ノーム
正直自分でも驚いている。
彼と出会う前の私はこんな展開を予想しただろうか?
誰かのために村を守ろうなんて考えただろうか?
きっと考えていなかった。
でも、彼と出会ってから私の価値観が一気に変わった。
もう迷わない。
ノームは紫色の髪に175cmくらいの身長で、細身の体格。
こいつを倒す方法だがー
作戦は単純だ。
俺が奴の動きを止めて首を斬り落とす。
簡単かつ単純だ。
「よし!」
「あ、待って!」
サラさんの制止の声を聞かずに刀を抜いてノームに突っ込む。
「愚かですね」
ノームはその持っているツーハンデッドソードを振りかぶる。
ここだ!
意識をノームの両手に向ける。
PSI発動!
「!?」
「死ね!」
ノームは動かなくなった両手を挙げたまま、つまり腹ががら空きだ。
横一文字に刀を振る。
が、
「消えた...?」
そう、手ごたえがないとかではなく、空振りをしたのだ。
俺の目には一瞬でノームが消えたように映った。
一体どこに行ったんだ...?
「後ろ!」
サラさんの声が聞こえる。
振り向きざまに刀を振る。
ガキン!と金属音があたりに響く。
「よく受け止めましたね」
体勢としてはノームの剣を俺の刀が受け止めている。
十字に交わる剣と刀。体勢は俺が不利。
剣を弾き、ノームの腹に足を叩き込む--が、消えてしまう。
一体どういうことだ?
考えている暇はない。
刀を構えて、ノームがどこから出てくるのか集中する。
すると、ある一点に霧が集まってくる。
そこか。
俺は霧に意識を向け、ノームが出てきた瞬間に斬りつけることができるように刀を構える。
ノームが出てきた。すでに剣を振りかぶっている。
「!!」
ノームが驚愕の表情を浮かべる。
また剣と刀が交わる。
今度は若干俺のほうが有利な体勢だ。
お互いの力が拮抗して、剣と刀の押し合いになっている。そこに、
「くらえ!」
ダンがノームの首めがけて持っている剣を振り下ろす。
と、ノームが消える。
俺は拮抗していた力が消え倒れかけるが足を踏ん張らせて、何とか前のめりに転ばずに済む。
次はどこに行った?
周りを見渡すと、一瞬森の空気に霧がかかったように見えた。
「大丈夫かい?」
サラさんが近づいてくる。
「俺は大丈夫ですけど、あいつの能力が厄介ですね」
周りに警戒しながら答える。
「ノームの霧は光の魔法ではがすんだ。風の魔法じゃはがれない」
「あの霧は何ですか?」
「あれは霧に包まれたものを好きな場所に移動できる能力だよ。正直かなり厄介だね」
二人で話していると、
「おい!霧だ!」
ダンの声が聞こえる。
ダンのいる場所を見ると、霧が出現している。
が、少しおかしな場所がある。
「サラさん。あの霧」
「うん、異常だね。大きすぎる!」
そう、村を包み込めるほどの量の霧が現れ始めたのだ。
「ダン!離れろ!」
「何?」
ダンがこちらを振り向いた瞬間、ダンの周りを囲むように大量のウルフが出現する。
「今行くぞ!」
「どこに行くんですか?」
背後から声が聞こえる。
まずいーー
ガキン!
俺が聞いた音は予想とは違って、金属同士がぶつかる音だった。
「私が相手するよ、ノーム」
輝く剣『光の剣』を片手にサラさんは微笑んだ。
さすが元勇者の一人。と思っていると、
「ふふ、あなたは相手になりません」
意外なことを言った。
「あなたは魔王様に力を奪われました。つまりあなたより彼のほうが危険なんですよ」
「試してみるかい?」
サラさんは光の剣をさらに輝かせて、ノームに斬りかかった。
「その剣は私の霧を払ってしまいますので、純粋に力勝負ですね」
ノームは光の剣を弾き、消えて、サラさんの背後から斬りかかる。
サラさんは弾かれた力を生かして、一回転。背後のノームと再び対峙する。
「なかなかやりますね」
「元勇者の一人だからね」
って、二人を見ている場合じゃなかった。
ダンのほうを振り向くと、
「長老、プラック、雑魚は俺たちでやるぞ!」
「うん」
「分かっておる」
ウルフたちをダンと長老とプラックが倒していた。
「おい!こっちは大丈夫だから元勇者と一緒にそいつを倒せ!」
ダンが叫ぶ。
「任せろ!」
俺は返事をして、サラさんとノームの間に割り込む。
「邪魔するぜ」
「本当に邪魔ですね」
ノームが苦笑する。
「あなたの魔法がどんなものか分かりませんが、ここで死んでもらいます」
「できるかな?」
「できます」
「そっか」
俺はポーチの中からひょうたんを散りだし、中に入っている水を少し飲み、ポーチを地面に投げ捨てる。
「じゃあ、本気で行くよ?」
「ええ、構いませんよ」
俺は魔法が苦手だ。
だから超能力、いわゆるPSIに力を入れてきた。
そして、PSIに必要なもの。それは、
『集中力』
頭を落ち着け、ノームの動きに集中する。
集中。
「行きますよ!」
ノームが消えて、目の前に現れる。
ノームの手に集中。
両手の動きを止める。
再び刀を横一文字に振る。
やはり消えるノーム。
俺は素早く振り向き、背後から斬りかかって来るノームと向き合う。
「な!?」
集中。
ノームと刀を十字に交える。
重い衝撃が俺の手に伝わってきた瞬間、剣を右にはじき、PSIを発動。
ノームは無防備な姿勢で体が固まる。
俺は刀を振る。
手ごたえあり。
刀がノームの左肩を浅く斬る。
赤い血の糸が空中に走る。
次の瞬間にはノームが消える。
次のノームの攻撃方法は、恐らく空からだ。
俺は意識を真上に向ける。
すると、頭上に霧が集まってくる。
計算通り。
俺はその場から一歩離れ、空から斬りかかって来るノームの着地点を狙う。
空から降ってきたノームの両手にPSIを使い、がら空きの背中を斬りつける。
その場に血だまりができる。
ノームは少し離れた場所に移動した。
「はあ、はあ、はあ」
ノームは息が切れている。
それは俺も一緒だ。
だが、たたみかける。
俺はノームに駆け寄る。
ノームも力比べになると考えたのだろう、俺に駆け寄ってくる。
そして、ノームのツーハンデッドソードが届く範囲の一歩手前でノームの足にPSI。
ノームは見事に前のめりに転ぶ。
そして、俺の刀ががら空きのノームの首を斬り落とす、寸前ノームが消える。
俺はそのまま前転して、顔を上げると、俺の立っていた場所の真横から斬りかかっていた。
「...あなたは危険すぎる」
ノームが喋りだす。
「その魔法が危険すぎる。魔法陣が見えなくなっているのか、どのタイミングで私の体が動かなくなるかわからない。非常に危険ですね」
ノームは少し考えるそぶりを見せると、
「魔王様に報告せねば...」
といい、消えようとする。
が、ノームの腹に輝く剣が刺さる。
そして、ノームの体を上半身と下半身に切断する。
「...」
剣の主はサラさんだ。
「...」
ノームはとても小さい声で何かを呟くと、上半身も下半身も消え去った。
「おお!ウルフたちが消えたぞ!」
ダンの声が聞こえる。
そちらを見ると、傷だらけのダンたちがその場で笑顔を浮かべている。
「大丈夫か!」
ダンが叫んでくる。
俺は、闘いが終わった、実感した。
「拓磨君!」
「はい」
俺も返事をする。
「だい、じょう、...」
胸に激痛が走る。
ドサリ
その場に倒れてしまう。
「拓磨君!?拓磨君!?」
サラさんの声が聞こえる。
「甘いですよ。私がそう簡単に消えると思いましたか?」
この声は、ノーム!
ってことは、突き刺されたのか...
「さて、次はサラ。あなたの番ですよ」
俺はそこまで聞いた瞬間に、自分の中で何かが目覚めた気がした。
何かが胸をこみあげてくる。
これは、体験したことがある。
初めて、『超能力』を使えた時と同じ感覚。
こんにちは、こんばんは、たく侍です。
実は少し体調を崩したせいで投稿を遅らせてしまいました。
楽しみにしていてくださった方がもしいたなら、本当にごめんなさい。
さて、今回は書いててとても楽しい回でした。
戦闘シーンは書いてて難しいけど楽しいですね。
次回はとりあえず一区切り...かな。
では、また次回お会いしましょう。