最終章③
シスエン~妹怨~ 最終章③
まさか朱里がラスボスみたいな存在だとは思わなかったな。てっきり、俺のことが一番大好きなボクっ娘だと信じ切っていたのに…裏切られたような気分だ。しかも元寧々子の婆さんと、木葉を消し去って取り込むとかマジかよ。しかし、腑に落ちない。
少なくとも、病院にいる時はこんなに悪意を見せていなかったのに、何でこんなになったんだ? 考えられるとしたら、木葉と戦って残滓とやらを取り込んで影響が出たか、それとも刹凪に操られてた俺が首を絞めたことで、その悪意が朱里に行っちまったかどうかだな。
今こんなことを考えてる余裕は実は無い。俺の目の前には、死神の鎌を持った朱里が襲い掛かろうとしているからだ。無い脳みそでって、自分で言いたかないけど知恵を振り絞ってどうにかしたい。
とりあえず、持っている能力で何とかするしかないな。もう辺りはすっかり暗くなってて、妹というか、朱里にとっては最高のステージだ。強い上にそれが倍増とかシャレにならない。
「朱里ちゃん。オレ、朱里ちゃんのことが、大好きだーーと言いつつ、とおりゃああああああーーー!!」
雫から貰った能力、力で思い切り朱里を海へ向けてぶん投げた。小さくて軽い子だったから、ものすごい距離を投げたはずだった。
「ケントさん。何、してるんですか? 何故急にあの子、と言っていいのか分からないですけど投げ……」
「夕映さん、避けて!!」
「えっ」
「ま、まずい、このままじゃ夕映さんが……」
海にぶん投げたはずの朱里が、夕映さん目がけて鎌を振り上げている。このままではクズ隊長に殺されてしまう。俺は最強無敵である、自分の顔を盾にして夕映さんを守った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!? ケ、ケントさんんんんんん……ん? あれ?」
「ふっ、朱里ちゃんもまだまだだな。俺の顔は痛くも痒くもないぜー! ふははははは!!」
壁どころか、鎌にも自分の顔を敢えて突き出して、思いきり高笑いをしてしまった。究極の変態をついに超えてしまったみたいだ。悲鳴を上げていた夕映さんも俺のことを別の意味で怖がってるような気がするしやっちまった感がある。
「ボクはケントを消す……!!!!」
「って、もう笑いも冗談も通じなくなったのか。何だか悲しいな」
こうなれば、これしかないな。夕映さんの手を握ってアレしかない……
「ケントさん? な、何を」
「夕映さん、俺と一緒に……」
「……え」
思いっきり全速力で走りだした。これはもう朝が来るまで逃げるしかない! 俺は超人じゃない!! うおおおおお! とにかく走りまくった。夕映さんの手を力強く握りながら、走って走って走りまくった。
「ケントさん、はぁはぁはぁ……ど、どうしたのです……か?」
「勝てないんです。だから、朝が来るまで逃げるしかないです!! 関係ないのに関わらせてごめんなさい!! 夕映さんのことは俺が責任もって守りますんで!」
警備服着た男女2人が逃げ惑う姿は、ハッキリ言ってもの凄くシュールだ。そんなことを言ってられない位にやばいし、夜だから誰も見ちゃいないのが幸いだった。
「責任、守る……ケントさん。やっぱり私のことを……」
「ヒィヒィヒィ……ふぅ~~こ、ここなら多少は稼げるか!?」
朱里は一瞬で目の前に現れる恐ろしい子だが、病院ならもしかして動きが鈍るかもしれない。俺はそう思いながら思い当たる病院、俺が入院していた病院に来た。朱里はここでずっと眠っていた。もしかしたらだが、この場所に朱里を縛り付ける何かの力が働いているようなそんな可能性にかけてみた。
「ケントさん、病院まで来てどうするんですか?」
「ご、ごめんね。でも、このまま院内に入ります。大丈夫、俺はここの顔見知りみたいなものなので、怪しまれずに入れますよ」
って思ってたが、夜の病院に関係のない警備員、しかも男女の警備員がすんなり入れるわけも無く、入口で挫折しそうになった。しかも汗だくな俺たちを訝し気に見る守衛の爺さん。早くしないとやばいのに。
「くっ、早くしないと朱里が来ちまう」
「あっれ~? そこにいるのって、ケントじゃん! あんた、何してんの? しかも女連れとはいい度胸してんなぁ?」
「おっ!? こ、この自称美人すぎるお姉様は……西川ミオせんせーじゃないですか!」
「ぶつぞ?」
「いや、もうぶたれましたよ、顔を」
「相変わらず鉄板入れやがって反則野郎が! で、その姉ちゃんと何しに来た?」
俺はミオせんせーに賭けるしかなかった。一度は俺の異常な力を見てるし、朱里のことも知っているからだ。かいつまんで事情を話してみた。
「朱里? あの子が化け物だっていうのか? しかもお前とその姉ちゃんを狙ってる? お前、あの子に手を出しちまったんだろ? だからキレた。そうだろ?」
「いや、もう、それでいいです。と、とにかく、俺と朱里が寝ていた病室にかくまって欲しいんです。可能ですか?」
「あの病室は今は閉鎖中で……いや、うーん…しょうがねえな。後で奢れよ? んで、お前は一生俺の舎弟だからな?」
「もう完全に素のヤンキーじゃないですか。まぁ、いいですけど。何かその方が好きです」
「うおっ!? 妹好きのお前から告られちまった。もしかしてマジでやられそうなのな? あぁっもう、アタシ、クビかなぁ……仕方ねえな。ケント、可愛いし。一晩だけだぞ? いいな!」
「ありがたいです! 姉さん!!」
夕映さんをチラりと見たらポカンとしていた。当然だな。もう隠しようがないよな。俺は夕映さんを連れて、入院していた病室へ入った。そして全てを告白した――
「夕映さん、実は俺、妹しか愛せない男なんです! だから襲って来たあの子、朱里にも想いを寄せていました。今まで隠しててごめんなさい。だからお見合いとかはその……」
「ケントさん。それなら、私でよくないですか?」
「え?」
「よく分からないんですけど、私も妹です。それに、ケントさんには何度も守ってもらいました。だから私ケントさんのことが好き……です。私じゃ、ダメですか?」
「夕映さん……それに俺、ホントは20歳なんです。その、さっきの会場にいたアイドル、いや婆さんでしたけど、10年前に呪いをかけられて俺は10年もの間、眠っていたんです。10人の妹たちと戦いながら、今はようやく20歳に戻りつつあるんですが、全てはこの腕輪の枷のせいなんです」
「20歳ですか? え、でもケントさんのその姿は、あの……」
「な、何かおかしいですか?」
「もうすぐ朝になるので私の能力も使えなくなりますが、実はケントさんに今の姿はどう見えてる? って聞かれたときに真実の姿が見えていたんです。ケントさんの姿は、20歳よりも若い……今、私の瞳には13歳くらいに見えます」
何て言った? 俺が13歳!? そ、そんなはずは。木葉がやられたからさらに若返ったのか? 確か妹たちを10人倒して行けば10年は若返ると。ま、まさか……外見じゃなくて中身もカウントされたのか?
じゃあこの腕輪を外せばどうなるんだ? すでに呪術師は死んだ。そういう意味では腕輪の意味なんてもう失われているはずなんだが……
「俺が13歳……そ、そんな。じゃあ、あと3人、つまり夕映さんと朱里と」
「私、最後の妹さんがはっきりと見えてます。そしてその姿を見るには……」
「う、嘘だ嘘だ嘘だ……俺が13歳で最後には10歳になってしまうのか!? な、何でだ? 何でなんだよ! 10年も眠らされて、妹たちと出会って外見は30歳で10年若返れば戻るって聞いていたのに!!!」
「……ショック、ですよね。全てを終えたらケントさんはケントさんじゃなくなる、なんて。でも、それが真実なんですよ。私、ケントさんと出会った時に見えてました。夜に関係なく、見えました」
ううううううう……妹しか愛せない計画が……なんてことだよくそっ!! 10歳にまでなったらそもそも俺自身が子供じゃないか! 妹とかそういうことじゃなくなる。何だよ? なんでこうなるんだ。
「ケントさんには酷ですが、私、私にキスをしてください。この夕映の真実の能力も得て下さい。そして、最後の真実をその目で確かめて下さい……」
「夕映さん、くっ。わ、分かりました。ではキスをします……」
俺は夕映さんの言葉通りにキスをした。唇にではなく、額に。それで十分だったらしい。夕映さんが見えていた真実の能力を俺は得た。
「ケントさん。私はこれで普通の人間に戻ることが出来ました。あの、こんなことになってしまいましたけど、最後まで応援してます。好き、でした。そして言いそびれましたけど、最後の妹さんは……その目で見られると思います。そして彼女の呪いも解いてあげて下さいね。それでは、私、行きますね。ケントさん、あの、ありがとう。今のケントさんに会えて良かった。『さよなら』です」
俺に能力を渡した夕映さんは涙を見せながら、病室を出て行った。一人残された俺は、しばらくここから動けずにいた――




