オマエヲ コロッ
今日、郵便受けに奇妙な手紙が入っていた。宛先も差出人も書いていない、淡いピンク色の封筒。
もしやラブレターかと思い、俺はドキドキしながら自分の部屋へ向かった。
机に着き、震える指で封筒を丁寧に開封し、便箋を取り出す。
折り畳まれた便箋を広げてみると、そこにはワープロの文字でこう記されていた。
『オマエヲ コロッ』
なんだこれは……。
あまりの下らなさに俺はガックリ来てしまった。
悪戯のつもりなのかは知らないが、最低の手紙だ。一体、どこの何者の仕業なんだろう?
そもそも『コロッ』てなんだよ……。たぶん、『コロス』とタイプしようとしてミスしたんだろうな。普通、印刷する前に気付かないか?
何がコロッ、だ。俺を転がすつもりかよ? ハハハ、笑っちゃうね――。
「……つまり、息子さんは家に一人でいたのですね。玄関には鍵が掛かっており、他の入り口や窓も施錠されていた。何者かが侵入した形跡はない、と」
泣き崩れている母親から事情聴取を行い、刑事は首を傾げた。どうにも奇妙な事件だ。
何者かが外部から侵入した形跡はなく、現場には被害者が一人きりでいたという。
被害者の少年は自室で机に着いた状態のまま、身動き一つ取る事もなく被害にあったらしいのだが……。
「警部、被害者が読んでいたと思われる手紙がありました」
「差出人は不明か。開封した形跡があるという事は、被害者が書いた物ではないな。これが犯人を特定する手掛かりになれば良いのだが」
「しかし、どういう意味でしょう。『オマエヲ コロッ』だなんて。『コロス』のタイプミスですかね」
「脅迫状にしてはお粗末すぎるな。余程急いで用意したという事なのか……」
現場の惨状を目にして、刑事達は眉をひそめた。
部屋の隅にコロッと転がった少年の生首は、笑顔を浮かべたまま虚空を見つめ続けていた。