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第14話《彼は兄のような存在》

「ほら。外は晴れてますよ。遊んでらっしゃい」


「うん。いってきまーす」


  顔を洗い。朝ごはんを食べて身体に力をみなぎらせたフォティアは、風邪をひかないように厚着をして隣の家に向かう。


「兄ちゃん。ヒィト兄ちゃん。起きてる?」


  家の前に立ち、フォティアは大声で中にいるであろう家の主の名前を呼ぶ。


中から大きな声が聞こえてくる。


「今行くから!ちょっと待ってろー!」


フォティアも中に届くように口元に手を当てて大声で返事する。


「うん! 分かったー!」


  フォティアが待っていると、目の前で扉が開き、彼より背の高い少年だった。


「おはよう。ヒィト兄ちゃん」


  家から出てきたのは茶色の髪をツンツンと尖らせた緑の瞳を持つ少年であった。


  彼はヒィト。フォティアより五歳年上の十五歳で、村で一番歳が近いこともあって、兄弟のように毎日遊んでいた。


「お早う。フォティア。今日は一段と元気な気がするんだが? 俺の気のせいか」


「当たり前じゃん。今日は僕の誕生日だよ! 忘れたのヒィト兄ちゃん」


  そう言ってフォティアは胸を張って、フンスと鼻を鳴らす。


「……あはは。忘れてないよ。今日はお前の誕生日。おめでとうフォティア!」


  ヒィトはフォティアの黒髪をワシャワシャと撫でながら八重歯を見せて笑っていた。


  しかし、フォティアの次の一言で、その笑顔も凍りつく。


「兄ちゃん。忘れてたでしょ?」


  ヒィトは頭に手を置いたまま固まり、何かを考え込んでいるようだった。そして何かを思いついたようで、再び笑顔を見える。


  先ほどよりはかなり硬い笑顔だったが。


「フフフ。コノ俺ガ忘レルワケナイダロウ」


  そう言うヒィトの顔は冷や汗ダラダラである。


「忘れてたんだ?」


「ハイ。スイマセン。ゴメンナサイ」


  フォティアの視線(プレッシャー)に耐えられなくなって、ヒィトはその場で土下座するのだった。


「許してくれよ。フォティア」



「怒ってないよ。ただ兄ちゃんが忘れてるのがショックだっただけ」


「それは怒ってるんじゃないのかな」


  フォティアの後をヒィトが後を追いかける形で、二人は近くにある川に向かって歩いていた。


  ヒィトは二本の釣竿を肩に掲げている。それを持って川に行くのはもちろん魚を釣るためだ。


魚釣りは彼の特技であり趣味でもある。


  川に向かうまでに村人たちがフォティアに声をかけて来る。この村には、子供はヒィトを除くと、フォティア一人しかいない。なので皆んなは彼のことを実の息子のように慕っていた。


  川についた二人は釣り針の先端に餌となる虫をつけて、水中に投げ込む。


  二人が無言で、魚が餌に食いつくのを待つ間、聞こえて来るのは、近くで洗濯しながら団欒する女性たちの賑やかな声や、木の葉が風で揺れる音と川のせせらぎだけだった。


  フォティアは川縁に立って、ヒィトは隣であぐらをかいて、魚を待つ。


  ふとヒィトが口を開いた。


「フォティアが十歳になったって事は、後二ヶ月で俺も十六だな」


  十六歳はこの世界の成人の年齢である。フォティアはそこで、彼の将来の夢を思い出した。


「兄ちゃん。やっぱり村を出て行くの?」


  ヒィトの夢は、小さい頃から一つ。傭兵となる事である。その為に十六歳になったら、村を出て王国にある傭兵ギルドに行くと決めていた。


「ああ、もう決めた事だからな。お前の父ちゃんのような立派な傭兵になってやるぜ。おっ! かかった」


  持っている釣竿に手応えを感じて、引き上げるヒィト。川から上げた釣り糸の先端には、一匹の魚がいた。


「そうなると、当分は兄ちゃんと会えないのかぁ……」


  フォティアは寂しそうな目で、川を見つめている。


「おい。そんな顔するなよ。来年のお前の誕生日には一度帰って来るからよ」


  ヒィトはポンポンとフォティアの頭を優しく叩く。


「うん。兄ちゃんいないと魚釣れる人いないからね。ちゃんと帰ってきてよ」


「あっ。そういう事ですか……」


  それから暫く、二人は何も言わずに魚を釣り上げた。帰る頃にはヒィトの籠は満杯だったが、フォティアの籠は空っぽだった。これはいつもの事である。


  家に帰ったフォティア達は川から釣った戦利品を母のホルルに渡すと、ヒィトと一緒にお昼を食べてから、また外に遊びに出るのだった。

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