表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お題掌編

掌編――トンネル

作者: と〜や

 新車の慣らし運転も兼ねて海が見える高台のホテルに行ったときの話だ。

 ナビによると、見晴らしのいい一本道を上がってトンネルを抜ければすぐらしい。

 時々車を止めながら、背後に広がる海を楽しんでいた彼女は、トンネルが見えた途端、もう帰らない? と言い出した。

 今日のために海の見えるホテルを予約したのに、キャンセルするなんてもったいない。それに、車は急に止まれない。

 トンネルは壁も天井もできたばかりのように白く、赤い照明も明るかった。トンネルというと何かいるとか何か起こるとか怪談によく登場するけどそんな雰囲気は微塵もない。道幅も広いし快適だ。

 ちらりと横を見ると、彼女は手を組んで目を閉じ、何か唱えていた。そんなに彼女が怪談嫌いだとは知らなかった。今度ホラーハウスに連れて行ってみよう。そんなことを考えながら、アクセルを踏み込んだ。

「ほら、何も怖いことないだろ?」

 笑いながらそう言った瞬間だった。つけていないはずのカーステレオから不意に何かが聞こえた気がしたのだ。

「え? 何か言った?」

 彼女は首を振りながら、声を出さずに口を動かし続けている。さすがに気味が悪くなって声をかけるのをやめた。スピードを上げてトンネルを抜けた瞬間、胸が苦しくなった。まるで誰かにつかまれたかのように締め付けられる。目の前が真っ白になって、ブレーキを踏んだところまでは覚えている。

 次に目覚めたのは病院のベッドの上で、見舞いに来ていた彼女はすまなそうに言った。

「あのトンネル、有名なのよね。事故死したドライバーを調べてみたら、全員心臓がなくなってて」

 その瞬間、あの時聞こえた声がくっきりと脳裏によみがえった。

『私の心臓を返して……』と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ