入学⑨
「さっきの魔法はすごかったね。
けれども、その扉を開けるのは、やめておいたほうがいいよ」
立川がサークルの小屋の扉に手をかけたときに、小屋のわきから声が聞こえてきたのだった。
どこか軽い印象を受ける声。性格も軽そうに見える。
「……、……、」(また、俺のことをサークルに入れたくないって言う奴がでてきたのか……、こんどはいったいどんな奴なんだ? てか、もうここまで来ていればあとひと動作でドアをあけることができてしまうのだが……、)
何も言わずに、声が聞こえてきたほうを見ながら考える立川。
あとひと動作でドアを開けることが可能な分、立川にとって心に余裕がある。
だから、どういう意味で言ってきたのかが気になり、
「どういうことなのでしょうか?」
と、立川は訊く。
「そう訊いてくるのはもっともだね。
理由を話す前に、まずは、自己紹介から始めるね。
俺は、二年生の倉木 栄弥。
現在、このサークルの二年生のリーダーを務めているものさ」
「二年生のリーダー?」
「そう、二年生のリーダーは、このサークルで一番強い奴がなるって決まっていて、次期部長候補ってことになるね。
そして、さっき九頭龍帝がたおした相手も次期部長候補の川崎。強さ的には三番目くらいかな。
魔法量が多いのが一番のウリになる。だから、キャラがかぶるような奴はサークルに入れたくないって思って、九頭龍帝をサークルに入れたくなかったみたいなんだよね。
そんな俺よりも弱い川崎なんだけど、現サークル長のお気に入りでね。部長に一番近いって言われてるんだ。
でね、そんな部長にお気に入りを九頭龍帝がたおしたって知ったら、部長はきっと怒るだろう。そうすると、九頭龍帝をサークルに意地でも入れないようにするだろう」
「話の流れはよくわかったけれども、現時点で裏付けがない」
「まあ、そうだね。
けど、話が本当だったら、九頭龍帝にとって有意義な情報を提供したと思わないかい?」
「まあ、そうだな」
「でしょ? だって、考えてみなよ。
優秀な新入生を勧誘したいってどのサークルもやっきになっているときに、このサークルといったら他のサークルと違ってサークルの部屋に入れようとしないんだぜ。
しかも、九頭龍帝を追い返そうとするだなんて。おかしいと思わないかい?」
「自分はそんな有望な人材ではないので、そこまでは思いませんが……、」
「それは、謙遜がすぎるな。九頭龍帝は自分の認識を改めたほうがいい。
もし、仮にだ。仮に、他のサークルに行ったら、みんな喜んで歓迎してくれるよ。絶対に自分のサークルに入れたいって」
「そうですか……、あまり、信じられませんが……、」
「なら、一緒に他のサークルに行ってみる?」
「いや、自分はこのサークルに入りたくて来たんで」
立川が言ったあと、倉木は真剣な表情に変えて言う。
「確かに、そうだね。けど、今はドアを開けるのは待ってほしい。
これからちょっとゆっくりと話をしてからどうするか考えてみないかい?
俺の提案も聞いて欲しい。
絶対に九頭龍帝にとって悪い話じゃないと思う。
それに、話を聞いてくれれば、俺がちょくせつ剣術を教えてあげよう」