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第五話

「魔力収束―」

「きゃはは!来なよ!」


 僕は手元のステッキに魔力を集め、レヴィアタンは笑って両手を広げた。この攻撃を、心待ちにしていたかのように。なら喰らわせてやる、悪いけど、僕の魔法は少しばかり強いぞ!


「破砕光線!」


 ステッキから飛び出る、漆黒の光線。光線はすさまじい威力のまま、地面を削りながら真っすぐにレヴィアタンの下に襲い掛かった。


「きゃは!やっぱりだ!すごい力、ああこれでこそ、僕の敵に相応しい!」


 笑みはどんどんと口角を上げて行き、口が裂けてしまいそうなほどになった彼女は、それでも大声で笑った。


「来い!ティタノマキア!」


 大声で彼女は、自らの大剣の名を呼んだ。手元に現れる、禍々しい剣。彼女はそれを手に取って、光線目掛け、振るった。


「まさか、これで終わりじゃないよね?」


 そして、破砕光線を断ち切った。不浄が言った言葉を思い出す、破壊の権能って言うのは、そういう事か!


「魔力収束―」

「魔球機雷」


 すぐさま、次の一手として準備していた魔法を、僕は放った。僕の前方に無数の、小さな球型の魔力が生まれた。


「へえ、地雷って訳?考えるね。まあ、無意味なんだけど!」


 レヴィアタンは大剣の面を使って、次から次へ、機雷を破壊していく。ありがとう、それは、想定内だ!


「魔力収束―」

「魔糸封縛!」

「あらら」


 幾重にも紡がれた魔力の糸、それで、四肢を縛る!これで、動けないはず!


「きっと、君は地球上でも、有数の天才なんだろうね。明らかに戦闘慣れしてないのに、僕と対等の強さを持つ君は、明らかに図抜けた天才だ」

 

 その、はずなのに、レヴィアタンは一切余裕を崩さずに、僕を褒めたたえる。それは、遥か高みから評価されているようで。


「だけど、悪いね。その戦闘経験の無さが仇になった」


 彼女は、四肢に絡まった魔力の糸を、何んとも無さそうに、振りほどいた。粉々に砕きながら。それで、ようやく、遅まきながら僕は気づく。そうか、そもそも。


「破壊はティタノマキアの機能じゃない。僕の権能なんだよ」


 そんな、僕の考えていたことを先んじて、レヴィアタンは、地面に落ちた自らの愛剣を拾った。そして、一本だけ残った魔力の糸を手繰り、僕を引き寄せた。


「じゃあね、同類」

(ま、ず―!)


 そう思った時には既に何もかもが遅かった。されるがままに引き寄せられて、彼女の手の大剣が僕の全身を真っ二つにしようと振り上げられた、瞬間だった。


「間に合った―!」


 刀が、僕に振り下ろされるはずだったティタノマキアを、弾き返した。一体、誰が。


「…へえ、君も中々やるね。何者?」

「私はハジメ。嫌、ここでは、二条院一か」


 二条院、だって?あんな子を、僕は知らない。だけど、彼女に一つ、身に覚えがある部分があった。記憶を辿って、思い出せたのは、その刀のことだった。


 あの刀は、いつだったか、父さんに送られた、五基院製作の火守という刀に似ている気がした。父さんの隠し子?嫌、そうじゃない。あの刀は父さんの部屋で大事に飾られている。そもそも、あれは別の刀かもしれない。結局、彼女のことは何も分からないまま、彼女は僕を見て、薄く、何かを懐かしむかのように笑って、刀をレヴィアタンに向けた。


「いつかの借りを返しに来ただけの、ただの余所者だよ」


 借りって、何のこと?問える訳もなく、二人のやり取りは続いていく。


「それにその刀、ティタノマキアを受けてなんで壊れない?」

「ただの技術。壊すだけの力なんて、理屈さえ知ってれば受けられるよ」

「…へえ、興味段階あっぷしたよ。君らみたいなのがいるから、面白いんだよね、人間ってぇ!」


 愉快そうに笑って、大剣を手に取るレヴィアタン。一合、二合と切りあったところで、彼女は大剣をバネにして飛び上がった。


「この質量は受けられないだろ!」

「いいや、問題ないね」


 上空からの下降の勢いを乗せた一振、だがしかし、一と名乗る女はそう言って、レヴィアタンが落ちてくる前に刀を振った。


「迂遠!」


 瞬間、一の上空に、とてつもない量の水が生み出され、レヴィアタンの大剣を留めた。


「ははっ!良い判断!だけどさあ、その程度じゃ止めらんないよぉ!」


 当然、レヴィアタンには破壊の力がある。どうやらその力はこの量の水すら問答無用で破壊できるものらしい。僕は魔力を練り上げて、彼女を撃ち落とそうと試みた。


「悪いね、これは見せ札に過ぎないんだ」


 瞬間、一はレヴィアタンを哀れむように、そう言った。そして、それは僕の思い違いなんかじゃなかった。


「【次元斬】」


 再度、一が刀を振るった。そして、レヴィアタンの胴体から夥しい程の血が吹き出した。何が起きたのかも分からないまま、僕は二人を見続ける。


「…ああ、成る程ね。これがオリジナルって訳か。なら、悪くないか」


 それでも彼女は両の足で立ったままで、一に視線を向けて言った。僕とは違い、彼女は自分の身に起きたのが何なのか、理解していたようだった。


「これで、終わるのも」


 最後に満足そうな笑みを浮かべて、彼女は倒れて、次元の裂け目に呑まれて消えた。


「…ええと、助けてくれて、ありがとう」


 今一、今起こったのが何なのか、彼女が誰なのか、レヴィアタンとはいったい何だったのか、理解できずにいたが、少なくとも、二条院一と名乗る彼女が自分を助けてくれたのは確かだったから、僕は彼女に頭を下げた。


「礼を言われるほどじゃないよ。次元斬が命中したのは、君が彼女をそれだけ削ってたからだし」


 そうだったのか。それも正直分からないのだけれど。


「とりあえず、落ち着けるところに行こうか。詳しい話はそこで」


 彼女の言葉に従って、僕は彼女の後を追った。



「ココアで良かったかな」

「ええ、大丈夫、ありがとう」


 僕は一さんから缶のココアを受け取って、礼を言った。


 僕らはあの後公園に向かって、そこで話をすることに決めた。本当はカフェとかの方が良いんだろうけど、今は真夜中だ。子どもの僕が出歩くのは良くない。相手は見知らぬ成人女性だし。


「さて、聞きたいこと、いっぱいあるよね?何から教えてほしい?」

「…なんで、僕を助けてくれた?そして、なんで魔法少年プログラムのことを知っている?最後に、僕に借りがあるって、なんのこと?」


 彼女の言う通り、聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのかも分からなかったが、とりあえず僕は質問を三つに絞って、彼女に尋ねた。


「じゃあ、まずは一つ目、なんで君を助けたのか。それは君がここで死んでしまえば、私が助かることがなくなってしまうから。二つ目、何で知ってるか。それは君が教えてくれたから。三つ目、借りがあるってなんのことか。君が私を助けてくれたから」

 

 …?矢継ぎ早に答える彼女の返答は支離滅裂で、一瞬何を言ってるか分からなかった。だけど、すぐに彼女の答えが何を示しているのかが分かった。


「…未来から、タイムスリップしてきた?」

「あは!良いね、天才児って言われるだけあるね。荒唐無稽な話を切り捨てずにちゃんと可能性を考える、本当、頭いいよ」


 そう言われて悪い気はしないけど、本当に、そうなのか?未来人?本当の、本当に?


「けど、残念。正確には私は未来人じゃない。私は、そうだな、言うならば、異世界人、ってとこかな」

「異世界人?」


 ちょっと待って、それはおかしい。異世界人がなんでこの世界の未来を語る?


「この世界には何度も来てるんだ。でも私の世界と、こっちの世界の時間の流れは一定じゃない。だから、こっちの今が、私たちの世界の遥か昔だったり、こっちの過去が、私たちの世界の遥か未来だってことがあり得る」


 はあ、そう言うもんなのか。体感していないからか、全く実感がわかない。でも合点はいった。この先の未来で、僕は、過去の彼女と出会うことになるんだ。そこで、僕は彼女を助けるんだ。


「そういうこと。だから、私は君を助けた。それだけのこと」

「…そういうことなら、僕も借りは返さないとだね」


 命を助けられた借りくらいは。


「いいや、まだ早いよ。私はまだ、君に借りを返せていないんだから」


 僕がそう思った時、彼女はそう言って刀を抜いた。


「ええと、どういうつもり?」

 

 僕が両手を上げながら尋ねると、彼女はくすりと笑って言った。


「君を、強くするのさ」



 空と一が語り合っていた頃、夜の闇の中、一人で歩く、少年が一人。


「本当、魔法少年プログラムなんてものに選ばれた時はどうなるものかと思ったけど、思った以上の収穫だったね」

 

 【魔法肖年】黒羽根朱は、笑いながら言った。


「特にあの化物、レヴィアタン。あんな化物をコピーする機会に恵まれたのは想定外の幸運。これで僕に運が向いてきた」


 そう言って、彼はコピーした彼女の力を手にして、ほくそ笑む。それだけ、彼にとっても彼女との出会いは大きく、想定外の収穫だった。


「次はどこに潜入ろうかなあ、【教会】?【企業】?【魔女集会】?それとも、【機関】、狙っちゃおっかな?」

【嫌、機関は無理筋だろ。君が警戒してた九窓情報局より強固だぞ、あそこ】


 黒羽根が興奮冷めやらぬ口調で、異能に関する組織の名を挙げ始めた頃、闇夜の中から現れた何者かが、彼に忠告した。


「…誰だよお前」


 不信感を顕にしながら、暗闇の先にいるであろう、自分に声を掛けてきた男に問う、黒羽根。しかし、返ってきたのは名前ではなく、愉快そうな男の笑い声だけ。


【誰でも良くない?そんなことよりさあ、うちの組織入んなよ。俺、結構強いよ?】


 そして、ようやく男の姿が見えた頃、黒羽根は全身に鳥肌が立つのを感じ、後ずさった。


(ヤバいのに出会っちゃったなあ…)


 確かに、こいつはレヴィアタンに並ぶほどの怪物だ。そう、黒羽根朱はただ、冷静に結論を下す。一目見ただけで感じる、圧倒的な存在感。黒色で染められて何も見えやしない素顔。奥底を除こうとしても、躱されてしまうし、底が見えない程に深い。


【ハングドマン、次は何席だっけ?】

「次で七人目、六席になります」


 男は背後にいた男に尋ねながら、黒羽根を値踏みするように全身を眺めていた。

 

【残り三人か、ちょうどいいな、絶対いれよう】

「彼の意思次第でしょうな」


 そう言って、二人の男は黒羽根に視線を向ける。最も、その黒で覆われた顔から視線が向けられているのかは定かではないが。


「一つ、質問。君たちの組織、ってどんなの?」

【行き場のない奴らの集まりさ。裏切り者、負け犬、何かに絶望した奴らを集めてる。そして、仲間意識なんてものは毛ほどもない。自分のために他人を使え、だが敵にはするな。それだけの集まりさ】

「良くて、同盟、ですね。悪く言えば、烏合の衆」


 それを聞いて、黒羽根は満足そうに笑った。


「いいね、気に入った。それなら、僕の居場所もありそうだ」

【歓迎するよ、黒羽根朱。僕の知らない、君の力を見せてくれ】


 そう言って、彼らは手を握り合い、夜の闇に消えた。

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