当然
彼はなんて言ったんだ?
「ちょ、超能力?」
「そうです。別名PSIだったかな?」
「...」
私は少し考える。
もしバインド系の魔法だとしたら魔法陣が必ず出る。それが魔法を使うときの条件みたいなものだ。
でも、魔法陣は出なかった。つまり...
「とりあえず報酬をもらいに行かなくちゃ。一緒に来ます?」
「...うん」
歩き始めながら私は一瞬ある考えがよぎった。
もし、超能力をしらない魔王が急に超能力をくらったら...
もしかして、彼、本気で魔王を倒すことができる人間かもしれない。
うーん。気まずいなあ...
今は村に向かっているところなんだが、お互いに何も話さない。
何か、何か話題はないのか...!
あ、そうだ。
「すみません。お名前を聞いてもよろしいですか?」
そうだ。相手の名前から話を広げればいいんだ!
例えば『花子』と名乗られたら、『トイレにいそうな名前ですね』とか、外人っぽく『ハーゲン』みたいな名前でも『高級なアイスみたいですね』とか。
どんな名前でも話を広げる自信がある。
「別に構わないよ。私の名前はー」
『花子』?『ハーゲン』?いや、もしかしたら『しずか』かもしれない。あれ?そしたらなんて言えばいいんだ?『ダメ人間と結婚しそうですね』とか?まずい、殺される。
「サラだよ。『サラ・マゼライト』」
「そうですか。お肌さらさらそうですね」
「...」
「...」
まっずい!
今のはただのセクハラじゃねーか。
しかもおやじギャグも追加されてセクハラとおやじギャグのサンドイッチって感じだな。
そんなこと考えてる場合じゃねーや。
「すみません。忘れてください」
「....君は」
サラさんはうつむいて肩を震わせている。
いやでも、アニメとか小説だと『馬鹿!』とか顔をちょっと赤くして照れる場面だろ。
これは...脈アリと見た!
「サラさん。早く行きましょう?」
「君って奴は!」
サラさんが顔を上げる。
さあ、どんと来い!
「馬鹿ああああああ!」
「がはあ!」
真っ赤になったサラさんの顔が目に入ったと思った瞬間、頬を殴られた。
グーで。
俺はその場に倒れこんでしまう。
マジでどんと来たな...
「早く村に行くよ!」
倒れている俺から離れるようにサラさんが歩き出す。
俺も追いつかないと...
よろよろとサラさんの後について行く。
なんて情けない...
その後。
俺は自分の名前を名乗り、何も話さない気まずい雰囲気で村まで歩くことになったのだ。
村に着いた。
早速集会所に向かう。
そして、集会所の扉を開けようとすると、
「私は外で待ってるよ...」
とサラさんが言う。
「え、なんでですか?」
「...」
うつむいてしまう。
急にサラさんの様子がおかしくなる。
まあ、無理に連れていくこともないか。
「分かりました。じゃあ、ちょっと行ってきます」
「うん...」
なんだか元気がないな...
集会所に入る。
「ようこそ!」
少年の声が聞こえる。
「おお。門番頑張っているか?」
「はい!」
うんうん。元気そうで何よりだ。
...あれ?もう一人がいないな...
まあ、いいか。
さて、サラさんを待たせるのも何だし、さっさと報酬を受け取ろう。
カウンターに近づき、女性に話しかける。
「あの、先ほど依頼を受けたものですが」
「お疲れ様です。では、魂の瓶を頂けますか?」
俺はポーチから魂の瓶を取り出し、女性に渡す。
「ありがとうございます。それでは、少々お待ちください」
女性がカウンターの奥にある扉から別の部屋に瓶を持っていく。恐らく鑑定するのだろう。
「俺もそこら辺の席に座るか...」
俺が適当な席に腰かけようとすると、
「お水です!」
門番の少年が水を持ってきてくれる。
「ありがとう」
俺は水を受け取り一口飲む。
そして、
「もう一人の門番は?」
と、さっきの疑問を聞いてみる。
「僕の魔法の訓練の準備をしてくれています」
少年が答える。
「そうか。頑張れよ」
「はい」
「ちなみに、どんな魔法をー」
練習するんだ?と聞こうと思った瞬間、
「とっとと村から出ていけ!」
男性の怒鳴り声が聞こえてくる。
なんだなんだ?
「俺、ちょっと行ってくるわ」
「あ、僕も行きます」
少年と一緒に外に出る。
すると、目の前に映った光景は、
「サラさん!」
俺が駆け寄る。
サラさんが地面に突っ伏している。そばには皮でできた防具を着た体の大きい男が立っている。
この状況から察するに、男がサラさんに何かしたのだろう。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。何とかね」
俺がサラさんに話しかけると、
「お前も裏切者の仲間か?」
と、意味不明なことを言った。
「サラさんが裏切者?誰の?」
「人類のだ」
?
この男は何を言っているんだ?
「何だおめえ知らねえでこいつと一緒にいたのか?」
「はあ...」
「その様子だと本当に知らねーようだな」
男は頭を横に振って、「やれやれ」と呟き、
「そいつは元勇者一行の一人なんだよ」
といった。
....
「そいつは魔王に負けた勇者一行の唯一の生き残りさ」
「で、なんで裏切者なんですか?」
「はあ?ほかのメンバーが死んだのに自分だけ生き延びるなんてどう考えても裏切者だろ」
「...は?」
「分からねえ奴だな。周りの奴がーー」
「死んだから無駄死にしろと?」
それはおかしい気がする。
「...いいか?勇者たちは最後まであきらめずに戦った。だからあいつらの墓はとても豪華で、とても美しい景色のところに建てられた。でもよお、そいつはあきらめて一人だけ生き延びたんだ。だからー」
「だから、あきらめずに戦って死ねと?」
「...ッチ。むかつくやつだなてめーは」
「よく言われます」
「いいか?」
「よくないです。これ以上あなたの無駄話に付き合っていられません」
「...」
男は思いっきり俺を睨みつけ、そして、ため息をついてあきれたようにこう言った。
「お前がどう考えていようと、人類の大半はそいつが裏切者と考えている。それは当然のことなんだ。お前は若いからか、別の理由があるからか....わからないかもしれないがな」
そう言い残して、集会所に入っていった。
全く、無茶苦茶な考えだ。
「サラさん、立てますか?」
俺が手を差し出す。
「...ありがとう」
俺の手を取りサラさんが立ち上がる。
「じゃあ、私さっきの池で待ってるから」
サラさんが薄い笑顔をこちらに向けてくる。
俺は一緒に報酬を受け取りに行こうとしたが、そのサラさんの思いつめたような表情。そしてー
「...分かりました」
彼女の両目に溜まっていた涙のせいで止めることができなかった。
俺が彼女の背中を見つめていると、
「ごめんなさい。僕、何もできませんでした」
少年が謝ってくる。
「いや、いいんだよ」
「次こそは、僕も活躍して見せます」
「期待してるよ」
俺は少年と一緒に集会所に戻った。
「はい、こちらが報酬になります」
集会所に戻ってきてすぐに大きめの袋を渡される。
中身をざっと確認して集会所からでる。
村を歩いていると、知らず知らずのうちに駆け足になってしまう。
とにかく急いで池に向かう。
池に着いた。
さっき会った時と同じように仰向けに寝ている女性が一人。
「サラさん」
俺は女性に駆け寄る。
サラさんは腕で目を隠していた。
...
俺は、何も言えない。
ここで慰めるようなことを言うべきかもしれないが、下手な慰めはかえって逆効果。
どうすればいいかもわからないが、俺は彼女の隣に座った。
彼女が話したいタイミングで俺に話してくれればいい。そう思ったのだ。
どれくらいそうしていただろう。
十分?一時間?あるいは五分もたっていないかもしれない。
サラさんが口を開いた。
「...さっきは、ありがとね」
おそらくサラさんをかばった時のことだろう。
「気にしないでください。もう大丈夫ですか?」
「うん。心配かけたね」
そういってサラさんは先ほども見せた薄っぺらい笑顔を俺に向けた。
「...無理はしないでください」
しまった。つい慰めてしまった。
サラさんは見る見る表情を変えて、「ひっく」としゃくりあげると、
「う...うう..」
泣き始めてしまった。
「うう、う、うわああああああん!」
大きな声を上げて、その場にうずくまってしまう。
俺はどうすることもできず、泣いているサラさんを見ていることしかできなかった。
俺は一瞬自分の無力さをたたきつけられた気がする。
泣いている女の子を見ていることしかできないなんて...
本当に...
情けない。
こんにちはこんばんは、たく侍です。
ふう...
最近なんだか疲れが取れないんですよねえ...
まあそんなことより本文の反省ですね。
ふう...
あ、最初のほうの拓磨の考えの『ハーゲン』はハーゲンダッツを食べながら思いつきました。
ふう...
あ、あとはまたちょっと展開が早くなりかけている気がするのでもうちょっと丁寧に書いていこうと思いました。
ふう...
これくらいですかね。
次回はついに一回目の大きな闘い...の準備期間ですかね。
それでは、また次回お会いしましょう。
ふう....