出会い再び。
「ここがニホンじゃな? ……ふむ久しく会おうておらぬが、ケンは元気にしておるじゃろうか?」
ケンは我がホームに学びに来た時に出会った童子。今ではもうすっかり立派な武士になっているはず。
しかし、さすがにそれはないであろう。ワタシとて今のニホンの姿くらいは学んでおる。武士がいないくらいはお見通しじゃ。口惜しいがの……
それにしても今朝は奇怪な夢を見たものじゃ。なぜワタシがケンの妹とやらにならねばならぬのじゃ? 同じトシであったはずよな?
……しかし夢の中のケンはどう見てもワタシより年下であった。まさかあやつ、物の怪の類であったのか? だとすればワシが成敗せねばな。して、あやつは今どこにいるのじゃ。ケンのホームがある住所に行ってみるとするか。
むぅ? ニホンの道はこちゃごちゃしとるの。ケンのホームはこの辺のはずなのじゃが……さすがに迷うのう。あちこちでビルを建てておるようじゃ。どれも同じに見えるが、はて……?
「マンション建設ヨテイ? なんじゃと? ケンのホームは無くなってしまったのか!?」
ワタシは落胆しながら、ケンの居場所を聞くべく近くの大学へ寄ってみることにした。中へ入ると複数の女子に囲まれている男がおる。あやつに聞いてみるか。
「そこの者、聞いてもよいか?」
「おぉ!! 綺麗な金色の髪、そしてしなやかな体つきでありながら隙の無い身のこなし、留学生の方ですか? 私は御手洗と申します。何かご用でしょうか?」
「なんとも薄い顔をしておる。して、ミタラシとやら、お尋ねしたいのじゃが、ここにケンはおらぬか?」
「薄い顔って中々毒舌だなぁ。ケン? それはボーイフレンド? 正式な名はなんでしょうか?」
「ケンの正式じゃと? ……あぁ! うむ、ケントじゃ! ナカケントじゃ」
「ナカケント? ケント……犬人。あいつのことか!?」
ちっ、何でこんな金髪美女が奴を尋ねて来るんだ。世の中は不公平すぎるぞ……気に入らねえ奴だ。
「おぉ! 知っておるのじゃな。では、ケントがどこにおるのか教えて頂きたい」
顔の薄い男は何度も首を傾げ、ふるふると首を振り、葛藤の渦にハマっているようじゃった。知り合いのようじゃが、反応を見る限り恐らくは犬猿の仲という間柄なのであろうな。
「奴……ケントなら今は警備員をしているはずですよ。あなたは?」
「ワタシはアリサ。ケンの妹じゃ! 警備員じゃな? かたじけない。では、さらばじゃ!」
「へ? 妹? あいつ外国生まれだったのか!?」
警備員とはおそらくガードのことであろう。なるほど! ……さすがケンじゃな。物怖じしない性格であった童子はガードを選んだのじゃな。
ワタシはこの辺りをガードしている会社に訪ね歩いた。ケン……ケントなる男はおらぬかと。ようやく見つけたというに、聞けばケンは怪我で入院しているということじゃった。何たること。いつになったらケンと再会出来るのじゃ……
「うーーん……腹が痛い。くそっあのババぁ……何てことしてくれるんだ」
ミオセンセーに腹を殴られてどれくらい俺は眠っていたのだろうか。俺は朱里を起こすことに成功した。しかし、木葉と闘ったことで目覚めたばかりの朱里はすぐにまた眠ってしまった。しかも、木葉はミオセンセーに乗り移っていた。
そのせいでミオセンセーはその間の意識と記憶が無い。朱里が起きていた時には眠っていたというすれ違いが生じてしまった。結果、俺は朱里を起こせなかったという現実を受け入れ腹を殴られた。
あぁ、何か納得いかねえ。思った以上に俺のダメージが大きくて長期入院を余儀なくされた。
「朱里ちゃんは眠ったままか。まさかまた何年も起きないとかじゃないよな? それだと俺はずっと歳が戻らないままに……それは勘弁してくれ」
「(……兄様。今度はボクだけで目覚めます。その時には呪術師を完全に消します。……それまでどうかお待ちください)」
朱里ちゃんが眠る同室で、俺は日々悶々としていた。……と言っても欲望の方ではない。一向に妹たちから能力を戻して若返ることも出来ない俺自身にいらいらしていた。
俺の中の意識下で良くない気持ちが膨れ上がっていた。まるで俺自身じゃない誰かが、俺の意識を悪い方へと持って行くような、そんな感覚だ。
朱里が眠っている病室では暴れることはもちろんしないし、足も治っていないままでその辺に八つ当たりをするなんてことはさすがに出来なかった。
仕方が無いので、病院の中を彷徨いながら気を紛らわすことにした。病室の中にいてもどうにも気分が晴れないし、眠れないからだ。
「くそっ、何だか腹が立つ!! ……誰でもいいから俺の元へ来い。妹はまだいるんだろ? だったら早く襲えよ! 俺は逃げも隠れもしねえぞ?」
「尽くした者の気持ちを理解出来ない男。お前はもっと苦しめ……そのまま永遠に時を止めたまま生きて詫びればいい……お前の罪は容易く片付けさせない……それが刹凪の願い」
くっ、何なんだ!? 俺の頭ン中で誰かがごちゃごちゃ言ってやがる。誰なんだよ? 姿も見せないで文句言ってんじゃねえよ! くそっ……
頭の中で誰かと会話しているつもりが、歩きながらぶつぶつと呟いていたらしく、廊下ですれ違う患者や見舞いの連中からは憐れむような目で見られていた。
「ふざけんな!! 見せものじゃねえぞ。散れ! さっさと病室戻れよ、お前ら!」
「何ですかこの騒ぎは? えっ? ケント君(お前何で暴れてんだ)」
「引っ込んでろババア!!」
「ア? 今なんつった……? 痛い目みたいんだね? いいよ、もう一度、やってあげる……」
俺じゃない別の奴の意識を感じながら自制の効かない俺。目の前の看護師が止めようとしていても、容赦なく暴れた。腹を殴りにきた看護師があまりにムカついたので、見せしめに近くの壁を破壊した。もちろん能力によるものだったが、普通の人間にはこの破壊行為は脅威になったようだ。
「ケ、ケント君? あんた……その拳、やばい、さすがに手に負えないわ」
む? あの男……黒い霧が見える。それにあの女医者もよくない気が流れておるな。ワタシが行かねばならぬようじゃ。
「お主大丈夫か? 先程から見ておったが、物の怪の類が暴れておるようじゃな。セップク……いや、奴を斬ってみせようぞ」
女医者は静かに頷き、ワタシから距離を取って奴とワタシの成り行きを見守っているが、あの医者もタダモノではないようじゃな。
「誰だ? 誰なんだよ……アアアアアアアアアアア!」
うぜえええ!! 俺に近寄るなっ! 邪魔だ!!
「フム……やはりお主の腹には何かが巣食っているようじゃの。黒い奴が纏わりついているようにも見えるゾ。そのままではやがて精神ごと汚されて人格をも狂わせてしまいそうじゃ。どれ、ワシが視てやろう。お主の名は何と申す? ワシ、ワタシはアリサと申す」
「ア、アリサ? 何だよどこかの国のお姫様みたいな名前しやがって! どうせこの金髪も偽モンなんだろうが!」
俺は金髪ニセ女の髪を掴んで、顔に睨みをきかせた。うぅむ? いつから俺は旧世紀のヤンキーになってしまったのだろうか。おまけに口も悪いし、俺は不良になってしまったのか?
こんなんじゃ妹萌えとか言っても寄り付かないし、朱里ちゃんもショックを受けて一生目を覚まさないんじゃ……?
「ぶ、無礼者めが! 我が母、父よりもらい受けた遺伝の髪になんてことをするのじゃ!! 貴様は物の怪などではなく、タダの愚か者じゃ。ワタシが成敗してやる!」
金髪女は俺の手首を掴んだと思ったら、体ごと回転させられた。な、何だ? これ、何かの技か?
「ぐはっ!? くそっ……」
力を使って吹き飛ばしても良かったが、普通の人間に使うとたぶん壁の破壊以上にやばい。素直にやられるしかないようだ。はぁ、何だか最近やられっぱなしじゃないか。元々弱いけど、能力を得てから更に弱くなった気がする。
妹萌えの俺に異能の力なんて正直、いらなかったんじゃ? 何も出来んし、強くも無い。その上、災いが近寄って来るなんて俺にはイラナイ能力だらけじゃないか。
確かに歳は戻って来てる感覚はあるが、強くなるわけじゃないし。段々と基本の力やら体力も子供に戻ってきている気がするな。まさかその内に俺じゃなくなるとかじゃないだろうな? 妹を愛する俺がいなくなったらそれは俺じゃない。
「心配いたすな。じき、良くなる。お主の名は何じゃ?」
「ケ、ケント……」
名前だけ名乗ってまた意識を失ってしまった――
「ケント? ケン……!? お主がケンじゃと……どう見てもワタシより年下ではないか。ま、まさか……」
ワタシは驚愕した。暴れていた男が会いたかったケンだったことに。しかも、どう見ても若返りをしたようにしか見えなかった。
これは、ワタシの能力と刀が役に立つに違いない。そう思いながら運ばれるケン。それを見やる看護師と共に病室へ向かうことにした。




