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詩集「くらしいの歌」

言葉のメトロノーム

作者: くらきしい

 夏は、呼吸が上手くできない。

 なんて言うと、まるで病人みたいだけれど、そんな重症ではない。昔から、夏はよく具合が悪くて布団に臥せっていた。それが「呼吸が上手くできない」からだと気づいたのはごく最近のことなんだ。

 数年前、私は吹奏楽部に所属していた。そこで、私は定番で致命的な悩みを抱えていた。

 テンポキープができない、のだ。

 メトロノームの針が、だんだんぼやけて見えてくる。頭で刻む正しいリズムを、身体は正しく再現できなくて、責めるようにカチカチとずれていく。直す努力をして、無い頭で必死に練習法を考えて実践してみたものの、一度テンポを見失うと小節の頭がわからなくなってしまう。今でも音楽を聞きながら、テンポを刻んでみる。少しはマシになったきがするけど、今さらだ。

 たとえば、メトロノーム。

 たとえば、手拍子、指揮者、演奏。そして、呼吸、鼓動。

 まるで自分の身体は正しいリズムを拒絶してるみたい。

 いや、少し違うかもしれないな。

 普通のリズムを刻めないんだ。周りに、誰かに、合わせられないんだろう。自分の頭と身体さえ揃わないというのに。それだけで精一杯なのに。

 他者にもリズムにも合わせられない自分にとって、この世は生きづらいと思った。

 

 詩や小説にもリズムがある。見えても見えなくても、ある。

 私はこれがすごく気になる方だと思う。推敲段階で一番悩むのは、文末を「た」にするか「る」にするかだったり、とある一文のリズムが悪いと全体の流れを壊して不快だから、何度も読んで直そうとする。よくわからないけれど、自分の中に基準が存在するのだと思う。言葉のメトロノームがあるんだと思う。

 正直、それが良いことだとも思わない。このメトロノームは、書き言葉限定の不完全なもの。私の、話し言葉のメトロノームは壊れている、いや、書き言葉のそれに引きずられてしまっているということか。

 人と話すのは少し怖い。リズムがわからない上、修正もできないから。推敲できないから。


 音楽と言葉は似ていると思う。

 似ていて、どちらも私は好きだ。けれど、私は言葉と同じことを、音楽に対してできない。

 良い音とリズムは切り離せないものだ。相思相愛、以心伝心。

 表現はその上にあって、時に残酷なほど厳しい。しかし、時に優しく私を慰める。

 

 だからもう少し、この身体のリズムを狂わせないようにしなければ。

 生きていようと、思うのだ。

 

 

 

 

 

 


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