6.鈴音転生(りんねてんせい)
うーーん……女の子が俺を呼んでいる。しかし、よりにもよっててっぺんとかマジで勘弁……
そもそもどうやってあんな所に登ったんだ? 観覧車のてっぺんなんて係員でも無理だろ。恐らくだが、あの子が2人目の妹なんだろうなぁ……いくら運動神経のない俺でもあそこまで登るのは出来るぞ。ただ、出来るとしても現状体力に自信はないと断言できる!
もしあの高さから落ちたらさすがに大怪我ってレベルじゃ済まされないだろ……しかし行くしかないんだろうな。お兄ちゃんとして見過ごせないからな!
気付いていないか分からないけど、あの子のスカートが風になびいて輝く白さが目に映ってるわけなんだが。教えるべきか!? いや、ここは黙っておこう。
「来ない、の……?」
「い、行きます行きます! しばらくお待ちください」
まずは、鉄骨の骨からか。しかしどこから登ればいいんだ?
ギイィ……迷っていたら関係者以外立ち入り禁止と書かれた鉄扉が、まるで俺を誘うように勝手に開いた。はいはい、分かりましたよ。行けばいいんでしょ? 行きますよ。
……はぁはぁはぁ……ふぅふぅはぁ……最初こそ階段状だったのに、途中から梯子とかシャレになってない! これって絶対、作業員以外入っちゃいけない場所だろ~……
年齢の問題とかではなくて、運動神経は元から最悪だった俺。どう考えても登り切るのは無理だし無謀だった。梯子の部分に差し掛かったが半分位しか登っていない。よし、諦めよう!
それに今の俺は顔だけが最強! 一部分しか無敵じゃない。つまり結局は平凡なままだ。せめて基礎体力が上がってればよかったんだがな~
「てっぺんにいる女の子~~ごめん! 俺には絶対無理!! 君は妹だと思うけどそこに行くのは諦めるよ……ごめんよぉぉ!! 弱いお兄ちゃんを許してくれ~~」
上で俺が来るのを待っている女の子に向けて、俺はあきらめの宣言をした! 許してくれ。
「……わん君……」
むぅ? ここからじゃ表情は見えないが、きっと残念がってるよな。くっ……妹を泣かせるなんて……
だが、無理なものは無理なんです。せめて下に降りて来てくれればな~~。
――って、えっ……? 上にいたはずの女の子が見当たらない。いないぞ、どこ行ったんだ? ま、まさか落ちたんじゃ?
「うわあああああ!! 俺は、俺はなんてことをををを……ううううう……」
その場で蹲る俺。さすがに今度こそは本当に涙が零れ落ちた。
「……どうしたの? わん君……」
「俺のせいで女の子が落ち……あれ? き、君、さっきまで上にいたはずじゃ……? な、なんで……」
「鈴音は転生したの。落ちても何度でも転生。安心?」
「うぉい! というか、君らはそもそもそういう存在だよなぁ。俺は何て学習能力が無いんだ――」
「わん君。遊ぼ!」
「へっ? あ、遊ぶ? 俺を襲って苦しめるんじゃないの?」
身長の小さなこの子、りんねちゃんは、何故か俺に遊ぶ要求をしてきた。そういや、俺が寧々子に出会う前に近所の公園で一緒に遊んでた女の子がいたなぁ。面影が似てるような気がしないでもない。しかし、出会う前ってことは妹と関係ないはずなんだが。この子は誰で一体何なんだ?
「ここ、楽しい」
「う、うん。そうだよね……遊ぼうか。あは……あはははは……」
俺はりんねちゃんと遊園地の中にあるあらゆる遊具と、勝手に操作したスリル溢れるコースターと、てっぺんまで登れなかった観覧車に普通に乗って楽しんだ。何だか久しぶりに子供に戻ったような、そんな感覚で楽しめた。
辺りはすっかり真っ暗で、俺とりんねちゃんしかいないので照明もついていない。これはこれでイイ。
「わん君。覚えて……る?」
「うん? 何が…?」
「あの日も、こうして……遊んだよ」
あの日か。いつだ、いつの妹だ……ん? そういやこの子、俺のことをわん君って呼んでるが、自然に聞いてるし違和感が無いな。何かを思い出しそうだが――
「……これで思い出す……?」
りんねちゃんは俺の頭に手を置いた。も、もしかして叩かれるのか? また痛い目に合うのか……そう思っていたが……。
「なでなでなでなで……」
こ、これは!? ま、まさしく犬が喜ぶ伝説の頭なで! の人バージョン!? 思わずキューンと鳴きそうになったぞ。だから俺は犬じゃない! ちくしょう何度俺自身に言い聞かせてきたと思ってるんだ。
「わん君……」
鈴音は俺の頭を撫でながら、そのまま俺を抱き寄せた。この子は敵で、妹で、俺を襲うんじゃないのか? なんでこう、安心を覚えるのだろうな。癒し系、か。
「む……うむむぅ~~元から無かったが俺から闘争心が消えていく……なんて気持ちいいんだ」
この手の感触にどこかで覚えが……夕方の公園? 女の子? 鈴の音……あぁ、そう言えばあの頃の俺は泣き虫だったな。運動神経なさすぎて滑り台で何度も着地に失敗して泣きまくってたな。その時もこうして頭をなでられたような気がする。うーーん……しかし、思い出せん。
「わたしとわん君は幼馴染。キミが覚えてないのは枷のせい」
「幼馴染か。たぶん、そうだろうとは思うが……何か知らんが思い出せん。ごめん」
「ううん、いい。わたしが覚えていれば。最後に会えて嬉しい……」
「君が、俺に会いに来れたのは……その、すでに俺と会えない……世界にいるからだな」
りんねちゃんは静かに頷いた。そうか、この子は今回の妹たちとは違う、幼い頃に出会った子だったのか。しかしそれならなぜ妹として現れることが出来たんだ? 少なくとも俺に対する何かしらの想いが無ければ……感情の揺れか? 憐れみと情けをかけられたから、か。たぶんそれだろうな。
「ううん、わん君。わたしがキミ、に会いたかった。それだけ……」
「お、おう。それは光栄だな。しかし、待てよ? ってことは、本来は俺を襲うはずだった2人目の妹だったってことだよな。その子はどこへ行ったんだ……」
「わん君を襲うはずだったこの子の能力は転生。何度でも甦るの。そんな能力を使われてはわん君は一生この子に勝てない。わたしはこの子が転生する時を狙って魂に入り込んだ。そして、二度と転生出来ない様にわたしがこの子に乗り移った。この子にとって代わった体。だからこの身体は、わたしの魂で終わる。鈴音の能力は改変。決まっていた内容を変えるの。わたしが消えたらこの能力は、わん君のものだよ」
「き、消えたらって……じゃ、じゃあ、りんねちゃんは残りカスなんかじゃなくて、成仏を?」
「……んんしない。わたしは公園で遊んでいた時から、わん君の妹として思われたかった。妹になりたかった。だから、これはわたし自身の枷。それがあって腕輪の呪いに引き寄せられた……姿は消えても、念は残るよ。これ、わん君にあげるね」
鈴音は付けていた鈴を取り外し、俺の手にそっと置いた。
「くれるの?」
「ううん、わん君に返すの。これを見てわたしだと思い出して、ね」
返す? ってことは、俺がこの子にあげたものなのか。そんなことも覚えてないとはな。
「くっ……何とかなんねえのか? せっかく会えたのに……全て俺のせいなのか。くそっ」
「わん君は『妹』にこだわりを持ってる。わたしはキミにこだわってた。それで会えたの。それでも良かった。だから、ありがと……今度こそ、さよならだね」
この言葉を最後に、りんねちゃんは俺の前から姿を消してどこかへ行ってしまった。そして夜が明けたと同時に、俺は2つ目の能力が使えるようになっていた。恐らく、人知れずに自らを……
くっ、2人目でまさかこんな思いをするとは――
『妹』にこだわっていたのは俺だけじゃなかった。だが、今回の妹はあまりに切なすぎる。何とも言えないが、これで俺はまた1つ若返った。そして次に備えなければいけない現実。もしかしなくても、どんどんと厳しい能力の妹たちが襲ってくるんだろうな。
凡人すぎる俺はまだこの時点では顔だけ無敵な能力と、決められたことを変える能力……つまり、外側と内側だけだ。こんなことで残り8人と戦ったり出来るのか!?
悲しいっちゃ悲しいが、御手洗からもらったスーツで、俺は何としても仕事を決めなければならないな。そして、基本的な身体能力も鍛えよう、そう思った。
……待てよ。これから俺はどこで寝ればいいんだ? そもそも寧々子の家だった場所は存在していないし。どこに行けばいいんだ。
知りたいことは山ほどありすぎるが、俺の頭の容量は決して多くないし、記憶領域も広くはないしな。くっ、自分で言ってて悲しくなるなんて。
御手洗には二度と来るな! なんて言われたが、誠実に、優しく丁寧に話しかければきっと話をしてくれるに違いない。ふっふっふっ……俺の敬語をなめるなよ? まずはまた大学へ行って作戦を練り直す。
それから考えることにしよう。焦らなくても俺の妹たちは必ず俺の元へ来る! そして機会を待つ――




