最終章①
シスエン~妹怨~ 最終章①
「中さん、戻って来てたんですね! お帰りなさい」
「た、ただいまです、妹尾さん」
「……足はもう平気なんですか? それに、病院では大変なことがあったみたいですね。妹の未来も中さんのことを気に掛けていました」
「え? ど、どうして未来が俺のことを」
妹尾さんの妹、未来は俺のかつての彼女で5人目の妹として俺の前に現れた。俺は彼女の能力を貰ったが、同時に彼女からは俺の記憶が消えた。俺自身も彼女と付き合っていた記憶はおぼろげではあったが、彼女の記憶が無くなったことは俺にはショックだった。それだけに今の言葉は嬉しさと動揺を隠せなかった。
「未来は中さんのことはやっぱり忘れているみたいですけど、でも、助けてもらったのは事実ですし、そのこともあってか中さんの事が気になってるみたいなんです」
「そ、そうなんですね。それは何というか、何とも言えないですね」
「何か、その……ごめんね、こんなこと言って」
今さらそんなこと言われてもな。でも、嬉しく思う。全てが終わったらまた会えるといいな……
「中くん、ちょっと話があるんだけど事務所へ来てくれ。妹尾さん、彼を借りるよ」
「あっ、はい。かしまりました!」
「はい。どうぞ。私の話は終えていますのでお気になさらず」
中君? 何だ、気色悪いな。クズ隊長が俺を呼び出すとはどういうことなんだ。もしやサボったのがバレて、とうとうクビに!? そ、それとも、入院中に暴れたことがバレて教育的指導? 怖い怖い、想像したくない。うぅ、何だろう。
※
長い入院生活を終えて、職場復帰を果たしていた俺。病院では色んなことが起こりすぎた。中学の時にホームステイ先で出会ったアリサはとびっきりの金髪美女になって俺に会いに来ていたが、俺を助けてすぐに国に帰ってしまった。帰り際、今の俺と会えて良かった。なんて言ってたが、あれはどういう意味だったのだろうか。確かに外国にはちょくちょく行けないが、会えないわけじゃないだろうに。
アリサは相変わらずのお江戸口調だったが、あの話し方は脳内に闇を抱えていた俺には癒しだった。アリサは俺の妹なんて言っていたが、どう見ても姉って感じで面白くて癒やしてくれる、そんな女性。またいつか会えたらいいけど、その時俺はアリサよりも年下になっているだろうから会うのは条件的に難しいだろう。
そして、朱里と木葉の居場所は相変わらず掴めていない。俺の知らない場所で、二人の妹は戦った。どちらも痛み分けに終わり、朱里は再び眠り、木葉は行方知らずだ。
朱里は、俺のことを兄様と呼んで慕っていたのに、あろうことか俺の中の闇の存在、刹凪に操られて朱里の首を絞めていた。眠っていたとは言え、俺にやられるわけにはいかないと思ったのか、気付いたら彼女は姿を消していた。
俺のせいだ。俺があの子を苦しめてどこかへ行かせてしまった――
※
コンコン……
「失礼します! 中犬人、入ります」
「あぁ、来たね。まぁ、そこに座ってくれ」
俺は見たことも座ったことも無い、腰がズッシリと沈み込む程のお高い黒光りのソファに腰を落とした。何とも言えないふわふわ感。あぁ~なんて気持ちのいい……
「あの、それでお話というのは何でしょうか?」
「うん、中くん。キミは誰かと付き合っていたり、好きな女性はいなかったよね?」
「はぁ、まぁいないっすけど……でも俺はいも……あ、いや何でもないです。それがどうかしたんです?」
いつになく真剣な眼差しで俺を見つめて来るクズ隊長。ま、まさか俺のことが好きとかじゃないだろうな? 妹以前の問題だぞ。いや、そんな馬鹿な話じゃないはずだ。
「中くん。いや、ケント君に紹介したい人がいるんだ。是非、会って欲しい。いや、会うべきだ!」
「へ? あの~それはどなたなんすか?」
「俺の義妹だ! お見合いをしてくれ頼む! ケントは最近しっかりしてきてるし、それに病院から退院してきてから随分と若々しくなって戻って来たように思えてな。俺も妹にお前のことを強く薦めてしまったんだ。頼む!」
「ちなみに妹さんはおいくつなんすか? 俺より年上だと正直言って興味が湧かないと言いますか」
「成人前だ。だからものすごく下だ。それなら文句ないだろ? それに実は、俺はお前の妹を病院で見てしまったんだ。まさか外国人の美人さんと、真っ赤な髪色の女の子がお前の妹だったとはな! それを見て確信した。お前は妹という響きが好きな奴だ。だから紹介出来る」
どういう理屈か知らないけど、隊長に見られていたのか。変な所は見られてないよな?
「そ、その妹さんは隊長に似てらっしゃいますか?」
それが何よりの問題で心配事だ。強面の妹だなんて想像したくない。
「いいや、全く似てないから心配するな。では会ってくれるな? 妹にも事前に伝えているんだが、お前と妹は同じ警備の現場に行ってもらう。そうすることでお互いの性格とかが現場で分かってしまうはずだからな」
「見合いを警備でですか? 随分ユニークですね。確かに現場では臨機応変を求められて、その場の状況のやり繰りなんかを瞬時に判断する場合がありますが、それで俺と妹さんがどうなると?」
「助け合って、愛を深め…一気に燃え上がる! どうだ? 俺の計画は」
「寒っ! あ、いや、そう上手く行きますかね? そもそも妹さんも警備をされてるんです? というかお名前は何というか教えて下さいよ」
「そうだったな。名前は夕映だ。で、まだ警備じゃないが、新人として研修に来る。という名目で誘った。それなら実際に現場に行かせることが出来る。それもお前と一緒にな」
夕映ちゃんね。何でそこまでしてお見合いさせたいのか知らないけど、そういうことなら協力してやるか。
「いいっすよ。で、その新人警備と俺が行く現場ってどこです?」
「お前が待ち望んでいた現場、アイドルの警備だ。何でも、ライブでは相当な人気者らしくてな。俺はよく分からんが、寧々子とかいう女性らしい。これもウワサだが、年齢よりも相当若いとか、歳を取らないアイドルだとかでマニアの間では有名だ。そこに夕映と行ってもらう」
――!? 寧々子、アイドル……ライブ――ついに来たか。恐らくだが、寧々子の中身は母親。いや、俺をこんな目に遭わせやがった呪術師に違いない。そして寧々子本人はどこにいるのか。
だが、俺がライブに現われればソイツは必ず近付いて来るはずだ。ここで問題なのは、隊長の妹さん、夕映さんのことだ。はっきりいって間違いなく普通の妹のはずだ。
隊長の妹さんには決して、危ない目に遭わせてはならないんだ。俺が守らないと――
「分かりました。夕映さんとその現場に行きます。いや、俺が行かないと駄目なんです!」
「お、おお! そうか、分かった。では、戻っていいぞ。追って詳細そして、妹を新人警備として紹介するからその時は頼む」
「はっ! 失礼します」
なるほどな。妹とお見合いさせるために俺を呼んだわけか。上司の頼みなら聞かないわけにもいかないから引き受けるつもりで話を聞き流していたが、まさか寧々子の名前がここで出てくるとはな。
これも呪術師の計画通りなのか? いいぜ、乗ってやるよ。そして俺の人生を戻してもらう! そして彼女、いや、妹に萌え続けていく人生を俺は送りたい!! その為には、まだ残滓として残ってる木葉、朱里……ん? あれ、あと、誰だ?
寧々子と、呪術師は妹とは関係が無いよな。まだ出て来てもいない妹が2人もいるのか……全く出てくる気配がないんだが。
俺はさっさと20歳に戻りたいのに。あとたった4年分なんだ。だから、早く残りの2人も出て来てくれよ。そしたら俺は10年を取り戻せるんだ! そしたら僕は妹を――ん? 僕って何だ? 俺だよな? いつもの俺だ。うん……
× × ×
兄様がもうすぐボクの元へ戻って来る。そして木葉も力を取り戻しに来る。ボクが出来ることは、木葉を完全に滅すること。木葉の憑依能力を取り込んで、呪術の女も消し去って、ボクは兄様と誰もいない闇の中でずっと過ごすんだ。もし拒んだら、兄様も消し去ってあげます……。
本当は10年前に死んでいたはずの兄様。ボクと同じ時を眠り、能力を得てしまった。そんなのは望んでいなかったはずです。だから、ボクが犬人を楽に殺してあげます――
※
「初めまして、九頭夕映です。今日から新人として警備をすることになりました。よろしくお願い致します」
「はじめまして。中犬人です。夕映さん、よろしく」
義理の妹って言ってたが名字はクズなのか。クズゆえに、なんて言葉が……く、下らねえ。
「早速で悪いが、すでにケントには説明済みだが夕映と二人で、アイドルの現場に行ってもらう。場所は海のあるあそこだ。ケントは何度か深夜で行ってる場所だから分かるだろ。翌日ライブだから心構えと、あとは二人で話し合っておけよ。では、ケント、任せた」
あぁ、やはりあそこか。木葉と雫が出た所。選びそうな場所だもんな。海を背にしてるライブ会場なんて妹たちとのバトルとかにはもってこいの場所だ。
夕映さんも一緒にいることだし、気をつけないとな。まずは寧々子の姿でライブしている奴を拝むとするか。
「中さん、私は何も知らないまま現場に入ることになるのでお仕事、教えて下さいね」
「はい、もちろん。夕映さんは僕が守りますから、安心して現場へ入って下さい」
「は、はい」
この人何だかいい人かも。私を守るだなんて、ただの警備なのにそんなことを言うなんて。年齢よりも幼く見えるし、この人なら付き合ってもいいかな。
俺は何をアホなことを口走ったんだ。たかがアイドルの警備なのに、同じ警備を守るとかありえないだろ。でもまぁ、実際何が起こるか分からないから”守る”のは事実だ。僕が守る、か。
翌日、俺と新人の夕映さんはライブ会場に着いた。警備と称して俺と合うかどうかの見合いも兼ねてるらしいが、正直いってそんな余裕はないはずだ。間違いなく、ここには妹たちと、寧々子のかつての母親がいて、何らかの形で接触をしてくる。
明るいうちは寧々子の姿を見てもたぶん見分けはつかないだろう。本当の寧々子はどこにいるのか見当がつかない。いや、生きているのかさえも……
ライブ会場では当然だが俺たち以外にも、何人もの警備が配置されていた。こんなにも人気だったのかさえ分からなかったが、呪術師は俺を眠らせてからずっと寧々子の意識を乗っ取っているのだろうか。そうだとすれば、俺と同じように歳を重ねないということも理解できる。その辺は、機会を見計らって直に話を聞くしかなさそうだな。
ライブ開場前、控室で、俺と寧々子は対峙した――




