


コミロフは基礎的な武器の構え方、歩法、間合いの取り方などを教えていく。


「どうだ。ある程度は覚えたかな?」


「な、何とか……」


「ならば実践してみるとするか。さあ、ワシに打ち込んで来い」


「えっ。もうですか」


まだ武器の扱いを習って一時間も経っていない。


「もう一時間も経ったんだぞ。時間は無限ではない。実際に動いてみて身体に覚えこませるんだ」


「わ、分かりました。行きます! ええい!」


フォティアは覚えたての構えで槍を持ち、まっすぐコミロフの胸を狙って突く。


コミロフはそれをわずかに状態を動かすことで交わし、同時に脇で棒を挟み込む。


武器を封じられて動きの止まったフォティアを引っ張り、バランスを崩して引き倒した。


「イッタ〜」


思いっきり顔をぶつけたフォティアの鼻から一筋の赤い筋が流れていた。


「ふむふむ。勢いはいいぞ。ほら一回で終わりではないぞ。どんどん突いてくるのじゃ」


「はい!」


コミロフから木の棒を受け取って鼻血を拭うと、後者にいる恐怖を押さえつけてコミロフに突きを繰り出す。


その夜。フォティアは仰向けに大の字になって寝ていたが眠ることができなかった。


何故なら、全身の筋肉痛がフォティアの安眠を妨げていたからだ。

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