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第2話 《そこは彼の知らない場所》

  コウは夢を見ていた。その内容は家族四人で生活している夢だ。


  彼にはスポーツが得意な妹。そして小説家の父とイラストレーターの母がいた。父が書くのは決まってファンタジー物で、イラストレーターの母はその挿絵を担当していた。


  コウは幼い頃から両親の作り上げた物語に夢中になり、いつか自分も、お姫様をを救う騎士や、魔王を倒す勇者になりたいと思っていた。


  小学生の時。その話を妹に話すと、彼女はそんなことできっこないよとコウに釘を刺した。それを聞いた彼は大喧嘩してしばらく口をきかなかった。それぐらい幻想世界(ファンタジー)という存在は彼の心の中を大きく占めていた。


  もちろん中学高校に入る頃にはそんな事は物語の中だけで、現実には叶えられない事は嫌という程痛感した。


  だからこそ、彼は父と同じ小説家になろうと決心した。幸い両親からは反対派されなかった。

 

まずネット小説から始め、出来上がった作品を新人賞に応募してプロの作家になってやる。そう意気込んでいた。

 

  勿論、ラノベやアニメの主人公のように一発で大賞は取れなかったけど、彼はあきらめる事なく新しい物語を書き続けていた。


  高校生として勉強しながら、小説を書く生活をしていたある時、偶然にも自分がファンの作品のサイン本を見つけて、衝動的に買いに出掛け電車を待っていたのだが……。


「……なさい。起きなさい」


  コウの人生という名の夢はそこで唐突に終わった。


  コウが女性の声に起こされ目を開けると、そこは満天の星空だった。けど何かが違う。目の前に広がる星々は、いつも見ていた光景と違っていた。


マンションの窓から見る夜空は人口の明かりで殆んど星など見えることはなかった。


  けれど今いる場所は、見渡す限りの星空は手を伸ばせば届きそうなほどで、何千万という宝石が光を放っている。


  けどそこには、自分が知っている星座は一つもなく、ましてや夜の空に浮かぶはずの月の影も形もない。


「ここはどこだ?」


  自分が仰向けになっていた事に気づいたコウは起き上がり辺りを見回してみると、頭上だけでなく、左右の黒い壁一面にも無数の星々が輝いていた。


「わっ!」


  コウは下に目を向けて見て、思わず声が出てしまった。自分の足元には星の海が流れていたからだ。一瞬落ちるかと思ったて心臓が口から出そうになったが、そんな事はなくコウはその場で立ち上がることができた。


  何度か床を足で叩いてみると、星の海の上に透明なガラス板がありその上に立っているような感覚を覚える。


「ここは一体どこなんだ?」


  周りには人っ子一人おらず、コウの疑問に答えるものはいなかった。こんな所でひとりぼっちだと思うと、途端に心が冷えてくるのを感じた。


「誰か、誰かいませんかー!」


コウが発した声は星空の中でこだまし、やがて消えていく。


  人生で一度も出したことのない大きな声を出して呼びかけてみるが、何も反応は帰ってこない。それでも諦めずに誰かが答えてくれることを期待して何度も呼びかける。


「あの、誰かいませんかー!」


「どうしたの? そんな大きな声を出して?」


  彼の呼びかけが聞こえたのか、背後から女性に声をかけられた。


  例え知らない人でも答えてくれる人がいると分かって、コウの心はポカポカと暖かくなっていく。


「よかった。実は聞きたいことがあって……えっと?」


  後ろを振り向いたコウは口を開けたまま固まってしまう。人間の女性だと思っていた声の主が想像と違い、石像のように固まってしまう。


「何が聞きたいの? 人間の少年」


  彼の目の前にいたのは、人の言葉を話す牝馬だった。

 

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