疑問
私は拓磨君と一緒に階段を下りている。
「えっと、次行く場所は...」
拓磨君は地図を見て、次に行く場所を確認しているようだ。
「あ、次行くのはこの村みたいです」
拓磨君が地図のある場所を指さしながら地図を見せてくる。
その地図に指されている場所は、
「『水の都』と呼ばれる村だね...」
「はい。とりあえずここに向かいます」
「分かったよ」
そう返事すると、しばらく無言で階段を下りる。
しばらく降りると、クリーム色のコートが落ちていた。
「これは...」
拓磨君がしゃがんでコートを観察し始める。
「どうかしたのかい?」
「...」
拓磨君は返事をしない。
うーん。
ちょっと待ってよっかな。
その間、私はフェニックスとの会話を思い出していた。
「さて、サラよ」
「...なんだい?」
フェニックスは少し間をあけると、口を開いた。
「お主が魔王討伐に行く時じゃ。わしがお主に助けられたのは」
何を言い出すのかと思えば、昔話のようだ。
「そうだね」
私は適当な相槌をうつ。
実は、勇者と一緒に魔王討伐に行く途中でフェニックスを助けたのだ。
元々ここは『炎の塔』ではなく、魔族の砦だったのだ。
勇者と一緒にここを制圧するときに、フェニックスを助け出したのだ。
「わしは魔物じゃ。だから、勇者はわしを殺そうとした」
そう、フェニックスは『不死鳥』と呼ばれる魔物なのだ。
「でも、お主は違った。私を殺そうとする勇者を止めてくれた」
「どっちにしろ死ななかっただろうけどね」
不死鳥はその名の通り、死なない鳥だ。
殺そうと思って殺せるものではない。
「...さて、こういうわけで、お主のことを注意深く観察してきた。たまに会いにいった時も、たまに遊びに来てくれた時も」
私はそれ以来、フェニックスに心を開いた。
元々は魔族が砦を奪還しに来ないかと思ったからだ。
でも、フェニックスと話しているうちに、だんだん警戒心がなくなって、愚痴を話すこともよくあった。
「だから、分かる。今お主が何を考えているのか」
「...え?」
私が驚いていると、フェニックスが口を開いた。
「きっと、『私がお主の力を取り戻した』ことを『魔王をもう一度倒しに行け』と結びつけたのだろう?」
「...」
図星だった。
何も言い返せなかった
私が黙っていると、フェニックスは優しい声で
「...できれば、お主には戦ってほしくはない」
と言った。
「お主が魔王との戦いに敗北してから、お主は二度と戦いに行くことはない、と思った」
「...」
「でも、奇妙なことにお主はあの男と一緒に魔王をもう一度倒しに行こうとしている」
「...」
「だから、わしはお主に協力することにしたのだ」
「...」
「...サラ」
先ほどよりも幾分か厳しい声で名前を呼ばれ、顔を上げる。
「本当に、あの男に付いて行くのだな?」
「...」
私は少し考える。
でも、考えた時間はほんの一瞬。
彼の顔を思い浮かべた時には、
「うん。もちろんだよ」
と答えていた。
「...そうか」
そういうと、フェニックスの顔は一気に優しくなり、
「よほど彼がお気に入りと見えるな」
「な、ななななななな!」
茶化されるように言われて、一気に顔が熱くなる。
「隠さなくてもいいんじゃぞ?あれはかなり惚れていると見た」
「考察しなくていいから!」
そう叫んだあと、ふと疑問に思って聞いてみた。
「なんでこの短い時間で分かったの?」
「分かったの?と言ったか?」
「う、うん」
「なるほど、否定しないんだな」
「....」
やっちゃった。
「おお、どんどん顔が赤くなるのう」
「ごまかさないで質問に答えてよ!」
「ごまかしてなどおらんがのう...」
フェニックスは一息つくと、
「あの男は気づいていないと思うが、わしはごまかせんぞ。最初の塔の下の会話から、頂上に着いた時のお主の視線。チラチラとあの男を確認しおって...」
「え、え、え、ええええ?な、なにが?」
「....ふうううううう」
フェニックスは長い溜息を吐くと、
「まあ、お主の気持ちも覚悟も分かった。そろそろあの男を呼ぶか...」
フェニックスは目を閉じると、
「お、あの男魔族を退治していてくれたみたいじゃ。後始末はわしがしておこう」
「え?いつの間に?」
「本当にのう。お主の恋話を聞いている間にまさかのう...」
「うるさい!」
「では、彼を呼ぶかのう」
フェニックスは私を無視して、拓磨君を呼んだ。
「サラさん?」
「...」
「サラさん?」
「...」
もう塔の外に出たのにボーッとしている。
どうしたんだろう?
「サラさーん!」
少し大きめの声で呼ぶと、
「...は!な、なんだい?」
「なんだい?じゃないですよ。ほら、行きますよ」
「う、うん。うん?どこに?」
「ど、どこに?『水の都』ですよ」
「ああ、そうだね。行こう行こう!」
サラさんが顔を真っ赤にしている。
風邪でも引いたのかな?
「サラさん、体調悪いんですか?」
「え?ど、どうしてだい?」
「だって、顔が赤い「さあ!水の都に行こうか!」
台詞をかぶせられた。
サラさんが歩き出した。
俺はその背中に向かって、
「サラさん。そっちじゃないですよ」
「え?あ、うん、分かってたよ?」
「...」
本当にどうしたんだろう。
周りは平原で、緑色の草木が辺り一面を埋め尽くしている。
気温はちょっと暖かく、時々心地よい風が体を包む。
水の都までの道のりは思ったよりも遠かった。
でも、心地よい環境を歩いているので、全然苦ではなかった。
「気持ちいいなあ」
先ほどよりも大分落ち着いたサラさんが、目を細めて呟く。
「そうですね」
俺も同意するようにつぶやく。
このように二人でたまに会話をしながらのんびり水の都までの道を歩いていく。
でも、心地よい環境は続かなかった。
「拓磨君」
「何ですか?」
「あれ...」
サラさんが指さした場所には俺が炎の塔で戦った魔族がいた。
ただ前回と違って、敵は一人だけだ。
怪しいな。
もし俺が撃退したことを知っていたとしたら、一人でいるのはおかしいし、知らなかったとしても敵の力量も分からない状態で一人で立ち向かってくるだろうか?
「どうする?迂回する?」
サラさんが別の道から行くことを提案してくる。
俺は、
「いや、倒して行きましょう」
と返事した。
「了解。あーあ、折角のいい気分が台無しだよ...」
「ですね」
二人で魔族に近づく。
魔族は炎の塔と同じように、人型でクリーム色のコートに身を包んでいた。
「あのー、どいてくれませんか?」
一応声をかけてみる。
でも、返って来るのは沈黙のみ。
「よし!行くよ!」
「あ、ちょっと!」
サラさんが敵に向かって駆け出す。
「伏兵がいるかもしれない!慎重に行きましょう!」
俺の制止も聞かずに敵に近づく。
いつの間にか握られている光の剣が敵に届く範囲に入った。
そして、サラさんが剣を振りかぶると、
「危ない!」
俺は反射的にそう叫んでいた。
サラさんが剣を振りかぶると、サラさんを囲むようにして魔法陣が展開される。
サラさんも危険を察知したようで、振りかぶっていた剣を自分をいつでも守れるように構えて、その場から離れようとする。
が、それよりも早く魔法陣からクリーム色のコートを着た魔族が現れる方が早かった。
俺は刀を抜いて、敵に突っ込む。
いつでもPSIを使えるように意識を敵に集中させながら近づく。
が、そんなことはしなくても大丈夫だった。
サラさんが光の剣を構え、その場で一回転する。
誰に当たるでもない、ただの回し切りだ。
が、すぐに状況に変化が起きた。
「!?」
サラさんを囲んでいた敵が一斉に吹き飛ぶ。
こちらに吹き飛んできた敵を防いで、状況を確認する。
なんと、俺とサラさんと最初にいた敵を除いて、サラさんを囲んでいた敵が倒れていた。
「いやー、なかなか力が戻ってきているみたいだ」
サラさんが呟く。
「今のは何ですか?」
「光の衝撃波だよ」
おお...本当に力が戻っているようだ...
「さて、最後はあいつだけみたいだよ」
サラさんが残っている敵に近づく。
すると、敵は手に魔法陣を展開させる。
サラさんが駆け寄り、斬りかかると、敵は炎を出すとかではなく、魔法陣を展開させた手をサラさんに伸ばす。
俺はその手をPSIで止める。
そして、サラさんが敵の肩から腰を斬り落とす。
黒い血が噴き出す。
敵が自分の体に両手を当てている。苦しんでいるのか?
サラさんがこちらに近づいてくる。
「終わったよ」
「みたいですね」
俺はサラさんに返事をしながら、サラさんが斬り落とした敵に近づく。
が、そこには敵の死体がなかった。
フード付きのコートだけがその場に残っていた。
敵の顔が確認できなかったのが残念だ。
早速、クリーム色のコートの腕の部分を見る。
そこには、黒い星が描かれていた。
これは一体何なんだ?
俺がコートを調べていると、コートの内側から紙切れが覗いている。
紙切れを見てみると、幸いにも黒い血で濡れてはいなかったが、俺には分からない文字が書かれていた。
「サラさん。これ分かりますか?」
俺がサラさんに紙切れを渡すと、サラさんは紙切れを見た後、
「読めないけど、これは魔族特有の文字だね」
と教えてくれた。
俺はサラさんから紙切れを受け取り、ポーチにしまう。
そして、その場で少し考える。
最後に敵が展開した魔法陣は一体何なんだ?
攻撃魔法ではなかったようだけど...
その手で自分に触れて...
....
もしかして、あれって移動魔法だったのか?
うーん...
「何考え込んでるの?」
「あ、何でもないです」
「なら早く水の都に行こうよ」
「そうですね」
サラさんに声をかけられて、思考を一旦中断する。
こうして俺とサラさんは水の都に再び足を進めた。
こんにちはこんばんは、たく侍です。
今回一日遅れてしまいごめんなさい。
少々忙しく、書き終わらせることができませんでした。
あまり量は無いのですが、書くのはやはり時間がかかってしまいますので...
さて次回はいよいよ『水の都』でのお話になります。
楽しみにしていただけたら幸いです。
それでは、また次回お会いしましょう。