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シスエン~妹怨~  作者: 遥風 かずら
憎悪の先に在るもの…
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最終章②

               シスエン~妹怨~最終章②



 この会場には寧々子がいる。そのことを聞いただけで心の奥底に眠らせていた感情の渦が何重にもなって巻いていた。彼女の元に行けば何かが分かる。そう思った俺は、挨拶に行くことにした。


 本来たかだかイチ警備員が行けるわけないが、俺は顔見知りでもあるし相手も恐らく承知しているはずだと踏んだ。

 

「夕映さん、申し訳ないんですが、少しこの場を外しますがダイジョブですか?」


「え、どちらへ? 私は何も分からないので判断は中さんにお任せするしかありません」


「実は、このライブの主催、いえ、アイドルの寧々子とは知り合いなんです。なので、挨拶に行って来ようと思いまして」


「あ、そうなんですね。私はここで待機でいいのですか? 付いて行くべきですか?」


「いや、この場で待機をお願いします。恐らく止められるかと」


「そうですよね。分かりました。ここで中さんの報告と戻りを待ちます」


 まぁ、そうだよな。一応、俺が新人を研修する側だからな。上に従うしかないよな。勝手に動いて迷っても仕方ないし。とりあえず、夕映さんへの危険性は回避出来そうだ。


 案の定と言うか、当たり前だが控室前には黒服のガードが4,5人ほど立っていた。警備服の俺が行っていい場所ではないが、それは問題ないだろう。


「すんません、寧々子さんの知り合いなんすけど、ここを通してもらっていいですか?」


「……通れ」


「え、あっ、ど、ども」


 なんていう拍子抜け。やはり俺が来るのを待っていたか。


「どーも! 中の人は犬こと、ケントです! よろしく~!」


「お久しぶりです。ケントさん。警備員で現れるなんて意外に賢いですね。でも、寧々子に会いに来てくれて嬉しいです。逢いたかったです……」


「俺もずっと、寧々子に会いたかった。……なんて、ままごとみたいな真似は止そうぜ? なぁ? あんたは寧々子じゃなくて呪術師っていう奴だろ? こっちは色々知ってんだよ! こんな身体にした本人だもんなぁ? それと、本当の寧々子はどこにいる?」


「ふふっ、全て知っている、ね。何か勘違いをしているみたいですけど、あなたの呪いは私が直接作ったわけではないの。確かにあなたのその腕輪は、私が作った物。でも、妹さんたち? の出現は私の知る処ではないわ。勝手に腕輪の念に呼ばれて形を成し得たに過ぎない。私は残滓となるきっかけを与えただけ。それにあなたの身体、確かに10年眠らせたけど、年齢が戻っているなら問題ないでしょう? あなたの周りの人は10年経っているけど、あなたは歳を取ることが無い。若返りが進んでいる。これは喜ぶことのはずです。それと、寧々子なら……」


「きっかけだと? それにしては計画通りに進んだじゃねえかよ! 若返ってはいるが、これは妹たちが消えているからこそであって、結局はあんたの筋書き通りだろうが!! 寧々子は生きてるのか? まさかあんたが殺したとかじゃないだろうな……」


「にゃ~~~~~……」


 ん? ネコ? 迷い込んできたのか? おいでおいで……いや、待てよ。以前、手を引っ掻かれた痛い思い出があるぞ。ここは唯一無敵である顔だけを近付けてそのまま抱っこするか。


「にゃ! にぅ~~!!」


 すりすり……おぉ? 可愛いな。随分と好かれているようだな。顔にスリスリしてきて髭がちくちくする。それにしても随分、俺の顔を見つめて来るネコだな。


「ふふ、ケントさん。よかったですね。会えて」


「は? 誰と会えたって? ここにいるのはあんたと、このネコ……? ネコ? 寧々子? そ、そんなまさか……このネコが俺の彼女だった子なのか!?」


「ええ。その通りですよ。その子は最初からネコです。あなたと会っていた時は、人間の姿をさせていただけに過ぎません。ただ、私にも夢がありましてね、覚えてますか? 約束の事」


「約束だと? 俺に一生、この子を妹として守れとかいう戯言のことか? それがどうした?」


「本当に、あなたが成人を迎えるまでに妹として守っていたら、この子は人間になれるはずでした。そしてめでたく、彼女と妹、両面で幸せになっていたと思いましたが……やはり、あなたは約束を破った。惜しかったですね。たった一日で。一日で変わるんですよ? たかが一日で、ね」


「なっ!?」


「にゃ……」


 俺の驚きと同様に、ネコも寂しそうな表情で俺を見つめている。この子が……寧々子か。くそっ! 悔やんでも時は戻らない。いや、俺自身の時間だけは戻っているが、思い出や触れ合いなんかはもう、戻らない。


「おいっ!! どうすればこの子は人間に戻れる? 方法があるだろ? 教えろ!!」


「そんなもんありませんよ。この子、ネコは自由気ままに生きていくだけ。人間が、いや、あなた一人が縛っていい存在ではないのです」


「じゃ、じゃあ寧々子。あんたのその姿はどう説明するんだ?」


「私の姿は間違いなく、私そのものですよ。名前は違いますが。私は呪術師で名前はあなたの知る処ではない。それに、あなたは私に構っている時間は残っていない。妹たちがあなたを殺しに来るのです。あなたが全ての妹を消した時も、あなたは……」


[すみません、寧々子さんそろそろお願いします!]


「あっはーい! それでは、ケントさん。お話楽しかったです。私、そろそろ出ないとなので。そして、頑張ってくださいね。私もあなたのこと、最後まで見届けますから! でわでわっ!」


「あ、おいっ!!」


 追いかけようとしたがネコがしがみついて離さない。黒服たちも立ち塞がってるし……ちくしょう。

 ネコ……か。この子がかつての寧々子。もう顔も声も思い出せないが、今のこの子みたく可愛かったんだろうな。この子は俺のことを覚えているんだろうか……


 考えてても仕方ない。まずは仕事に戻らないとな。『じゃあな、寧々子』


「にゃ~~」


 ネコ語が分かればな。なんて思いながら、俺は夕映さんのいる場所へ戻った。


 アイドル寧々子のライブが始まっていた。何だか奇妙な空間にいるみたいだった。正体を知っているせいもあるが、ここに来ている観客は本当にファンか何かなのだろうか? 見に来ている人たちに幻でも見せているんじゃないかと言わんばかりに、歌、踊り、トーク、そして虜にする笑顔。


 全てがまがいものにしか思えない。辺りは夕方になろうとしている。何時間も歌や踊りを一人でやっているようだが、全く疲れを見せず、汗もかいていない。恐らくこのライブ空間だけが幻影なのではないだろうか。しかし、警備として来ている以上は、やるべきことをやらなければいけない。


「夕映さん、俺たちはこのアイドルさんを守るために正面を向いて客を監視しなければいけない。だから、ライブが終わるまで辛抱ですよ」


「はい。ずっと立ちっぱなしは辛いですね。でも、どうしてここにいるお客さんたちは気付いていないんですかね?」


「ん? というと?」


「彼女はアイドルというには歳を取りすぎてますよ。結構なお歳の女性にあそこまで熱狂的になれるものなんですねぇ。それとも今は高齢な女性が流行りなんですか? 深いです」


 何? 結構なお歳だと!? 俺は寧々子と呼ばれる女をチラっと見たが、やはり俺が覚えている寧々子そのままに見える。でも、夕映さんは本当の姿が見えている? もしかして夕映さんは9人目の妹なのか!? しかも、無自覚。


「夕映さん。俺は……俺の姿はどう見えてます?」


「えっ? 中さんは若いです。年齢よりもずっと若く見えます。あ、これは褒め言葉ですよ」


「そ、そうですか。はは……ありがとです。ところで夕映さんはその、いつから彼女の正体が分かったんです? 良かったら教えてください」


「そうですね、夕方になってからです。わたし名前が関係していると勝手に思ってましたけど、夕方から暗くなるにつれて人が見えない不思議な物、といっても人間とか生き物に限りますけど、真実ほんとうの姿が見えて来るんです。だからどうってわけじゃないですけどね」


 やはり夕方から夜にかけてか。じゃあこの子も妹としての能力を持っているわけか。しかも、真実の姿を映しだす瞳。だとしても、この能力を俺が使えるように出来るのか? この子は間違いなく普通の人間だ。


 俺とは今回の警備と九頭隊長との顔合わせで初めて会っただけだ。そんな子が俺への想いを抱くのか? どうやって? どうすればいいんだ――


「あれっ? あの子、あそこで何してるんですかね?」


「え? ど、どこです?」


 夕映さんが指で示した所には黒服の男が寧々子を守るように立っている。あの子? 


「あ、あの~どの子? いえ、どの黒服のことを言ってるんですか?」


「黒服? いいえ、あの子は女の子に見えますよ。しかも珍しい髪の色をしてます」


「珍しい髪の色。まさか、朱里? でもどうして寧々子の近くにいるんだ……というか、どう見ても俺には黒服の男にしか見えないぞ」


「あっ!? あの女の子、鋭い刃みたいなものを持ってますよ!! と、止めなきゃ」


「いえっ、お、俺が行きます! 夕映さんはここで待ってて、いや、危ないのでこの場で監視を続けて下さいっ!」


「……中さん。本当にわたしのことを守ってくれてる」


「ふふふ。やっぱり来たんだ? 朱里。それに、ここにはお兄ちゃんもいるよ? 良かったね、愛しの兄様に再会出来てさ。あははっ」


「木葉。どうしてその女を守る? どうしてまだそんな力がある……」


「当然でしょ? この婆さんに憑依すれば力は数倍になるもの。朱里にやられることはないわ」


「そう。それはよかった……木葉とソイツ、まとめて殺せる。兄様はボクが殺す――」


「ぇ――」

 

 黒服が朱里か。近付いてもやはり黒服なんだが。で、でも寧々子、じゃなくてあの女を狙ってるのはたぶんあの黒服だろうし、ううむ、俺には判断できないぞ。


「中さん! ごめんなさい、わたしも来ちゃいました。たぶん、いえ、わたしじゃないと判断つかないはずですので、お手伝いします。それで、あの早速ですけど、あのお婆さんの中に、忍服を着ている女の子が入っています。憑依? ですかね」


「ええっ!? 俺にはどう見ても寧々子にしか。ううむ、駄目だ、何の役にも立てないぞ」


「中さ……いえ、ケントさん。あの子たち、様子が変です。特に朱い髪の色した子は恐ろしい力を感じてしまいます。たぶん、一瞬で」


「ん? 何が一瞬?」


「朱里……オマエ……その能力……グアアアアア」


 朱里の持つ鋭い刃はまるで、死神が持つ鎌に見えた。黒い霧の様なものを寧々子の姿をした女にまとわりつかせ、鎌を振り下ろすとその黒い霧は朱里の全身に戻って行くのは俺の目にも見えた。アレは木葉と、呪術師の魂? を取り込んだということなのか。


 さらに言うと、寧々子の姿をしていた女は見る見るうちに、若々しい姿を保てなくなり、本当の姿に変わり果ててただのお婆さんになり、一瞬にして、姿が消え失せた。存在ごと消された……ということか。


 黒服の男たちも幻だった。観客たちは最初から幻だったと言わざるを得ないように、消えていた。俺たち以外の警備は、ふと我に帰ったかの如く、現場を離れていく。俺と夕映さん以外はまやかしを見せられていた。


 俺は寧々子のあの姿をずっと覚えていたってことに、今ようやく気付いた。ずっと寧々子の思い出に囚われていたのか。そ、それはともかく朱里のあの力、アレが本当の強さか? あの木葉が一瞬でやられるなんてな。俺のことを倒すとか言ってた最強の妹のはずだったのに。


そ、そういや……呪術の女は消えたんだよな。ってことは、腕輪はどうなるんだ? 俺は今のいままで気にしていなかった腕輪を見た。作った奴が消えたことで、役目を終えようとしているのか少しずつヒビが入って来ているみたいだ。待てよ? じゃあ俺のこの姿はどうなるんだ? って思ってたが、不安そうな表情と声で夕映さんが俺に話しかけていたことに気付いた。


「ケ、ケントさん、あの子たち……いえ、あの子は何なんですか? 普通じゃないというか、人間じゃないですよね? だって、平気で人を2人も消したんですよ。その2人も普通では無かったですけど、それにしても異常な強さというか畏怖を感じます」


「朱里か。で、でも、あの子は俺のことを慕って……」


 と思っていた俺の目の前には朱里が立っていた。い、いつの間に……


「ど、どうした? 朱里、俺に会いに来てくれたのか?」


「……ボクは犬人を終わらせるために生まれた残滓」


「え?」


 朱里の口から、妹たちの声が次々と聞こえてくる。


「お兄ちゃん、木葉やられちゃった。私が倒そうとしていたのに、残念。でも、しょうがないかな。朱里は残滓だから。私じゃ勝てなかったよ」


「ケントお兄さん? わたしです。カナタです。ようやくここまで来たんですね? あと一人。いえ、朱里さんを何とかすれば先が見えますよ。応援してますね」


「雫は、何も出来ない。ごめん……なさい」


「ケント。お前が朱里の首を絞めた時、刹凪は半分、取り込まれた。後はこいつに任す。だから、ケント、消えろ……」


 あれ? 他の妹たちの声は……あぁ、そうか取り込まれたわけじゃないのか。ん? 鈴音の声も聞こえないな。あの子も念になったんじゃないのか? まだ生きてる?


「朱里はケントが眠ったと同時に生まれ、眠った残滓。兄様と慕っていたのはそういう意味だ。ケントは、朱里が消す――それが妹たちが望む怨み、そして結末……ワタシに取り込まれ、永久に闇へと堕ちろ。朱里とずっと過ごせる」


「い、いや、待て……落ち着こう。な? 朱里ちゃんはそんな子じゃないだろ? 俺を消すだなんて物騒な言葉遣いはやめて、まずは話をしよう。そうしよう?」


「……ボクはこれを待っていました。ケントを消すこの時を」


「ひいっ!? や、やめ……」


 やばい、やばいぞ……これはマジでやばい。これはもう出し惜しみ出来ないな。貰った能力を使うしかないぞ。いや、でも使える能力って、力と顔のアレと、視界。ほぼ使えねー……マジかよ。


「ケントさん、ケントさんが危ない。で、でも私も真実の姿を見ることくらいしか」

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