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第13話《フォティア 十歳の誕生日》

 ヴェラコス大陸の南東は、深い森と大小様々な川が流れる場所だ。その中でも一番大きい川を囲むようにできた街こそがフラスト王国だ。


  城壁内部の限られた面積で人が住む為に、細く高くなる家が多い城下町は、東から西に川が横断するように流れ、更に南北を貫くように街道が通っている。


  左右を森に囲まれた街道を南に降り、徒歩なら数日、馬があれば一日ほどの所で、東に向かう小道が現れる。


  馬車一台がやっと通れるそこを歩くと、周りを森に囲まれた小さな村にたどり着く。


  広場の中央には、この村の象徴とも言える石造りの教会があり、そこに寄り添うように建てられた家は、殆どが藁葺き屋根と土の壁で出来ている。


  その藁葺き屋根の家の中でも、一回り大きい家はこの村の村長が住んでいて、教会の管理も行なっていた。


  村人達は、朝日が昇ると同時に目覚め、各々の仕事に精を出す。男性達は農具を持って畑を耕し、女性達は近くを流れる川に集まり、洗濯物をしながら談笑する。


  小川には水車小屋がひとつ建っていて、川の流れを利用して村人が収穫した作物などを加工する場所として用いられていた。


  そんな特に大きな出来事もないく、貧しいけれど平和な村。


  その村にある一つの家で、みんなが起きているのに、まだ健やかな寝息を立てて眠る少年がいた。


「ぼうや。ぼうや起きなさい」


「うーん……」


「いつまで寝ているの? もうお日様はとっくに起きていますよ」


「う、うーん。起きるよ〜」


  わらのベッドで眠る少年が、母に起こされて、眠そうな目をこすりながら上半身を起こす。


「起きましたか?」


  寝癖で母譲りの黒髪が爆発している少年は両目をぐしぐしこすりながらうーうー、と唸り声を上げる。


「ほらほら、そんな力一杯こすったら赤くなってしまいますよ」


  少年は近づいてきた母に窘められて、黒い瞳をこするのをやめる


「だってー、まだ眠いんだもん」


  ぼー、と覚醒しきっていない少年は薄く目を開けて母に抗議する。


「昨日早く寝なさいって言ったのに、遅くまで起きていたのは、誰だったかしら?」


「ううっ」


  少年は昨日の母の言いつけを守らないで怒られた事を思い出した。


「でも、今日の事を考えたら、胸がドキドキして眠れなかったんだよ」


  今日は少年の十歳の誕生日。一年に一回訪れるこの日は彼にとって歳をひとつ重ねる以上に意味がある事だった。


「母さん。今日、父さん帰ってくるんだよね? 」


「ええ。今日中に帰ってくる予定よ。だって、ぼうやの誕生日ですもの。今頃こっちに向かっていますよ」


  少年には傭兵の父がいる。毎年、春から夏まで傭兵として王国に出稼ぎしていて、冬、正確には少年の誕生日にたくさんの土産を持って帰ってくるのだ。


「今年は何をくれるのかな?」


  少年は、今まで貰った物を思い出す。正義の英雄が活躍する絵本や、木を削って作ったおもちゃの剣。


  今年は一体、何がもらえるのかと少年の胸は期待でいっぱいだった。


「さあ、ぼうや。お父さんが帰ってくるんだから、そんな頭のままでいいの? 顔を洗って来るついでに直してきなさい」


  少年は自分の頭を触って、やっと髪の毛が暴れまわっていることに気がつく。


「はーい。母さん。それと、僕もう十歳になるんだから、ぼうやじゃなくて、名前で呼んで欲しいな」


「あら。一人で起きれないような子はまだまだ、ぼうやです。フォティアって呼んでほしかったら、一人で起きる努力をしましょうね」


「……はーい。顔洗ってきます」


  子供ながらに母に勝てない事を悟り、少年、フォティアはほっぺを膨らませながら、ベッドから抜け出す。


「顔洗ったら、朝ごはんにしましょうね」


  母の朝ごはんという言葉を聞いて、返事の代わりに少年のお腹がぐう〜と音を立てるのだった。

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