朱イロに染まる…
何だかもの凄く喪失感を感じている。未来を助け、記憶を消去されたことのショックがでかい。この感覚は、フラれた時に勝るものがある。あぁ、仕事やりたくない、行きたくない。さぼっちまうか。しかしそれは不可能に近かった。俺はよりによって寮に入っている。つまりサボった時点で追い出されてしまうリスクがあった。
「おはようございます……」
とりあえず挨拶はしなければ。
「おいっ! 何だその不抜けた挨拶は。たるんでるぞ、中! そんなお前にはちょっと優しい現場に行ってもらおう」
「優しいんならどこでもいいっす…」
「楽しみだな」
もう、クズ隊長にイチイチ絡むのもめんどくせー。どこでもいいよ、もう。
「――で、これかよ」
クズ隊長に言われて来た現場は、病院の改築工事の建設ゲート前に突っ立ってるだけ。面白くも無ければ、刺激も無くただ突っ立ってるだけだ。頭上に気を付けるくらい。
改築工事をしてても病院は開いてるが、だからといって看護師がここに立ち寄るわけでもない。クズが言う優しさとは恐らく、怪我をしても病院は目の前だ。ということだろう。
「ふわ~~眠い……立ったまま寝るか」
ドンっ!!! という轟音の後、下の奴、逃げろ! なんて声が聞こえているが俺の顔は最強だから平気だ。ふっ……なんなら受け止めてやってもいい。なんて思ってたが……
「うあ~~いてえええええ……マジか、血だよおい。そこは、そこだけは弱かったぜ。ガハッ……」
俺は自分の血を見ただけで気絶してしまったようだ。ここはどこだ? 知らない天井だ。いや、あまりに白くて綺麗すぎる天井は知らん。俺の住んでる寮は汚いからな。見てられない。
「犬人さーーん、起きられるかなぁ? 大したことないんだから起きてくれる?」
「……ん? 女の声か。声色を聞く限りじゃ俺の範囲外だな。もう少し寝てるか……」
「おいこらぁ! 早く起きろっつってんだろうが!」
「うおっ!? な、何だ? どこの姉ちゃんだよ。ヤンキーいや、それは旧世紀の人だな」
「あらあら。ようやく、お目覚めですかぁ? 駄目ですよぉ。お姉さんを困らせて、しょうのない子ね」
何だこの悪寒は。猫かぶりも出来てないだろ。バレバレだっての。まぁいい、どうやら俺は現場の目の前の病院に搬送されたみたいだな。もっとも、俺の怪我の具合はたぶん軽傷だ。
「ご、ごめんなさい! 怖い夢を見ててすぐには起きれなくて。こ、こんな綺麗なお姉さんがいるなんて思わなくて」
何故俺はこんな言いたくもないことを言わねばならんのか。お姉さんだと? フザケンナ! どう見ても年増、いや、美人ではあるが恐らくコイツはやばい部類だ。
「あら~うふふっ! 嬉しいことを言ってくれるじゃない。ケントくん、初めまして! わたしはあなたの担当医にして美人看護師の、西川 美青。ミオちゃんって呼んでね!」
「ミオちゃん? その年で呼ぶには抵抗が」
「あ? 今何か言ったか? お?」
「ミオちゃんセンセー! よろしくです!」
「うんうん! よろしくねぇ。しっかし、ケントくんはすごいのね~顔は無傷だったのよ? だけど、落ちて来た鉄骨が顔で弾き飛ばされて足に刺さるなんてね~不思議なこともあるものね」
「ええっ!? ま、まさか自分の最強部分が仇になるとは……アホか」
「一時は危なかったのよ? でも不思議なものでね、血が流れ過ぎたと思ったらその血は……いや、オカルトすぎるわ。まぁ、とにかく足だけで済んでよかったわね」
今さらオカルトにビビるわけないが、まぁいいや。しかし、足ごときで担当医? おかしくねーか? 何か誰かの陰謀じゃないだろうな? また木葉が乗り移っている? いや、さすがにないか。
そもそもここ、個室じゃないしな。さすがに他に人がいる状態でそんなリスクはしないだろ。あの子は危険すぎるからな。
「センセー、ところで、あそこに寝ている女の子は?」
「なになに~? ケントくんは小さい女の子が好みなの? 妬けちゃうな。で、彼女は朱里ちゃんね。彼女はずっと、眠っているの。目を覚ましたことがないわ……」
「眠り姫ですか。それはどういう」
「ノンノン! それは個人情報ね。どうしてもって言うなら、ミオが教えてあげるけど~?」
「いや、別に」
「ちょっとぉ! ひどくない? どうして君はお姉さんに冷たいの? こんなに美人なのにー」
「俺は妹が好きなんです。っていうか、妹にしか萌えません。妹以外は眼中にありません!」
「うっわ、マジかよ。モテそうなツラじゃねえだろうが! っと、そ、そうなんだ~じゃあ、そこの朱里ちゃんは好みなんだ?」
「はい! 一目惚れですね。妹決定ですよ。不思議な感じだし、今まで見た中の妹の中でも美少年系はいなかったので、これはこれでイイ!! 髪の色も赤髪なんて珍しいですけど、外国の子ですか?」
「あー……うん。彼女の素性はわたしにも分からないの。ここに、ううん、就任する前からいたみたいだし。10年前くらいかな」
「10年? まさかな。とにかくっ! ミオちゃんには悪いですが、オレはここに眠ってる朱里ちゃんが大好きです。眠っていても、優しく眺めて生きていきますから」
どうよ? 俺の堂々たる宣言! これぞ、真骨頂。美人の姉さん? 帰れ! マジで。
「くすっ、面白い子ね。気に入ったわ! わたしはケントくんを絶対諦めないよ? そして舎弟に」
「ん? 何か言いました?」
「う、ううん。でも、正直言ってこの病院にいるってだけで彼女は起きれる保証はないわ。どこからか入院費は送られてるから、維持はしてるだけで何も手の施しようがないのが現実よ」
「そうなんですか。いや、でも俺なら……朱里ちゃんをどうにか出来る気がするんです」
「どうにか? 手を出したらサツを呼んであげるわ。呼ばれたくないなら、大人しく傍にいてあげてね」
「そ、そうですね」
朱里ちゃんか。ここまで来るともう、次の妹が分かってしまうな。もっとも、木葉の存在が在り続けてる以上は、何人目の妹だなんて言ってられない。
「なぁ、朱里ちゃん。兄のオレがいるからさ、早く目を覚ましてくれよ。な。」
いつもは妹からされてきた。いや、高校の時には俺がやってたが、朱里ちゃんの赤い髪を優しくナデナデしてあげた。早く目を覚ましますように……そして、一緒に話をしような。
「(兄様が来た。ボクの兄様、犬人。大丈夫もうすぐ、能力が戻ります。そしたら、兄様を困らせている奴を沈めてあげます。大好きです兄様)」




