その二、奈倉鈴
桜宮の視線を感じながら歩いていると、俺の前に人が立ち塞がった。
「お、おはよう……」
そう言い此方を不安げに見つめてくるのは奈倉鈴。
さらさらのセミロングをしていて、華奢な体が保護欲を誘う。
「おう、おはよ」
「うんっ!」
笑って挨拶をすると奈倉も嬉しそうに笑った。
この見てて微笑ましくなるような女の子は何を隠そう、悩みの種その2である。
何故かと言うと……
「あっ、奈倉さん……」
「……何」
奈倉はさっきまでの微笑みを一転させ、冷たい目で自身のクラスメートを見る。
毎度の事ながらその変化が恐ろしい。
「あっ、その……」
「はっきり言いなよ」
「えっ……。その、ごめ」
「もういい。……りょーくん、行こ」
「お、おう……」
奈倉が俺の裾を引っ張ってくる。
もうクラスメートの事は眼中に無いのだろう。
そう、奈倉は俺以外に対して異常に冷たいのだ。
……特に、クラスメートに対して。
歩きながら奈倉を見る。
しばらく見ていると、此方の視線に気づいたのか挙動不審になる。
「あ、その、そんなに見られると……」
頬を染め困り顔で此方を伺う奈倉はさっきとは別人だ。
他でもない奈倉自身がこのまま現状維持を望んでいるので、俺から強く言うことは出来ないのだが、毎回この態度の変化には肝を冷やされる。
とにかく、何故奈倉が悩みの種なのか分かっていただけただろう。
奈倉がこうなったのは実は俺にも責任がある。
だからこそ、簡単に踏み込めないのだ。
そうして頭を悩ませていると、いつのまにか学校に着いていた。
奈倉とは別のクラスなのでそのまま別れ、自分のクラスへと歩きだす。
いつもなら、此処でアイツが出てくるはずだ。
悩みの種その三、黒澤美玲が。