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小説家と凡人

 

 

 俺は夕映えのする教室の隅で、遥か彼方を見ながら、黄昏に耽っていた。

 もちろん、今の俺、超絶にかっけえ、って当然のように思っている自分を自覚して。


「人生が詰んでいる閉塞感、可能性が閉じられている」


 はふぅっ、ため息が漏れる。

 俺は眼前のスマホの画面を、もう一度見る。

 そこには惨憺たる結果発表がある。

 その画面には「文豪になろう」に、今日一で投稿した俺の小説の、詳細な情報が載っているのだ。


「はあ、まあな、俺って冴えないクソ高校生だしぃー」


 PV二桁、ブックマークも、当然感想もない。


「だから面白い小説が書けないって、言い訳だろうか?」


 逆に、人生が詰んでいない、無限に可能性が広がっている。

 己が幸福の絶頂で、この世の支配者だったらどうだ?


 俺は面白い小説が書けるのだろうか?


「ねえねえ、この小説、書いたの?」

「はあ? てかちょ……」


 俺は飛びあがって、後ろを振り返った。

 そこには一人の少女、と形容するのが淡白になるほどの、圧倒的な存在が居た。


「なんだ、シャルロットかよ、驚かせんなっ」

「馬鹿ね、背後に忍び寄ったくらいよ、か弱い乙女が」


 どこが、だ。

 このシャルロット呼ばれる少女の見た目は、常軌を逸しているで有名だ。

 流麗な腰まで届くスーパーロングツインテール、超絶なスタイル、西洋人形のような整った精巧な容姿。

 その他にも、様々な特典が盛り沢山につき、学内では完璧超人、あるいは人類最強として名を馳せてるのだ。

 

「ふっふ」


 そんな少女と、誰もいない夕暮れの教室で、俺は微笑みかけられていた。

 その瞬間、俺はある事に気付いた、

 スマホが無いのだ、

 見回すまでもない、眼前のシャルロットが勝手に取って、勝手に画面を穴が空くほど見ているのだ。

 俺の背筋は凍りついたね。


「返せバカ!」

「馬鹿とは無礼ねっ」


 ひょいひょいと、取り返そうとしても、力技のような体裁きで全部かわされる。


「はあはあぁ」

「興奮しないの、どうどう」


 くっそ、挙句の果てには、俺は息が乱れて椅子に座る、その頭の上にシャルロットが肘ついてやがる。


「これって、あんたが書いた、ライトノベル的なモノなの?」

「ああ、そうだが?」


 シャルロットが、机を回り込んで対面から、問うてきたので、もういいやと隠すのをやめる俺。


「ふむふむ、へえ、これが、あんたが書いた、ねえ」

「なんだ? つまらないってか? はん! 知るかしるか! 自己満足で適当に書いただけだ!」


 俺は自然と大声になった、

 シャルロットは「強がりを言ってるのが、みえみえ」ってムカつくぶっ飛ばしたい事を、ギリギリの可聴域で呟く。


 はあ、それにしても、

 俺の処女作、しかも実は渾身の、を、

 夕映えのする教室で、美しい一人の女子が見ている、

 目を凝らしながら読んでいる。


「まるで、エロゲーの導入部みたいだな」


 俺は憂さを晴らす為、普通にセクハラのつもりで言ってみた。

 だがシャルロットは、くすりと笑って。


「美少女が出てくるだけで、エロゲーにしたがるなんて、あんた可愛い奴ね」


 と言って、俺のデコをデコピンしてくれた、全然痛くない、甘酸っぱくなるむず痒さだ。


「あんた名前は?」

「小野かなで」

「わたしは、シャルロットよ」


 確か、西欧の王族とか、なんかの噂で聞いたな。


「お嬢様なんだってな?」

「そうよ、良い御身分でしょ?」

「ホントにそうだ、羨ましいったらない、俺も王族に生まれたかった」

「ふふっ、カナデとは生きている世界が違うのよ」


 それにしても、笑うと極端に可愛いな。

 外人ってのは幼い顔立ちになりにくい印象があったが、シャルロットは全然ロリ系寄りの顔立ちだ。


「なに? わたしの顔が可愛過ぎて、見惚れた?」

「べつに、たいしたもんじゃないぜ」

「そう? わたしは自分の容姿を誇っているのだけど、残念ね」


 俺は考察を続けた。

 この顔、だが、別にえげつないロリでなく、その整った顔と、凛とした物静かそうな雰囲気、

 でも、強気なツンデレみたいな、意志の強そうな目がスパイスで、とんでもない魅力的な少女に成ってやがる。

 だから第一印象は、平凡に美少女。

 しかし俺は違う、初めから俺はシャルロットを「化け物」そういう目で見ている。


 そう、それは昨日の事のように思い出せる。

 シャルロットは、壮絶な瞳で、薄闇の中で剣をふるっていたのた。

 決して、人間の成せる領域に無い、神速のスピードで。

 だから、俺の判断では、シャルロットは幽霊のように、実存不可能存在として、最初から定義される。


「へぇ、カナデ、あんたわたしの正体に気づいてるんだ?」

「なんだ? 知らんが?」

「嘘、わたしの問いに、コンマのタイミングで、瞳が数ミリ、挙動不確かに反応した、黒ね」

「読心術って奴か?」

「別に、勘よ、でもまあ、その反応はやっぱり、あんた、わたしの事を知っているようね」


 微妙な沈黙。


「俺を消すのか?」

「ぷうっ、」

「なんだ、そのムカつく反応は」


 シャルロットは、ぱんぱん手を叩いて、喜んでいる様に見えた。


「あっははっ、確かに、わたしの力を使えば、カナデ程度、簡単に消せるけど、別に消さないわよ」

「なんでだ? 俺はシャルロット、お前の秘密を知ってるんだぞ?」

「いやあ、秘密じゃないし」

「なんだ、そうだったのか、あまり俺に気を使わせるな」

「ごめんあそばせ。

 それと、シャルロットって呼ばないで、長いわ、シャルでいいわ」

「当たり前だろ、俺も長いと思っていたんだ、さっさとそう言え、俺を待たせるな!」


 シャルロットは、俺の一喝に、キョトンって感じで、目を丸くした。


「ねえ、カナデ、あんたって面白い奴ね」

「そうか? それほどでもないが? 気づくのが遅いな」

「クールぶってるけど、カナデ、喜んでるでしょ?」

「なぜだ?」

「だって、こんな美少女で、明らかに知的にも遥かに優れるわたしに、褒められて、内心青春のトキメキで一杯、だったり?」

「ふざけないでくれ、俺は一考に喜んじゃいない」

「なんだ、ただの可愛い奴じゃないのよ」


 シャルロットは、何が楽しいのか、カメラマンのように俺の周りをうろうろしだした。


「それにしてもねえ、これって小説でしょ?」

「それ以外の、何にシャルは見えるんだ?」

「いやねえ、こんな恥ずかしい文章を、わざわざネットに公開するって、どういうつもりなの?」

「おい、酷過ぎるだろ、そんなに無様な小説か?」

「いえ、別に」

「だったら、どうしてそんな事を言った?」

「ノリよ、カナデを馬鹿にしたかった気分だったから」

「つまり、ストレスが溜まったからやった?」

「後悔はしてないけど、反省はしてるわね」

「やり得じゃないか」

「反省はしてるのよ」


 俺は神妙にシャルロットを見つめた。

 

「いったいカナデの神経はどうなっているのか?ってね」

「はあ?」

「女の子を穴が空くほど見つめて、恥ずかしくないの? 理解に苦しむわ」

「おいおい、怪しい言動をするシャルが悪いだろ」

「それに、カナデは妄想癖があるみたいじゃない、この小説がその証明よ」

「実生活に支障が無い妄想は、想像っていうんだ」

「実生活に支障が無い妄想として、想像の世界で、今夜わたしに何をするの?」

「やめろ」

「、、、、を、わざわざ文章にするなんて、貴方って変態ね」

「ますますエロゲーっぽいから、いい加減やめてくれ、俺は文学系のオタクだ」


 シャルロットはそこでため息をついて、つまらなそうに俺を見た。


「残念ね、わたしは低価格帯の凌辱ゲーが大好きな人種よ」

「マジかよ」

「マジよ。

 貴方はそうね、大方そういう系統に興味はあるけど、年齢制限もあるし、やった事が無いけど興味は人一倍にあるって感じかしら?」

「やめてくれ」

「人の心を読むのは?」

「違うっ、人を小馬鹿にするのはっだ」

「それじゃいいわね、カナデを大馬鹿にしてるのだもの」


 こいつっーーー!!!


「それにしても、これよ、残念ね。

 どうせ、誰かに読んでもらう為にネットに投降したんでしょう?

 あまり、読んでもらえなかったみたいだけど」

「ぐぅう、いんだよ、自己満足のオナニー小説だ」

「読まれたくて、書いたんでしょ?」

「違うね」

「そうじゃなかったら、こんなに長くは書かないでしょ? ほら」


 シャルロットが画面を見せてくる。

 そこには一年前から書いていて、話数が三ケタの俺の小説があった。


「うっ」

「ああ、泣いちゃうのね、可哀そう、可愛い」


 俺は泣いた。

 ぽろぽろ涙を零した。

 だが別に己の小説の不遇さ、にではない。

 眼前で公開処刑のように、もの凄い美少女に憐れまれ、醜態をさらした事に対してがほとんどだった。


「さすがはカナデ」

「今日会ったみたいなモンだろ」

「前々から目を付けていたのよ」

「はあ?」

「カナデには、わたしの奴隷になる才能があるってね」


 顎のあたりをクイと持ちあげられる。


「泣き顔が、とてもキュート、可愛いわ」

「や、やめてくれ」

 

 反論したくても、出来なくなってしまう。

 こんなモンの凄い美少女に言われたら、ツンケンと出来なくなってしまう、丸めこまれてしまう。


「どう? 奴隷に成る?」

「ことわる」

「なんで?」

「シャルの、そういうの、いやらしいと思う」

「あはっ、振られちゃったわね」


 そう、流石に奴隷には成らない、かなり圧倒されたが、理性が崩壊するほどじゃ無かったのだ。


「ねえ、カナデの夢って、小説家?」

「ああ、俺はライトノベル作家に成りたい」

「へえ、目指してるんだ、成れそう?」

「成れなさそうだ」


 シャルロットは笑った、あはあは笑った、それから。


「それじゃあ、わたしがカナデの夢を叶えてあげるから、奴隷に成って」


 そんな事を臆面もなく言ってのけた。


「俺の夢を叶える?」

「そうよ、わたしなら、カナデの夢を実現させられるから、そう言ったの」

「そこまで俺を奴隷にしたいか?」

「ええ、調教したいし、屈服させたいし、支配したいと思うのよ」

「マジかよ」

「大マジよ」


 なんとなく、本気っぽい。

 本気のオーラって奴があったら、シャルロットの周りに漂ってそうな位にマジっぽい。


「というか、夢を叶えるって、どうやって?」

「興味出てきたって事は、こっからは交渉パートって事?」

「知的好奇心を満たすだけだ、さっさと答えろ、俺は忙しいんだ」

「せっかちね。

 まあ小説家になる方法なんて、わたしが軽く考えただけでも数十、いえ、腐るほど存在するわ」

「へえ、それじゃあとりあえず、一番簡単なのを言ってみろ」


 シャルロットは、俺のスマホを操作して、「文豪になろう」のログイン画面を見せる。


「よく見てなさい」

「はいはい、何が出てくるんだが」


 それから、ユーザーIDとパスワードを入力する。

 ログイン、そして俺とまったく同じ書式のホーム画面を表示する。


「ほお、シャルも文豪になろうのユーザーだったのか、先に言っとけよ」

「はい、ちょっと見てみなさい」


 俺は言われた通り、シャルロットそのままの名義のユーザー画面から、小説の情報を閲覧する。


「どうしたの? ぷるぷる震えてるけど?」

「どういうことだ?」

「なにが?」

「この書籍化作家様のユーザー画面は、いったいなんなんだ?」

「馬鹿ね、わたしがそうだって、つまりは簡単なことじゃないの」


 なにげに、すげえドヤ顔。


「恥ずかしい妄想って言った癖に、シャルロットだって俺と同じような物語を書いてるんだな」

「恥ずかしい妄想って言ったのは謝るわ」

「いいや、許さない」

「まあ、それはどうでもいいわ」

「よくない」

「それで話の続きよ」


 完全にスルーしやがった。


「カナデに、それ上げるわ」

「はあ?」

「はい、小説家になれたわね、ちゃんちゃん」

「ふざけんな、このアホウがあ!」

「駄目なの?」

「駄目に決まってる、実力でなれなきゃ、意味が無い」


 シャルロットは「ふーん」と詰らなそうに言って。


「それじゃあ、一生なれないかもしれないじゃないの」

「確かにそうかもな、それでも成るんだ」

「不確実で、その上、気が遠くなる話ね、わたし好みじゃないわね」

「シャルの好みなど知らん」

「あんたが好みよ」

「そういうのを、やめろ」


 俺は赤面して、手汗までかいた、ばれないように机に伏せて、手も後ろに隠した。


「そうだカナデ」

「なんだよ、うわっ!」


 どんな力学か、顔を持ちあげられ、手も恋人繋ぎになっていた、とんだ悪夢だ、マジで非現実的。


「顔真っ赤だし、なにこれ、美少女過ぎて、興奮し過ぎた?」

「やめろやめろやめろ」

「やめない、ただ手を繋いでるだけだし」

「セクハラだ」

「言ってなさい。

 それでほら、あれよ、いつもカナデって、授業中に必死に書きとめてるじゃないの」

「はあ?」

「とぼけても、無駄、邪気眼中二病ノート、出しなさい」

「俺がそんな恥ずかしいモノを書いてる前提かっ??!」

「そうよ、ほら、言われたらさっさと出す」


 俺は隠すのが無駄と悟っているので、さっさと出す、面倒なのは嫌いだ。


「分厚い辞書の中に、薄いノートで隠すなんて、酷く芸術的ね」

「どこがだ」

「コレと、にらめっこしながら必死な姿、酷くわたしをソソッテいたのよ?」

「知るかと言った」


 それから、俺はそっぽを向いていた。

 シャルロットが見ているのを、正視できなかったからだ。


「おい何をしてるんだ?」

「なにをって?」


 俺は久しぶりに、恥ずかしくて緊張してどれくらい経ったか体感で把握できないが、シャルを見て。

 

「何かをノートに書いてるから、凄く気になるぞ」

「なにっ?」

「書いてる事を言え」

「わたしの物語の設定を加えて、遊んでいるの」

「こんの悪魔がっ、その作業をいますぐやめろ!」

「うっふっふ、てて、ねっ」


 俺は恥ずかしくて、さらに馬鹿にされてる気がして、シャルからノートを分捕ろうとする。

 だが、どんな奇術を使っているのか、スルスルと回避されて、絶対に捕まえられる気がしない。


「ぜえぜえぇっ、勝手にしろ」

「そんなに興奮した? 敏感で本当にかわいいわね」

「やめろ、本当にやめろ」


 椅子に座る俺の、頭の上に両肘を乗せるシャルロット。

 なんか既にお決まりのパターンが入った感でムカつく事いかがわしい。


「わたし小説家だけど、カナデは小説家になれると思うわよ?」

「えっ?」

「驚く事?」

「当然だ、俺には才能なんて、全然ないだろ?」

「ああ、そういうこと」

「どういうことだ?」

「いや別に、そういう意味にも取れるんだって、そう思っただけ」

「話が見えない、俺が小説家になれる理由を簡潔に答えよ」


 シャルロットはジッと、俺の瞳を見据えて言う。


「わたしは、カナデが小説家に成れれば良いと思う、ってそういう事よ」

「はあ?なんだそれは?」

「そのままの意味。

 加えて、わたしの視点からなら、カナデが小説家になる運命を見通せたりして、現実感がカナデ視点とは違うのかも」

「くそったれっ、上位者ぶりやがって」

「ふっふっ、実際そうなのだからしょうがないでしょう?」

「それだけなのか? 本当に?」

「さあ、だいたい小説家なんて、酷く曖昧なモノよ。

 わたしはカナデに魅力を感じて、奴隷にしたいくらいに思ってる。

 それで、小説家のわたしがカナデの小説を見て、小説家になれると思う、そういうこと」

「どういう事だ、シャルは小説家の癖に、説得力が無さ過ぎる」

「十二分に説得力はあったわ。

 一応言っておくけど、わたしは立派な小説家よ、舐めないでもらえるかしら?」

「ふん、どうせ偶々売れただけの、実力なんてタカが知れてるのだろう?」


 シャルロットは、高慢ちきに「ふん」と鼻で笑って、スマホを見せる。


「累計売上、500万部よ」

「なんだそれは?」

「そのままの意味よ、価値よ、どうよ? 

 これほどの数字で、わたしに本当に実力がないと、カナデは断言できるの?」

「無理に決まってるだろ」

「わかればいいのよ、わかればね」


 言葉の最期に、俺のスマホを手渡してきた。


「今日はこれで終わりね」

「はあ、なんだ? もう俺には飽きたのか?」

「飽きるとか飽きないとか、カナデはそんな低次元な次元に存在する存在なの? 違うでしょ」

「だから、今日会ったようなシャルに、俺の何が分かるのか?」

「全部分かってんのよ」

「知ったような口を、生意気な奴」

「それじゃあね」


 シャルロットは教室の出口に向かわず、窓に向かったので、俺は怪訝がる。


「カナデ、あそこにある、一番高いタワーの最上階で、これからわたしは会食があるの、凄いでしょう?」

「凄いな」

「わたしはつまり、超超、金持ちお嬢様で、ファイブミリオンできるくらいの超小説家で、才媛なのよね」

「はあ、だからどうした?」

「へえ、驚かないんだ?」

「別に」

「そう」


 シャルロットは今度こそ教室の出口に向かった。


「まあいいわ、あ、そうだ、カナデは明日までに、文豪になろうにある、わたしの小説を全部読破しておくこと、いいわね?」


 俺はそんな無茶苦茶な台詞に「できたらな」とだけ答えた。

 シャルロットは、俺の言葉をまたず去って行った。


 その夜、俺はシャルロットの書くスペースオペラ的な戦記物語を読んだ。

 朝になっていた。

 俺はシャルロットの大ファンになった。

 尊敬した、敬愛した。 

 俺は小説でなら、シャルを心の底から慕えそうだ、そんな風な感慨と共にトーストを頬張った。



 登校した。 

 シャルロットが、来た。


「実はね、わたし、、あんたの事が好きなの」

「昨日言ったろうが、それと他の人が聞いてるから、やめろ」

「そうね、露出趣味の変態でもなければ、やめるべきシチュエーションね」

「俺がそうだとでも言いたげだな」

「そうだといいのにね」

「意味深だな、俺は絶対にそんな有様にはならんから、安心しろ」


 昨日と変わらないやりとり、だが俺の内心は違っていた。


「そういえば、シャルの小説を読んだぞ」

「へえ感想は?」

「どうしてシャルは、俺なんかと付き合う?」

「はあ? どういうこと?」

「あれほどの小説家だ、俺なんて塵芥に見えるだろ?」

「馬鹿ね。

 あれほどの小説家が、あんたに恋してるのよ?」

「嘘だな、俺は雑魚作家、底辺作家だ、超小説家に好かれる要素が無い」

「あんたが気づいてないだけよ。

 カナデには、無限大に魅力があるわよ?」


 シャルロットが、本当に愛しそうに俺を見る。


「なんだこの展開は、ありえん、本当にエロゲーのようではないか?」

「現実じゃないの、だいたいカナデは、エロゲーした事ない癖に」

「確かにそうだが、って、そんな事はどうでもいい」

「そうね、好きよカナデ」

「やめろ、シャルロット、なにを企んでいる?」

「貴方とデートしたいとか、考えてるけど?」

 

 なに、この展開。

 俺は自分の頭が可笑しくなっているのではないかと、本気で心の底から本心で疑った。


「昨日言ったな、俺の事が前々から気になっていたと?」

「ええ。

 最初からよ。

 最初に瞳を見たとき、最初に同じ空気を吸った時、

 既に恋に落ちていた、と言っても過言じゃないわよ?」

「くだらん、嘘をつけ。

 シャルの言葉には、一切のリアリティーも、臨場感も、迫真も、本気さも感じられん、オリジナリティーもだ」

「大小説家に向かって、酷い良いようね」

「それくらいには、説得力が無いからな」

「まあそうよね、嘘だもの」

「なんだと?」

「さっき言ったのは、嘘、冗談よ」

「本当のところは?」


 ニヤリと薄笑いが口元を彩った。


「ねえ、これから、それを当てるゲームをしない?」

「嫌だ」

「つれないのね、そこは即答でおkでしょ?」

「妙なイントネーションだな」

「まあいいわ、気長にやるもの、信じてもらえるまで」

「信じる信じないではない、俺にとっては疑わしい、それにどうでもよいことだ」

「酷いわ、乙女の恋心を踏みにじる気?」

「そんなモノがあるのなら、な」


 さて、自慢じゃないが、俺はボッチだ。

 教室で一人で弁当をつつける精神力を持つが、夏は中庭で食べる事にしている。

 そう、俺は高校では友達が一人もいないのだ。

 ヴィジュアルは比較的目立たない方だ、だから一人でも浮きはしない、っと思っている、たぶん真実だ。


「こんにちは、カナデ」

「ああ」

「ご一緒して良いかしら?」

「ご苦労な事だな、お嬢様が、庶民と合い席にわざわざ足を運ぶとは」

「いいじゃないの、わたしはカナデが好きなのよ」

「どうだか」

「ホントよ」


 俺は昨日の、シャルロットの小説を読んでから、万が一にも、それがありえないと思っている。

 なにかしらの企みがあるのだろう。

 おおかた、俺がコロッと靡いたら、はいさよなら、そういう恋愛の駆け引きをゲームに見立てて遊ぶ悪魔、それが現状の俺の推理だ。

 もちろん、俺としては、そんな無様を晒す気は毛頭なく、コロッとシャルにうっかり恋する事もないだろうが。


「ねえ、カナデは本当に、小説家になりたいの?」

「ああ」


 俺は食後の休憩を、ただ空を見ていて過ごしていた。

 シャルロットも同じように、俺と同じモノを見ていた、俺と同じモノを見たいとか、そういう可愛い理由じゃないだろうが。


「わたしもよく考えたんだけど、カナデの言うカナデの認める方法じゃ、やっぱ難しいと思うわよ」

「ああ? なんだ? 俺が小説家になれないってか?」

「うん、まあ、そういうことかしらね、相当に難しいっていうか、わたしじゃないと無理って言うか?」

「どういう理屈だ、小説家が小説家になれて、当たり前だろうが」

「言葉遊びよ。

 それで、わたしはカナデは、小説家になって欲しいけど、実際問題、難しいと思っているのよ」

「なれると言ったではないか、あれは嘘か?」

「なれるわよ、可能性はあるもの」

「ここにきて言い訳か、超小説家の癖に、しっかりと伏線を回収できないとは、見損なったぞ」

「ふっふっ、つくづく面白いカナデね、わたしにそこまで挑発的に相対できる奴は、そうそうは居ないわ」

「だろうな、俺は俺だからな」

「やっぱ好きになって良かった、カナデは最高に最高だわ、カッコいい」

「やめろ」

「照れちゃうの?」

「違う、白々しいと言ったんだ」

「うっふっふ」


 クソ、調子が狂わされる。


「あれ? なんで泣いてるの?」

「泣いてない」

「ああ、カナデ、可哀そう。

 やっぱりわたしとは、天と地の差があるって、気づいちゃったんだ?

 だけど大丈夫よ、恋ってのは、それはそれは素晴らしくて、カナデが雑魚作家でも大丈夫なのよ」

「底辺作家だ、雑魚ってのは気にいらない」

「あらあら、哀れなカナデは可愛いわね、よしよし」

「やめろっ、俺に触るんじゃない、触ってくれるな」

「いや、触りたい、ごろごろされなさい」

「こんのぉっ!」


 俺は暴れた、そりゃ暴れた。

 だが最終的に、なにがどうなったのか分からない、俺は絶息して、シャルロットのお弁当をあーんされていた。


「ほら、美味しいでしょう?」

「まずい、食えたもんじゃない」

「いじけてるの?」

「俺は小説家になってやる、そしてお前以上の、上位存在になってやるんだ」

「ぷうぅ、無理無理、それは無理、100%無理」


 そこでシャルロットは、今まで見せてない、始めてみる、好戦的な目をした。


「ねえカナデ? 小説家にはなれるよ、だけどさあ、それは絶対に無理なんだなぁあ?

 ねえお兄ちゃん、足し算って分かる?

 そうあれ、あの簡単なの。

 わたしって、ほとんど無限大なのよね。

 それで、カナデは有限大、どれだけ無上に足し算しても、わたしには既に追いつけないと言うか、

 生きてるスケール、次元が違うと言うか、ね? 分かるかな? カナデくん?」


 そうか、そういうことか。


「やっと分かったぞ、シャルロット、お前の弱点がな」

「はあ? なにが?」

「シャルロットは、敵対者に弱いんだな」

「違うわよ、ぶっ殺したくなるだけよ」

「面白いな、絶対にシャル、越えてやる」

「止めた方が良いよカナデ、わたしを敵に回すと、後が怖いから」

「大丈夫だろ、俺に恋してるんだろ?」

「うっふっふ、そうよ、恋してるから、敵でもトッちめない。

 あーどうしようかなぁー、カナデ?」

「知るか、自分で考えろ」

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