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シスエン~妹怨~  作者: 遥風 かずら
超え始めた域
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7.就職、そして再会。


 俺は懲りずに御手洗のいる大学へ来ていた。奴はどうやら、ここではイケメン准教授として人気があるらしく、そしてそれなりに人望があるみたいだった。奴からもらったボロいスーツで俺も頑張って格好つけながら、奴の元へ近付いた。


「お久しぶりですね、御手洗さん。ご機嫌いかがでしょうか? よろしければわたくしめとお話を、男子トイレの空間でお話頂けませんか」


「……なんでお前がここにいる? 二度と来るなと言っただろうが!」


「お言葉が悪うございますね。どなたかと勘違いをされておられる……ほら、お連れの方々が驚いていらっしゃいますよ?」


「あの、御手洗先生? そちらの方はどなたなんですか?」


 御手洗と一緒にいる数人の学生たちと、女性達が不安げに奴の顔と俺の格好をチラチラと見ている。奴は笑顔で学生たちに手を振りながら学生たちを向こう側へ追い払ったようだ。


 微妙にプルプルと体を震わせながら。なんだ? 寒いのか。それともやはりトイレに行きたいのか。


「どこまでも気に入らない犬野郎だ。トイレに行かなくてもここでいい。要件は何だ? 早く言え」

 

「友達なのに随分ひどい物言いをされますな。それでも余裕あるイケメンですか? ……で、要件だけど8年前にここであった話を聞かせてくれないか? 何でもいいんだお前が知ってることを全部聞きたい。頼む!」


「8年? そういやお前……少し若く見える気がするが、何かやばいもんに手を出したんじゃないよな? 一日か二日で若返るとかあり得ないしな。それで? 何が聞きたい?」


 さすがに大学いるだけあって鋭い洞察力してやがるな。少し若返っただけなのに気付いたのか。


「寧々子。俺の彼女だった子のこと、話したよな? 彼女の家は俺の家の近所でパン屋をしていたはずなんだ。お前、何か知らないか? 商店街の中か、もしくはこの近くにパン屋があればその場所を知りたい!」


 御手洗が言うには俺らの地域に個人経営のパン屋はないそうだ。大体スーパーで買えるからな。何よりも個人でやってたなら情報くらい入って来る。寧々子の住んでる所は誰も知らないという。住所とかは普通、卒業生名簿で分かるはずなのにだ。だからなのか御手洗は寧々子の名前を聞いてもよく思い出せなかったようだ。


「俺は確かに彼女と付き合っていたぞ。それも小さい頃から知ってたし、あの子との出会いはおつかい頼まれて迷いに迷った挙句の店先に、可愛い子がいてな。そこがたまたまパン屋で毎日通って……」


「ん? 迷いに迷った? ガキの頃にか。……化かされたんじゃないのか? そこにパン屋なんて無かった。だが、そう思い込みつつその可愛い子に会うために通った。っていうオチだろ……」


 えーー? んなアホな。いや、だって大学では公認のカップルで、帰りも一緒に歩いてて……んん?


 何が何やら分からん。何年も眠っていたから余計に分からんぞ……いや、しかし妹たちは実際出てくるしな。よく分からないが、それについては深く考えるのをやめよう。


 考えた所で何も変わらねえし。何にしてもとりあえずアイドルってのがキーワードだしな。まずはそこに行く為の努力をしてみるか。


「そうか、分かった。時間取らせて悪かったな、男子トイレよ。ちと、俺は仕事見つけてくるわ。ありがとな」


「あ、あぁ。あだ名はマジでやめろ。お前のスーツはお古だから仕方ないが、今度来るときは身なりを何とかしてから来い。そうじゃないと俺との関係を怪しまれてしまう」


「お。今度は来るなとか言わないんだな。それは良かった。あぁ、そうだ。今度お前と会うときなんだが、多分、学生に戻ってるはずだから驚かないでくれよ? じゃあな!」


 俺がそう言うと、御手洗は眉をひそめながらやはり二度と来るな。なんてほざいていた。そしてようやく俺は行動を起こし、面接に行った。しかしあっさりと落ちてしまった。


 何でだーーー!!! お古が行けなかったのか? それとも態度か? うぅ……これでは進めない。こうなれば禁じ手だが、能力に頼るか。鈴音……お前の能力ちからを借りるよ。


 落ちたはずの面接は受かるように改変し、ついでに入れる予定の無かった寮にも入ることが出来た。やり方としてはズルいかもだが、俺は2つ目の能力を活かさせてもらった。残念ながら顔最強! は使い物にならん。これで俺はめでたく警備員となり、そこの寮に入居することも決まった。


 寮に入れたことは俺にしては幸いにして、賢い判断だった。なんせ、これからの戦いは俺の体力だけでなく、精神にも影響があるはずだからだ。何より、寝る場所が確保されたのはデカい。

 

 寮に入ることになり、特に何も持ち物の無い俺はすぐに部屋に案内された。部屋に入るとすでに入居している奴がいた。もの凄く興味が無いが、一応、挨拶をしなければな。


「新しく入りました、中 犬人です。よろしくでーーす」


「中の人が犬? ぶっは! ウケる。あぁ、俺、佐保さぼ 理馬りま。俺の事は適当に呼んでいいぜ。中の人さん」


 何だこの年下野郎。お前も名前がアレじゃないか! サボり魔? そっちの方がやばいな。ってことは、こいつは間違いなく仕事をサボるんだな。俺はそうはいかねえ。早いとこ上の奴に覚えられて、アイドルの警備に行けるようにしないとな。


「よ、よろしく……サボり魔って……くくっ、お前も人のこと言えないだろ」


「な、何だ!? コイツ俺の名前に受けてやがんのか。気に入らねえ奴だな……」


 などと俺に聞こえるように呟いているみたいだが、コイツに構う余裕はない。まぁどうでもいい男と同室になったが、正直仕事もどうでもいいが、コイツもどうでもいい。


 妹たちが出てきやすそうな警備しごとを選んだだけだ。目的が成されるまでは辛抱してやる……


 翌日、俺は新人として自己紹介をすることになった――


「よろしくお願いシマス。ガンバリマス」


「声がちいさーーーい!! 何だそのやる気のない挨拶は!」


「は、はいっ! 了解ですっ!!! サーイエッサー!」


 それは違う挨拶だろ。しかしまるで鬼軍曹の様な顔つきをしてるものだから、自動的にそんな言葉が出てしまったな。映画の見すぎなんだなきっと。


「俺は九頭くずだ。お前の上司として鍛えてやる。だから早く現場に出してやるぞ!」


 は? クズ? 何だここの奴らは。名前がおかしい奴しか存在しないのか? 俺の名前の方がよほどまともじゃないか。……ん? あぁ、女の警備もいるのか。名前は、い、妹……だと!?


「よろしくお願いします。なかさん。おいくつですか?」


「え、あ~今の時点では28です。えっと、妹をよろしくさん?」


「ふふっ面白い人ですね。よく言われるんですけど、私は妹尾せのお 志久しくです。読み方が難しくてごめんなさい。これからよろしくお願いしますね、中さん」

 

 なるほど。この女性の中の人は妹ではないのか……それはつまらんな。さすがに俺から女性の年齢は聞けないが、もちろん興味なぞない。とりあえず俺の上司はクズ野郎らしいし、こいつの元でのし上がってやるぜ!


 警備になってから早、半年くらい経った。この間、出る要素がないのか、妹たちは全く出て来ていない。もっとも、俺は歳を取らないのでいつ出て来てもいいわけなんだが……。


 もちろん、この間に講習やら何やらを受けて、そこそこの体力がつき、武道術や護身術の類は出来るようになった。しかし新たな問題が出て来ていた。何故か知らんが、同僚の女警備に気に入られていて、ものすごく話しかけられていた。


「それで、中さんは年下好きなんです? 年上です?」


 年下一択……いや、妹一択なんだがどう言えばいいんだ。俺に興味を持ったところで残念ですが、何も起こりませんよ? まして、妹尾さんは問題外……いや、対象外です。だなんて言えねえーーー


「あはは……何て言えばいいんですかね。自分より年下の子がいい、です」


 さぁ、どう答えて来る? これでこの偽妹せのおさんが上か下か分かる。


「そうなんですね。それじゃあ、私、中さんの範囲内です。きっと! ……よかった」


 なにっ? 範囲内……だと? ってことは今の俺は28だからそれよりは下か。しかし、どの道無理だな。偽妹さん、あなたが気になっている目の前の俺は本当は20歳なんですよ? 


 あなたはきっと俺より上。いや、上になってしまうでしょ……うぅっ、ごめんなさい。無理です。


「そ、そうですか。それは良かったですね……」


 てか、サボり魔とかクズにしとけよ。俺は駄目だぞ? 妹しか愛せないんだぞ? 姉は駄目だ。


「はいっ!! 中さん、これからもお仕事頑張りましょうね!」


「そうですね。はは……」


 あぁ、妹不足だ。明らかに俺の中の妹萌え成分が無くなってきているぞ。基本、ここには野郎しかいないし、偽妹さんしかいない。


 いつになったらそれらしい現場に行けるのか……。今度こそ凡人らしからぬ能力を身に着けて使えるようにならないとタダの警備員で終わってしまう。何よりも20歳に戻れないではないか。


 と、日に日に萌え要素の無くなりつつあった俺に、クズ隊長から指令が下った。アイドルライブの警備現場に行くことがついに、決まった。実は警備になってからすでに1年が経っていた。俺の歳は28歳のまま変わっていない。


 面接で落ちた動機がアイドルの警備に行きたいから。ってことが原因で俺は面接で落とされたらしいが、俺は能力のおかげで採用された。だが、動機の内容だけは変わることなく、それでずっとそういう現場には行かせなかったということらしい。ちくしょう……もしやサボり魔がバラしやがったのか? いや、奴はすでに仕事をやめたしな。奴はサボり魔どころか勝手に消えて行ったな。


 となれば、これも何かの念で邪魔されているのかもしれないな。俺も妹たちも時は動かないわけだから、アイドル……寧々子のいる現場には行かせないような力が働いていたに違いない。


 俺は念願のアイドル警備の現場に来ることが出来た。……が、何故だ。何故、夜中だよちくしょう。

夜中に警備って、あれだ工事現場の人間とか、電気関係の人間しかいないじゃないかよ。


 ……で、俺がいる場所はと言えば、関係者が1時間に一人通るか通らないかの通路の前だ。その入口付近に、適当なパイプ椅子を置いて座ったり立ったりを繰り返している。


「ふざけんな! 昼間に警備させろよ~~……しかもアイドルたちをさぁ。別にここに俺がいなくてもいいじゃん。いなくていいじゃないかーーー」


 と、一人でブツブツと愚痴りながらボーっと警備をしている。くそ~まだ夜11時だよ。誰かとくだらねえことでも話をしていれば時間が経つのも早いし、ゲームとかしててもあっという間に夜中になったりするものだが……まるで時計が動いてないんじゃないか? と思う位に一人で警備というのは、時の流れを遅く感じてしまう。


 立っていてもマジで人が来る気配が無く、ほとんど座りながら警備をしていたらいつの間にか眠っていたようだ。


「……ハッ!? むっ? 今は昼か? 夜か??」


 長いこと夜中ばかりの現場にいると、今が昼の3時なのか、真夜中の3時なのか分からなくなる時がある。まさに今、それに陥っている。寝惚けていたこともあって、俺の脳は勝手に昼間と認識した。

 寝起きで瞼も重く、視界もぼんやりしていた。そんな時だった。


 分からんが、気配を感じる。うーーん? ん? 女の子……か?


 そうか、やはり今は昼間の3時だな。深夜に女の子がいるわけないもんな~~なんて、思っているとトコトコと俺の近くを女の子が歩いている。コスプレ? しのびっぽい衣装を着ているようだが。


 あぁ、そうか。この後きっと、ライブがあるんだな。うんうん、警備のやりがいがあるものだな。

 見た感じは15歳くらいか? それにしてはちっさくて可愛い女の子に見えるな。それにしても、なぜこの子は控室に向かわないのだろう? もしかして迷っているのか。声をかけづらくて俺の近くを歩いているのかな。そうか……それならば、俺の出番だな!そこの……あら?


 俺が声をかけようとしたら、小走りで通路の奥へ向かい出した女の子。そうか、場所が分かったんだなと、思っていたが、その子の足が止まり、振り向いて俺に声をかけてきた。


「……お兄ちゃん、来ないの?」


「えっ? も、もしかして妹……か?」


「置いて行くよ? 木葉このはが犬人お兄ちゃんを倒してあげるのに……早く、来て」


「このはちゃんか。コスプレじゃなくてマジで忍とかじゃないだろうな? だとしたらそれはいつの怨みだよ! って話だが……」


 ようやく会えた3人目の妹。当然だが、俺はこの子の言葉通りに後ろから追いかけた。今の時点ではもちろん、俺に勝ち目はない。だが、何かしらやり方があるはずだ。凡人でもやる時はやってやるぜ! そして能力を頂いて、強くなって見せる。俺は、このはちゃんの後を追いかけながら、勝利することを疑わずに、ひたすら追いかけた。


 辿り着いたのは、ライブ会場ではなく外だった。ここは工事現場の重機が置いてあって、コンクリもあれば、鉄骨置き場なんかもあった。何よりも、ライブ会場の近くには海があった。むぅ、意外に危ない場所だな。どうするか……なんて、思っていると海に近い所でもう一人の妹がそこに立っていた。


 な!? う、嘘だろ? このはちゃんだけじゃなくてもう1人? 何てことだよ……1年ぶりに妹たちと再会してバトルが始まりそうだってのに、2人って……。

 

3人目の木葉ちゃん、4人目の女の子を前にして立ち尽すしかなかった――

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