4.灯火の冬
夜。町明りがにぎやかな頃。
一人の女が自分の前で雪だるまを眺めていた。
今、この町で十年に一度しか降らない雪が降っていた。
その女は、その十年に一度しか降らない雪で作られた雪だるまを眺めていたのだ。
遠くからある男が自分のほうにやってきた。
「なぁ、さっきからお前そんなところで何やってんだ? お前、もう十五時間もその雪だるま見てるぞ。 何かあるのか?」
いきなりやってきて雪だるまを眺めていた少女に話しかける。確かに、朝六時からずっと眺めていた。だが、自分の前で雪だるまを作ったやつも知らないし、少女が自分のほうに歩いてきたのを見ていない。こいつは本当に気配を感じさせないやつだ。
「雪だるまが溶けるところを見てるんだ。悲しいよね、虚しいよね。雪だるまが溶けて容が崩れてやがて、何もなかったように存在を消すなんて」
「だったら、まだたくさん雪があるんだから継ぎ足せばいいんじゃないの?」
「それは、だめ。その人の想いがたくさん詰まってるから。願いが叶わなくなっちゃうから」
「そうか、だったら俺も見届けてやる。その雪だるまが溶けるまで」
「いいの?」
「ああ」
会話が終わってから男と女が一言も会話せず数時間後。そして、雪だるまがあともう少しで溶けそうな時だった。
「なぁ、俺少しトイレ行ってくるわ」
「うん」
そして、男が歩き始めた瞬間。初めて女から男に話しかけたのだった。
「ねぇ、ありがとうね。私に、こんな地味なことに付き合ってくれて」
「別にかまわないよ。暇だったし。じゃあ、行ってくるわ」
そういって、男は歩き始めた。女は男の姿がなくなるまで男のほうを見ていた。そして、もう完全に雪だるまが無くなりそうな瞬間、女は自分のほうを向いた。
「ありがとね。聡くん。今は桜木さんかな?」
自分もついに言葉を発する。
まったく、お前は。あの男、お前に恋していたぞ
「しょうがないじゃん。私は雪だるまなんだし」
お前、前回も同じことを言っていたぞ
「えっ? そうだっけ? 十年に一度しか出て来れないから覚えてないや」
小悪魔だな、お前
「そんなことないよ~」
……
「じゃあね、聡くん」
ああ、また十年後だ
そして、自分はこの物語を終えようと思う。
自分は、何をしていたんだ?
そうそう、あいつのいる空へ行く為の準備だっけ?
いや違う。
物語を語っていた。
記憶までも曖昧になってきた。
さあ、次の物語に行こうじゃないか。




