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シスエン~妹怨~  作者: 遥風 かずら
超え始めた域
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5.鈴の音に誘われて…


 一人目の妹……カナタちゃんはあっさりと消えた。目の前でパッと! さっきまで普通に話をしていた人が消えるなんてな。にしても、残滓ざんさい? 残りカスってなんだよそれ……


 俺の萌えを返してくれ! どうしてくれるこのやるせない想い。やはり実在する妹じゃなければ駄目だな。しっかし、残り9人の妹たちと戦ったりする? マジかよ……俺は普通の人間だぞ。いや、すでに普通ではないか。能力を得たっつっても、使えないし使えても変態と言われるのがオチだしな。


 もしかして妹たちそれぞれから能力を得られることになるのか!?  問題はそれが役に立つかどうかだな。さて、どうするか――

 

「ここは寧々子さんの家だった場所です」


 ん? そう言えばカナタちゃんがそんなこと言ってたな。家だった……か。なら、仕事を探しに行く前に、この家を冒険? してみるか。まずはこの部屋を開け、タンスを開け、ツボを覗く……って、それは違うだろ! 食い物を探して……寧々子と母親を探す。……シミュレーションはこんな所か。


 パジャマ姿は仕方ないが、気にしたら負けてしまいそうになる俺は、気合いを入れて部屋のドアを勢いよく開けた。


「おっりゃあああ!! 誰かいないか~~!」


 ……くすくす。何あの人……シッ、見てはいけませんよ。きっと頭がアレな人よ……などとヒソヒソとざわめきが俺の心にグサっと届いて来る。って、あれ……? ここは商店街? ん? 俺は今確かに部屋から廊下に出る予定でドアを開けたはずだ。


 それがなぜ外で、しかも商店街の真ん中に出たんだ……もしや、これも俺の異能な力のお目覚めか? 「おい。おっさん、邪魔だよ」などと通行人が次々とぶつかってくる。って、誰がおっさんか! 俺はまだ20……いや、29……おっさんか。まて、落ち着け俺。


 ひと気のいない建物の隙間にでも逃げるしないか。……何てことだよ全く。


「……憐れなわん君」


「……ん? 何か聞こえたような……気のせいか」


 ビルのわずかな隙間にとりあえず避難した俺は落ち着いて考えることにした。 


 うーーむ……寧々子の家だった場所か。無人で9年も経てば老朽化で崩れる……いや、そんなわけがない。確かに俺はあの部屋に寝ていたし、内装もしっかりしていたし、カナタちゃんにも触れられたし殴られたりもしたぞ。 


 それがどうしてドアを開けたらまるでそこに無かったような風なんだ? 俺が目を覚ましたと同時に痕跡を消した……か。

 そもそも寧々子の家はパン屋だったよな。誰かに聞いて……いや、その前に着替えが先決だ! 

  

 ――って、俺、お金ないじゃん! パジャマのズボンポケットに手を入れて探ってみた。


「おっ? こ、この丸くて硬くて頼りがいのある重さは……ご、五百円じゃありませんか!」


 両側のポケットに手を入れて、見つかったのは一枚の硬貨か。そんなもんだろうと思ったよ。だが、あっただけマシってもんだな。古着なら何か買えるし、ここが商店街で助かったぜ。


 犬人はボロボロのジャージを手に入れた! あるだけでだいぶ違う。パジャマ姿ではどこかの病院から脱走してきた疑いをかけられてマジで通報されるレベルだが、ジャージなら何も心配ない。

 

「にゃ~~~~……」


 ん? 何だ猫か。傷心の俺を癒やしてくれに来たのかな。おいでおいで……


「ふぎゃ~ヴヴヴヴ……ぎにゃ~~シャー……」


 おお、痛てえ……手を引っ掻きやがった。ん? 痛い……だと? あれ、確か俺は痛くなくなった能力を身に着けたはず。どういうことだ? しかし手が痛い上に、引っ掻き傷が残ったままだ。……も、もしや――


 俺はやりたくなかったが、ビルの壁に自分の顔をぶつけてみた。顔は何ともならず、痛みも何もなくホッとして笑顔になった。……ハッ!? やばいやばい、マジで笑顔になっちまった。


 ま、まさか、能力で無敵になったのは顔だけか!? 嘘だろ!? マジで使えねーーーーー

 ってことは、やはり殴られ屋で金を稼ぐしかないのか。しかも顔だけでお願いします……的な。


 いや、駄目だ。世の中そんなに優しくないぞ。むむむ……こうなりゃ、大学だ。あそこに行くしかないな。行けば誰か知り合いがいるかもしれないし、情報を得られる。

 

「……行ってらっしゃい、わん君……」


 大学はいくつになっても入れるぜ! ってことで、在籍していた学校に戻って来た。……いや、少なくとも9年前は普通に通っていただけなのにどうしてこんな目に……うぅっ……


 ジャージ姿でかなりレアなおっさんだが、いないこともないからな。こういう時は助かる。


 9年経って、まさか知ってるやつなんていないか……むぅ……む? アイツは……


 見るからに気取りながら歩いている男が見える。しかも、両側に女子がいるだと? ……確かに奴は当時からイケメンだったが、中身は残念な奴だったはず。だが今は奴しか頼れそうなのがいない。仕方ない。


「おーーい、そこのイケメン!」


「……誰かオレを呼んだかい?」


 両脇の女子はふるふると首を振っているようだ。何だ、気のせいか、と気付いていないようだ。


「おいっ! シカトすんなよ。イケメン……いや、男子トイレよ……こっちに気付け!」


「なっ!? だ、誰が、男子トイ……ハッ!? お、お前……」


「よっ! 御手洗みたらし君。元気だったかい? ちと、大事な大事なお話がありまして。御手洗トイレに行って話をしようじゃないか。あそこは君の故郷だろ? トイレ、いくぞう!」


「くっ……犬野郎が……あ、ごめんね? これから、少しだけこの人と話をしてくるから先に講堂へ行っててくれるかな?」


 イケメンにくっついてた女子たちは首を傾げながら、向こうへ歩いて行った。


「……お前。犬人だな? 生きてたんだな。噂じゃずっと眠ったままでしかも行方知れずだったらしいが……とりあえずこれはさっきのお礼だ」


 そう言って御手洗は俺の顔を殴ってきた。だが、甘かったな……


「ふはははは!! いいぞ、顔を殴れ! 俺には痛くもかゆくもないぞ」


「お、お前……眠りすぎて変態の域を超えたのか!? 顔を殴って笑うとか怖いぞ……」


 御手洗の奴、余程怖さを感じたんだな。俺を見ながら震えてるぞ。まぁ、俺は顔だけは最強だからな。それはともかくとして……噂だと?


「何? 俺が行方知れず……だと? ちょっと待て、寧々子はどうなったんだ?」


「ん? 寧々子? 誰だそれは……」


「おいおいおい……この期に及んで冗談か、男子トイレよ。俺と付き合ってた超絶可愛くて妹で、しかもアイドルだったろうが! 知ってるはずだ。一応お前も寧々子と一緒にいたことあるだろ」


「んーー? ……ん……あ、あぁ……アイドルの彼女か! 名前は忘れたが確かにいたな。妹だったかは知らないが、犬の彼女だったような気はするな。その彼女のことを知りたいのか?」


 何だコイツ……? 寧々子と俺と言えば学校中では有名だったはずだ。特に俺は男たちからは相当羨ましがられていたはず。


「あぁ、彼女の事、知らないか?」


「彼女なら本格的にアイドル活動をしていると聞いたことがある。確か、ライブ活動をしているらしいが。ライブとかチェックすれば会えるんじゃないか?」


「なるほど……アイドルか。さすが俺の彼女だな! ライブか~うーーん……どうすれば会えるんだ……」


「っていうか、犬は無職……あぁ、目覚めたばかりか。なら、9年ぶりに出会えた旧友記念に俺のお古を恵んでやるぞ。犬には勿体無いがな。着古したスーツをやるから面接に行ってこい! そして、ここにはもう来るな! 特に、俺の事は二度と男子トイレと呼ぶな!!」


 ふっ、まんまとかかってくれたぜ。さすが俺のダチだ。奴の当時のあだ名は男子トイレ。もちろん、俺が命名してあげた。イケメンで御手洗さんだなんて俺にはハンデがありすぎるほど素敵な名前だったからな。これも一応はお茶目な友達としての愛称だったんだが、奴はそれをうまく使いこなせなかった。まぁ、それはともかくスーツを手に入れることが出来たぜ。


 ライブで会うとなると関係者しか……おっ! そうか……警備って手があるじゃないか! そうだな、そうするか。


「友よ、恩に着る! じゃあ、またな!! あ、ついでにお金貸して」


「早く、消えろ!」


 と言って、500円を2枚くれた。いい奴だな……さてと、これでどうにかなりそうだな。すぐに面接に……ってわけにもいかないな、そもそも夕方だし。


「チリン……」


 ん? 鈴の音? どこだ外か? 


「チリンチリン……」


 まるで俺を誘うように音の間隔が短くなってきているようだがどこなのか分からない。


「方向音痴?」


「……ん? 声が……」


「……こっち……」


 鈴を鳴らしているものの、俺がいつまでも気付かずにその場から動こうとしないせいか、今度は声で誘導を始めたようだ。

 

「早く」


「女の子の声だな。なら、急がねばな!」


 俺は微かな女の子の声を追って、薄暗くなり始めた遊園地の入口に向かってジャージ姿のままで走り出した。うん、何も違和感はないな。さすがにイベントも何もない遊園地には人もまばらで、寂しさすら感じる。


「……おいで」


「行きますとも!」


 俺はなけなしの500円で寂れた遊園地に入った。あぁ、今でも観覧車は動いているんだな……なんて感傷に浸っていた時だった。上に女の子!? おいっ、危ないぞ!


「そ、そこの女の子っ!! 危ないから降りて来なさい。もしくは受け止めてあげよう!」


「……くすっ……」


 笑ってるのか? そうか、楽しそうならいいんだ。なら、俺は帰るか……って、そんなわけねえだろ! た、助けないと――


「……わん君。ここまでおいで……」


「へ? 上に……か? 無理だろ…そもそも係員に止められそうだし……むむ……」


「誰も……いない……から」


 女の子の言う通り、俺以外誰もいなくなってた。じゃあいいのか。しかしどうするべきか……

 ぶっちゃけ面倒臭い。そんなことを思いながら、その場で上を見上げながらしばらく悩み続けた――

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