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第25話《仲間》

「父さん。今の話は一体何なの? ねえ教えてよ! 何で話してくれないの!」


  フォティアの叫びに、両親は顔を伏せて何も言わない。


「父さん。一体村で何がおきてるの? 村の人の姿がどんどん消えてるってどういう事? ヒィト兄ちゃんは一体どこに行っちゃったんだよ!」


  声が枯れるのも構わず叫んでも、両親はやはり何も言わない。


「一体、どうしちゃったの? 僕の誕生日会を開いた時はみんなあんな笑顔で楽しそうだったのに、何で、何でその次の日からこんなおかしな事になっちゃうんだよ!」


  大声を出したフォティアは咳き込みながら、涙をポロポロと流す。


  そんな息子の姿を見兼ねて、ゼルトが頭に手を伸ばすが、フォティアはその手を避けた。


「フォティア……」


「答えてよ。父さん。村で何がおきてるの。僕は何で外に出ちゃいけないの? 教えてよ!」


「それは……むっ?」


  父が何かを言おうとした時、不意に居間の一角に目を向ける。微かに鎧窓の外から何かが当たっている音が聞こえたからだ。


「あなた。どうしたんですか?」


「静かに……」


  妻の言葉を指を口に当てて遮ると、音の正体を見極めようと聞き耳を立てる。


  ホルルはフォティアを庇うように寄り添うと二人は口をつぐんで、ゼルトの行動を見守る。


  ゼルトは、一週間前から家の中でもずっと腰に提げている剣の柄に手をかけて、鎧窓まで近づく。


  先程から、小さくも一定のリズムで窓の外を何かが叩きつづけていた。


  ゼルトは鎧窓のそばまで来ると、小さく呼びかける。


「誰だ?」


「ゼルト。リベスだよ」


  窓の外から聞こえてきたのはゼルトのよく知る無機質な女性の声だった。


「リベス。お前なのか?」


「うん。ラースとジョイも一緒」


「そうか。話しは後だ家に入れ。今扉を……」


「開けなくても大丈夫」


  リベスの気配が一瞬にして消え、直後フォティアの後ろから声が聞こえて来る。


「失礼」


  三人が振り向くと、そこには暗い緑のクロークを纏い、フードを被った無表情の女性が立っていた。


  扉も窓も全て閉まっているはずなのに、この女性はどこから入ってきたのか。訳のわからないフォティアとホルルは開いた口が塞がらなかった。


「ゼルト。二人は口を大きく開けてどうしたの? あくび? 眠いの?」


  リベスは自分の所為で二人が驚いてることに気づいていない。


「リベス。お前が突然背後に現れたんだ。二人が驚くのも無理ないだろ」


  この場で冷静なのは、頭を抱えたゼルトだけだった。


「そう……驚かせてごめん」


  驚いている二人と頭を抱えるゼルトを見て、リベスは何かを察したようで三人に深く頭を下げた。


「あの、あなた。こちらの方が……」


  やっとショックから立ち直ったホルルが夫に問い掛ける。


「ああ、紹介が遅れたな。話したことがあると思うが改めて。彼女はリベス。俺と同じ傭兵でパーティを組んで一緒に仕事をしている」


「リベス。ゼルトとパーティ組んでる。よろしく」


  リベスは自己紹介をして小さく会釈する。


「夫と同じ職業の方ですね。私は妻のホルル。こちらは息子のフォティアです。ほらフォティア。挨拶して」


  人見知りのフォティアは小さくぺこりと頭を下げただけだった。


「ホルルにフォティア……二人ともよろしく」


  ずっと無表情だったリベスが、フォティアに向かって柔らかく微笑む。


  そのおかげでフォティアの絡まった緊張の糸も解けていく。


「こ、こんにちは。えっと、リ、リベスお姉ちゃん」


「ん。こんにちは」


「リベス」


  ゼルトに呼ばれ、リベスは振り向きと同時に微笑みを顔から消して元の無表情に戻る。


「何」


「ラースとジョイも近くにいるんだろう。家に呼んでくれ」


「忘れてた。今呼ぶ」


  そう言ってリベスは近くの鎧窓に近寄り、口笛を短く一つ吹いた。


  すると返事代わりの短い口笛が聞こえ、近くの家の影から二人の男性が現れると、そのまま鎧窓から家の中に入って来た。


「窓から失礼しまーす」


  最初に入ってきたの細身の若者で、腰にはショートソードとバックラー。背中には短弓と矢筒を背負ったチェインメイルを着ている。


「ととっ……失礼するぞ」


  くぐもった声を出した二人目は窓につっかえるほどの大男で、頭には鉄仮面を被った異様な風貌で剥き出しの両腕からは鎧のような太い筋肉がのぞいている。

 

手には柄の長いメイスを持ち、背中にはタワーシールドを背負っていた。


「わっ……!」


  また新たに二人。特に鉄仮面で顔を隠している男に驚いて、フォティアはホルルの後ろに隠れてしまう。


「ラース。お前のせいで怖がってるぞ。少し下がれよ」


「す、すまん」


  短弓を持った男性に腹を小突かれて、ラストと呼ばれた鉄仮面は自分の後頭部に手を置いて下がる。


「ラース! ジョイ! 二人とも元気そうだな」


  ゼルトはジョイと呼ばれた短弓の男の元に近づき握手する。


「こっちの若いのはジョイ。あっちの仮面の大男はラースだ。彼女は俺の妻のホルル。そして息子のフォティアだ」


「オレはジョイ。弓の扱いはパーティ一番だぜ。二人共よろしく!」


「俺はラース……フォティア。驚かせてすまなかった。これは顔の傷跡を隠すためなんだ」


「う、うん」


  謝罪するラースを母の背中から見ていたフォティアは仮面の奥の優しい瞳に気づいた。


「ラースさんにジョイさん。二人とも夫と同じ傭兵の方なのですね」


「そうだ。リベスを含めた三人が俺の傭兵仲間だ」


  ゼルトと三人は、お互い信頼しきった眼差しを交差させ、リベスが口を開いた。


「ゼルト。この村で何が起きてる? 詳しく教えて」


「今から話す。ホルル。フォティアと遊んでやってくれ」


★★★★★★★

 

  二人が席を外した居間のテーブルにゼルトを上座として、傭兵三人が席に着く。


  最初に口火を切ったのはリベスだ。


「ゼルト。異変の原因教えて。あなた達以外、人っ子一人いなかった」


「その前に一つ教えてくれ。この霧の中を通ってきたのか?」


「うん? そうだけど……」


  ゼルトの疑問に「なんでそんな事を聞くの?」と面妖な表情で首をかしげる。

 

  リベスの代わりに答えたのはこの中で最年少のジョイだ。


「オレたちが馬車でこの村の前に来たら、物凄い霧が村を包み込んでいてな。それで俺は何かおかしいと思って二人を率いて来たら、案の定、中で異変が起きていたという事さ」


  ジョイは大仰な身振り手振りで話していく。


「最初に村に入る提案をしたのはリベスだ」


 パーティの最年長であるラースが冷静に突っ込む。


「おい! そこは言わなくてもいいだろ」


  ジョイが指を指すが、ラースはどこ吹く風だった。


「話を戻すぞ。それで霧の中には何もいないんだな」


  ゼルトの質問に三人は頷き、今度はリベスが答える。


「何もいない。リベス達はなんの障害もなく入れた。そんなに重要な事?」


「くそっ!」


  ゼルトは大声を出し頭を抱えてうずくまる。


「ど、どうしたの? 大丈夫?」


  助けようと立ち上がるリベスを手で制して、ゼルトは頭を上げた。


「ああ、大丈夫だ。みんな俺の話を聞いてくれ」


  ゼルトが村に来た魔物。そして受け入れた提案のことを三人に全て話した。


  話が終わった時には居間は、重苦しい沈黙に包まれていた。


「なんて奴だ! 最低のクソ野郎が」」


  ジョイは強い口調で罵り、テーブルに拳を打ち付ける。


「ジョイに同意する。早くそいつを倒すべきだ」

 

  ラースは腕を組みながら、ジョイの言葉に頷いていた。


「あなたは何も悪くない。悪いのはアディヒラスという魔物。二人のためにも早く殺しましょう」


  リベスはゼルトを慰めるように肩に手を置いて、部屋にいるホルルとフォティアの方を見る。


「すまないリベス」


「謝らないで。それでどうやって殺すの?」


「オレも手伝うぜ。ゼルト」


  ジョイが自分に指を向け、ラースも何も言わずに頷いて同意する。


「いいのか? 死ぬ可能性は今までで一番高いぞ」


「俺たちの仕事は死と隣り合わせ。今頃怖いことなどない」


  ラースは鉄仮面の奥にある優しい瞳でゼルトを見つめる。


「たとえ成功しても、一銭の稼ぎにもならないんだ。それでもいいのかジョイ」


「おいおい。オレは確かに稼ぐ為にこの仕事を続けているが、今回はあんたの為だ。例え赤字になってもやってやるよ。

だがそうだな。もし報酬を出してくれるなら……あんたが自慢してたホルルさんの手料理食べさせてくれよ」


「俺もそれでいい」


「リベスもそれで充分」


「ありがとう、ありがとな。みんな」


  ゼルトは目頭を拭うと、一度三人を見回してから、アディヒラス討伐の作戦を伝えるのだった。

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