8.シスターズ【前編】
ようやく念願のアイドル警備に行ける! なんて思ってた俺の願望は深夜に行かされたことで消え失せた。うう、ちくしょう。だがこれがかえって良かったのかもしれない。ぼやいて寝惚けていたら、待ちに待った妹が現れてくれたのだからな! しかし追いかけて付いて行った場所がやばい。海、コンクリ、鉄骨、砂などなど、妹には有利な場所だ。
木葉ちゃんがどんな能力かも分からんのに、もう一人いるとは予想しなかった。
「こ、木葉ちゃん~~? あの子は誰かな? もしかしなくても妹だよね」
「覚えていないの? 雫。双子の妹なのに……お兄ちゃんは顔だけじゃなくて頭も残念なんだ……」
「ちょっっ!? まてい! 顔の事はともかく、頭はいいはずだ。頼むからそれは間違えないでくれる? そうじゃないとショックで涙が出てくるから……」
「そうなの? だって見てたよ。鈴音の能力を使わないとケイビインになれなかったよね。だからてっきり……」
「うっ、くうぅ……それについては何も言えない。と、ところで、覚えていない? って言ってたけど、俺の前に出てくる君らって俺が過去に付き合ったことのある彼女とかの念なんだろ? だとしたら、悪いけど俺には忍者とか和服の女の子の記憶がないんだ。ごめんよ」
いくらなんでも無理があるだろ。忍者? それに和服か。うーーん? 双子……双子か。ってか、俺はどれだけの女の子にそんな思いを抱かせてきたっていうんだ。
……ん? 和服の子はどこ行った? さっきまで海の近くに立っていたはずなんだが……チュ……
「うぉっ!!? キキキキ、キス?」
姿が見えないと思ったら、いつの間にか俺にキスしてきたよこの子! って、ん? 何か……覚えがあるような無いような? 何だっけ――?
「可愛い?」
「へ? あ、君のことかな。そ、そりゃあ、可愛いに決まってるよ!」
「……そう。じゃあ、壊してあげる……」
「こ、壊し? ぬあああああ!? 鉄骨鉄鉄鉄……おいおいおい!」
雫ちゃんは何故か知らんが、俺の近くにあった鉄骨置き場に置いてあった鉄を、全て破壊している。しかも触れただけでそれはもう、発泡スチロールのようにポキポキと折り曲げられまくっている。何で? 鉄骨に恨みでもあるのか? よく分からん動きにポカーンとしていた俺にさらに木葉ちゃんも忍び寄って来た。
「あの子は、自分よりも硬いのを忌み嫌うの。でも、お兄ちゃんは硬くないから大丈夫。その代わり、わたしがお兄ちゃんを倒すから」
「そりゃあ、頭は柔らかいが……って、違うわ! ちょっと待ってくれるかな。俺には全く覚えがないんだけど、どうして俺を狙うの? どんな目に合わせてしまったのかな。お兄ちゃんに教えて分かりやすく親切丁寧に欲しいナー」
双子っつったって、記憶の引き出しには全く入ってないし、もしかしなくても僕は冤罪なんじゃないでしょうか? 会ったことないしな。いくらなんでも双子の妹って無理があるぞ。
「お兄ちゃんは今まで妹扱いしてきた女の子のことを覚えているの? その記憶は正しい?」
「そう言われると頭がアレと言われてもしょうがないです、はい……記憶は分からん。俺を10年も寝かせた奴に何かされたとしか思えねえし。だけど、俺自身は昔からこうだし、何が正しいかなんて分からないな」
「ふぅん……ねぇ、お兄ちゃん。水は好き?」
「好きっていうか、必要だからな。生きていくには水は必要不可欠だ! それが何かな?」
「じゃあ、お水、たくさん飲ませてあげるね。たんと飲んでいいよ」
「ん? 大量のペットボトルでも持ってきてくれたのかな? 木葉ちゃん?」
木葉ちゃんは俺に握手を求めてきたのか、小さな手を差し出してきた。なかなか友好的じゃないか。拒むことなんてしない俺は、手を差し出した。手を握った瞬間、何が起きたか分からなかったが、俺の体ごと、しかも警備服着たままの俺を、小さな女の子の力とは思えないほどの力で持ち上げられたと思ったら、海へ放り込まれてしまった。
バッシャァーーーーーーーーーーーン!!
んがごがごぽぽぽ……お、おお? これは海の中か? つ、冷たいな。てか、海水を飲んじまった……
まさか海へ投げられるとは思わなかったな。くそー油断した。水が好きだからってそりゃあないだろ。くっ、警備服が重い……だが岸まではそんな遠くない。これなら……む!?
上を見上げながら必死に泳ぐ俺を、上から眺めている木葉ちゃん。その目は海水の冷たさも重なって、もの凄く冷たさを感じた。3人目の妹からまさかこんな目を向けられるとはな。木葉ちゃんの隣には、さっきまで鉄を破壊していた雫ちゃんの姿もあった。この状態で2人から何かされたらマジでやばい。俺は覚悟を決めるしかないのか? そう思っていたが、2人の姿はすでになく、必死で泳いでいたおかげで岸に辿り着いていた。
「うーーむ……助かった、のか?」
気付いたらすでに朝日が昇ろうとしていた。と言う時点で、やはり夜中の3時だったわけだ。はぁ……
疲れたし、警備服びしょ濡れだしクズに怒られちまうな。自業自得とは言え、妹たちよ、ごめん。
※ ※ ※ ※ ※
予想通りだが、警備服を水浸しにした挙句、現場を離れていた俺はクズ隊長に呼び出しをくらっていた。
なぜ持ち場を離れた? とか、警備服のままシャワーでもしたのか? などと言われたが、女の子が俺を呼んだんです。なんて言ったら、下手すると深夜の警備も呼ばれなくなるし、シャワーについては寝ぼけて浴びました。と答えたが、一着しか支給されてなかった警備服の予備が届くまで、俺は強制的に休みを取ることになった。私服で寮から出る俺に、妹尾さんから声をかけられ誘われたが一応、謹慎中なので断った。
「ふぅ……暇だなー。どこかに行くか? 御手洗の所へ……いや、休みの日にわざわざイケメンを見に行っても俺には何の得もないな。そもそも今度会うときは俺は20歳になってるぜ! なんて宣言してるしな。むぅぅ……」
ギャンブルをやるわけでもなく、何かしたいわけでもない。そんなわけで、俺は大学の時から暇つぶしに利用していたゲーセンに来ていた。昼間から来ている奴なんてあまりいないのがかえって好都合だった。何故なら、ゲームでも妹と相手をしているからだ。
俺がよく通っていたここのゲーセンは、何故か知らんが俺の為に置いてくれているような物ばかりが揃っていた。その中でも、妹を育成する奴とか、妹キャラしか選べない対戦ゲームとか、全ては俺の為にあるような店だ。店名を『妹限定』にしても何も問題は無いんじゃないか? まぁ、さすがに商店街の中だから世間の目は厳しいか。
「お、お前……もしかして犬人か?」
誰だ? 俺を呼び捨てで呼んでいるのは。しかも妹尽くしに浸っていた俺の楽しな気分を打ち消して、おっさんとか許さん! 顔を上げておっさんの顔を睨んだ。
「おっさん……じゃなくて、叔父さん? どうしてここに?」
「久しぶりだな。……お前、30歳だったよな? それにしては若く見えるが……いや、そんなことよりも体の調子はどうなんだ? 仕事は今何をしている」
「体は何ともないこともないが、元気。仕事はアレだよ、警備員。叔父さんは?」
「そうか。知らなかったか? 俺はここの店長だ。犬人が妹好きなのは知っているぞ? だからこの店はお前の為の店みたいなもんだ。いわば趣味だ」
「お、おぉ……そ、そうだったのか。それは、複雑だな。素直に喜べねえ……っていうか、クレーンゲームはやめたのか? ほとんど見かけないが」
この店に入って来てから何か寂しさを感じていた。どこのゲーセンでも見るクレーンゲームが、ここでは見えなかった。本来なら対戦ゲームよりもクレーンの方が儲かりそうなのだが……
「ここに来てくれる客ってのは、お前よりもそんなに妹目当てじゃないんだ。特にここは商店街の中にあるしな。手軽なゲームには金を使ってくれるが、クレーンは金もかかるし取れたら取れたで喜ぶ客の方が少ないんだ。ただ、お前が眠る前までは、双子シリーズが人気だったぞ? 一回の料金でいっぺんに2人は嬉しいしな。お前も当時はゲットして喜んでた。今でも大事にしているのか?」
「いや、10年も眠っていたし、家、俺の家はどこだ? なぁ、叔父さん」
「あ、あぁ、お前の家は残ってるが……今はマンションの建設予定地になっててな。今は骨組みの段階だ。まだ家の原型はとどまっている。だが、雨が降る度に屋根を外された家の中に水が溜まって足元も不安定だ。恐らく、お前の部屋だった所も水浸しになっているんじゃないか」
「ってことは、俺が大事にしていた妹コレクションや、双子シリーズも水浸しになっているってことか!? ちくしょう! 叔父さん、場所教えてくれ。今ならまだ入れるんだろ?」
「……これがカギだ。気を付けて行ってこいよ。そして、また俺の店に通えよ? お前の為に揃えといてやるから」
「おうっ! 期待してるぜ!!」
そうか、俺の家がマンションにか。当然だよな。両親はいなくなり、俺もどこかで眠っていたんだからな。俺は急いで家のある場所へ向かった。
あの双子について何か手がかりがあるのかもしれない、そう思ったからだ――




