入学前①
――くそっ!!!
立川は、『自分の思い通りにならなくてやるせない、行き場のない、どうしようもない気持ち』を吐き捨ているかのように、立川が行きつけとしている森の中で言った。何度言ったのだろう。数えきれないほど言った気がする。
だが、今回の吐き捨てた気持ちはいつもと違う。言っただけで、終わりにして言いものではない。
なんとかしなければいけない事実をうまくいかなくて息抜きに言った言葉だった。
今の立川は一言で言って追い込まれているといっても過言ではない。
人生で今後を左右する『魔法高校の入学試験』に実技の模擬試験に二度落ちてしまっている。
明日が魔法高校の入学試験の本番。入学できなければ、バベルの塔への攻略するために入ることができない。絶対に入学しなければいけない。入学して、バベルの塔で少しでも高い階に行って、今まで立川を馬鹿にしてきた奴らを見返したい。入学できなければ、立川の野望も、願いも、将来も、すべて終わってしまう。
『魔法高校の入学試験』は、学力試験のほかに実技の模擬試験があり、内容は単純。魔法が使えるかどうか。
だが、魔法が使えるかどうか、という単純な試験にもかかわらず、それがなかなか難しい。
魔法が使えるかどうかは、基本的に先天的な要因が大きく、立川も魔法が使える家系に生まれている。
だから、魔法が使えて当然なのだが……、なかなか使えない。現在の状況は、どんなにうまくいった時でも、うちわであおぐ風程度を作りだすのがやっとだ。入学試験に合格するためには、せめて扇風機程度の風をおこせるようにしなければいけない。
(絶対になんとかしなければ!)
立川はいつも通り、誰もいない森の中で、手のひらに意識を集中して魔法で風をおこす練習を始める――
――おわっ!
不意に立川の上に、得体のしれない物体が落ちてきて驚きの声をあげる。
魔法を使うの集中していて、どうやらまわりの動きに気が付かなかったらしい。
森のなかだから、木から何か物が落ちてきたのだろう。早くどかしてしまおう。
と、落ちてきた物体をどかすために手でどかそうとするが、なぜか動かない。
それに、とても柔らかい。
(――んっ……!?)
とても騒ぎ心地がいい。ずっと触っていたくなる。
(なんなんだ? これは?)
力によってどかすのが難しそうなので、自分の体を動かして落ちてきた物体を確認しようとする立川。
落ちてきた物体が白い物だ、というのはわかるのだが、落ちてきた物体が近すぎてなんだかわからない。
(いったいなんなんだろうなっ?)
そう思いながら、立川は体を動かして、落ちてきた物体を確認すると――
(――少女? アッシュブロンドの髪、子猫のような青い目、真珠のように白い肌、ワンピースの白いドレス。身長は低く可愛い)
少女の容姿を観察していると――
「――う、浮いている……、って、羽もある……、」
予想外の物体に、うろたえ、困惑の声をあげる立川。
羽はなんかの仮装の道具でなんとかなるとしても……、空を浮くなんてことは普通はできない。高等魔法の部類に入る。
少女は、立川に向かってほほえみ、
「あ、頭の上に落ちてきてごめんなさい」
「――いや、いいんだ、別に痛かったわけではないから……」
「よかったぁ、怪我をさせちゃったら、どうしようか心配だったの」
安堵したような表情で言う少女。
「あ、あの、今飛んでますけど、魔法使いなのですか?」
自分よりも年が下に見えるが、今はそんなことは関係ない。
自分よりもうまく魔法を使える存在がいるのだ。
現状では、どんなに頑張ったって、魔法高校に入学できるだけの魔法を使えるようになりそうもない。
だから、もし可能であれば、空を飛ぶことができるほどの高等魔法を使える少女から魔法を使うコツを引き出したいと思ったのだった。
普段は無用なプライドが邪魔をして、やることができなかった行動。立川はそこまで精神的に追い込まれていたし、なんとしても魔法高校に入学したいと思っていたのだった。
「違うけど……、どうしたの?」
不思議がりながら言う少女。首をかしげている。なんだかしぐさもかわいい。
「――違う……?」
「そうだけど、どうして?」
「空に浮いている姿を見て、魔法を教えてもらおうと思って……、」
「……、魔法を教えてもらう……?」
「いや、明日、魔法高校の入学試験でして……、お恥ずかしながら現状では、実技に受かる見込みがなくて……」
目上の人に話すかのように丁寧に言う立川。
少女が興味を示してくれている以上、もしかしたら、何か教えてくれるかもしれない。
「――魔法高校の入学試験……、」
「え、ええ、入学試験で魔法が使えるところを見せなければいけないんです」
「『魔法が使えるところをみせなければいけない』って、魔法が使えないの?」
少女は立川へ顔を近づけながら、目を覗き込むように言う。
悪気はなさそうだ。本当に不思議がっているのだろう。
馬鹿にされているわけではまさそうだから、なんだか怒りがわいてこない。
「そうです、魔法が使えないのです。
空を飛ぶことができるほどのあなたに、少しでも魔法のコツを教えてもらいたいと思いまして……」
「う~ん」
困った表情を浮かべる少女。
嫌がっている訳ではなさそうだ。どちらかというと、不思議がっているようだ。
「ダメですか?」
「ううん、ダメっていう訳ではなくて……、」
首を左右に振りながら言う少女。アッシュブロンドの髪が左右に揺れる
「『ダメっていう訳ではなくて』?」
「あなたはすでに魔法が扱えるはずよ」
少女は立川の手を握りながら言った。




