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第二話

 僕が、魔法少年プログラムを思いついたのは、丁度、今から一週間前のことだった。


 控えめに言って、僕は天才だ。一度学んだことは忘れないし、十歳を終える頃には飛び級で大学を卒業している。テニスと水泳ではプロ直々に教わり、ジュニアレベルでは敵がいない。八つの時に立ち上げた会社は既に国内有数の企業に成長し、優秀な部下に譲渡した。


 つまり、退屈だったんだ。僕が天才なら、周囲も優秀一色で染められた環境は、あくびが出る程に退屈だった。何をしても上手く行って、失敗という物を、苦難という物を僕は経験したことがなかった。


「…そうだ」


 僕が思いついたのは、異能だった。二条院に連なる、八家。通称【院】。八家はそれぞれ何かしらの分野に長じていて、特に七天院は異能という、理解しがたい、超常の力について長じていることは知っていた。


「異能の覚え方?」


 七天院と繋がりを持っていた兄に尋ねると、兄は訝し気に僕を見た後、腹を抱えて笑った。


「それがお前の、最初の挫折なんだろうね」


 笑い終えて、兄はそう言って、異能の習得法について説明した。成る程、説明を聞き終えた後、兄の言葉はどうやら的を射ていたらしいと、僕は気づいた。


 曰く、異能という物は、元より習得できる才能を持つ者が、戦争、貧困、奴隷、現代日本で言えば、いじめ、虐待、ネグレクト等の過酷な環境に置かれた時、その苛烈な環境を脱却するために開花させるものだと言う。

  

 確かに、これでは僕が習得できるはずもない。何不自由なく生きられる家に生まれ、その家で生きるために必要な能力も有している僕が、逆境に置かれているはずもなく。


 だが、同時に、七天院はそれに頼らない異能の習得法を熟知しているとも言った。なら、七天院に僕を紹介してほしい、そう僕は兄に頼んだ。


「人生舐めすぎだろ、弟くん。七天は今、あいつの葬儀で忙しいんだよ」


 今度は笑いもせず、兄は僕を窘めた。眉間に寄った、激しい怒りの感情を抑えながら。そうだった、兄の親友が、長い闘病生活の果て、つい先日、亡くなったことを、僕は失念していた。

 僕は素直に頭を下げて、兄の部屋を後にした。


 さて、異能が駄目と言うことだが、まだ手はある。超常の力、という物は何も、異能に限らない。

 国内で言えば、退魔連合の陰陽術、収集家の人形術。中国の覇王流拳術、英国の魔女集会が操る魔法。片っ端から情報を集めて、試していく。


 結論から言おう、大成功だった。どれも概要程度の内容しか手に入らなかったけれど、それで十分だった。僕は、魔法という物を習得した。


 だが、問題はここからだ。魔法という物は、僕にとって難題足り得る物なのか。早速本腰を入れて取り組もうとして、思いついた。


「まずは、衣装だね」


 普段着でやるのは気分が上がらない。こういうのは形からだ。それらしい衣装を探そうとして、止めた。なんで自前で用意する必要があるの?魔法があるのに。

 早速、僕は衣装を作るための魔法を構築し始めた。魔法という物は、プログラミングに似ている。最も、それよりずっと原始的だけど。魔力という曖昧な、概念的なものを、そうなるように、自分が思い描いた形になるように構築する。


 そうと分かれば衣装作りは楽なものだった。映画とかアニメから拝借した、とんがり帽子とローブ。

 一つだけ失敗した。僕が想像していたのは魔女の方だったということ。僕が着ていたのはロングスカート付きのワンピース。だけど悪くない。そもそも僕がかわいいから。


「ふふ、流石僕。女装姿も美しい」


 鏡の前で、くるくる回ってみたり、裾を持ち上げたりしてみて、自画自賛をしながら、僕は魔法少年を楽しんでいた。

 そんな風に舞い上がってしまっていたから、僕はまた、失敗した。


「あ、あ、ああ、ああああ、痛い、いだぁい!」


 瞬間、頭の中に途轍もない量の情報が流れ込んだ。僕の知らない、ありとあらゆる情報が、僕の頭に流れ込んだ。思えば、これは不浄共鳴の頭の中と、僕が繋がった、と言うことだったんだろうな。


 それで、僕は知った。この地球に、宇宙人が落ちてくると言うことを。嫌、宇宙人って言うのは、適切じゃないかもしれない。頭に流れた情報曰く、宇宙には所謂宇宙人は勿論、それ以外にも地球上に存在することを許されなかった怪物が幾つも浮遊している。地球に落ちてくるのは、後者の方。宇宙から落ちてくる怪物を放っておけば、天災以上の被害が及ぶ。


「…誰かが止めなくちゃ」


 だから、決めた。僕の手で、そいつらを止める。僕だけの手で止める。なんて、難題。興奮してしまって、あられもない姿を晒してしまうくらいの、難題。冷めやらない興奮を必死で抑えながら、僕は宇宙人と戦うためのフィールドを構築した。民間人に被害が及ばないように、別の空間を生み出したのだ。


 迂闊だったと、過ちに気付いたのは、そのすぐ後のことだった。僕は、最初に作った、衣装づくりの魔法を開放したままだった。それと、フィールドを構築した魔法が混じって、魔法少年プログラムは生まれたんだ。眠りにつくと同時に、僕が生み出したフィールドに召集する、そんな魔法を。


「…え?」


 僕以外の魔法少年が、そこにはいた。しかも一人じゃない。僕を入れて、十人。気を失った少年たちがそこにいた。僕は呆けた声を上げて、一瞬だけ硬直する。


 そして、咄嗟に誤魔化すための状況を作ることに専念した。魔法少年プログラムを解体するのは現実的じゃなかった。何故なら、このフィールドを構築するために、そして、僕以外の九人を魔法少年にしてしまったために、僕は彼らに魔力を分け与えてしまった。最早僕一人に、このプログラムを解体する力はない。

 

「なんだ、これ」


 皆が起き上がった頃、僕は既に誤魔化すための状況を造り上げていた。


「宇宙人を倒せ?」


 宇宙から、怪物が落ちてくる。君たちは選ばれた。そんな宇宙人を倒すための、【魔法少年】に。


 そんな紙切れ一枚、だけど、状況が、現実離れした光景が、彼らに否が応でも真実味を与えてくれる。


「…」


 思えば、この時既に、不浄共鳴は気づいていたんだろう。僕が、この状況を造り上げたものだって、彼らが皆、過酷な状況に身を置いた子たちだってことを。


 僕は最初、彼らの育ちは知らなかった。完全に無作為で選ばれた十人だと思っていた。だけど違った。魔法少年プログラムに選ばれたのは、皆、異能に目覚める条件を満たしているものだった。実際に異能者である、不浄共鳴のように。

 恐らく、魔法少年プログラムは、魔法を習得させるのではなく、異能を疑似的に目覚めさせるものに近いんだと思う。不浄が良い例だ。彼の異能、【接続(コンダクタ)】は情報収集の異能。【魔法詳年】という、彼の呼び名に程近い。才能か、それともまだ決定的なタイミングに至っていないのか、彼らの殆どは、異能の存在も知らない様だったが。


 思えば、先ほどの不浄からの連絡は、僕の初志を思い出させるものだった。殆どのメンバーがまともなコミュニケーションも取らない、癖のある奴らだ。そんな奴らを僕の手で纏めるなんて、なんて、難題。


 不浄共鳴、彼の言う通りにするのは癪だけど、そんなことより、今は突き付けられたこの難題に、何よりも夢中だ。


 僕は少し、焦り過ぎていたみたいだ。慣れない状況、知らない出来事、僕としたことが、躊躇っていたらしい。もう、遠慮はない。迷いもない。彼らをまとめ上げて、落ちてくる宇宙人たちを排除する。絶対に、僕の手で、この難題を解いてやる。

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