入学⑧
「――あ、あれが……九頭龍帝の力……、本当に凄すぎるわ。
九頭龍帝がたおした相手って、この学園トップを争う魔法量を持っている條崎君じゃない。
あれだけの不意打ちをしていて、一年生にやられちゃったんじゃ、どんな顔して明日の学校に来るのか楽しみだわ」
学園のある生徒会室。
空見に対して言う少女。髪は黒くショートカット。やや吊り上がったメガネからきつい印象を受ける。名前は二井見 香奈。二年生で、学園の生徒会長になる。本来この時期の生徒会長は三年生がなるのだが、特殊な事情によって二井見が二年生にかかわらず生徒会長になったのだった。
生徒会室からは学園の敷地が良く見渡せるようになっているので、空見は来ている。
そして、二井見は引き続き楽しそうに言う。
「入学式のときの九頭龍帝の力を見たけれども、今日の授業で魔法力ゼロだったから不思議に思っていたの。
だけれども……、なんだかわからないけれどもスゴイ力を持っているのね。
あなたが九頭龍帝を手に入れたいとしたのもわかる気がするわ。
けれども、不思議ね。確かに九頭龍帝が使った力は並大抵の魔法使いではできないほどのスゴイ力だと思うけれども……、別にあの力がなくたってダンジョンでは別の魔法が使えたほうが役に立ちそうなものなのに……。
いったいあなたは九頭龍帝のどの『力』に惚れたのかしら……?
ひょっとして、あなたしかしらないもっとスゴイ力を九頭龍帝は持っているっていうの?」
「『力』?
そんなことは関係ないわ。
私は、九頭龍帝。彼自身に惚れているのだから……」
九頭龍帝を眺めながら言う空見。
二井見は空見から予想外の言葉を聞いたので、大きく目を見開き、
「――九頭龍帝自身に?」
「そうよ。九頭龍帝自身に。何? 不思議?」
「不思議に決まっているわ。
だってあなたは、この学園で様々な男からアプローチをされたのに全部断っているから、もう誰も寄り付かなくなってしまってるのに。
それにもかかわらず、あなたが惚れる男がいるだなんて……、いったい九頭龍帝にどんな秘密があるのか知りたいわ」
「教えられるわけないじゃない。
魔法使いのパーソナルデーターは基本的に秘密なんだから……」
「ふふっ、そうね。ダンジョンに入るのは協力者が必要だからギルドを作って入るけれども、ダンジョンの頂上を目指すという意味ではみんなライバル同士だものね」
「ええ、そうよ」
「けど、あなたほどの女がそんなに欲しがる九頭龍帝に、私は興味を持ったわ。
私もちょっかい出してみようかしら」
「ふざけるのはいい加減にしなさい。
いくら生徒会長だからと言って私の九頭龍帝にちょっかいを出したらただじゃおかないわ」
「そう怖い顔をしないで。
けど、九頭龍帝はまだ誰かを選んだわけでもなく、ギルドに入ったわけでもないのでしょ?」
「……そうね、」
「だったら、あなたが私の行動を制限するなんてことはできないのじゃないの?」
「……、言っていることはわかるけれども、生徒会長。九頭龍帝に手を出したらただじゃおかないわ」
物凄い剣幕で二井見をにらみつける空見。
二井見は、『はぁ』とため息をつき、一呼吸を置いたあと、
「そう。そうね。欲しいものは、力ずくで手に入れるべきよね」
と言い、二井見は立川にに流し目を送った。