『【悲報】俺の捨てたゴミを求めて、ドラゴンが土下座してくる』
「発射準備完了。いつでもいけます、主様」
アイリスが担いだ巨大なミサイルの弾頭が、赤く発光し始めた。
対する上空の黄金竜も、口元からバチバチとプラズマのような火花を散らしている。
一触即発。
高度1万メートルでの怪獣大戦争が始まろうとしていた。
「待て待て! 家が壊れる! せっかくのログハウスが!」
俺は慌てて二人の間に割って入った(窓を開けて身を乗り出した)。
「おいトカゲ! 話せば分かるだろ! 俺たちは別に喧嘩しに来たわけじゃないんだ!」
『――黙レ、下等生物』
黄金竜の声が脳に響く。
問答無用かよ。
『我ハ、コノ天空ヲ統ベル「天竜王」バハムート。貴様ラガ乗ッテイルソノ土地、我ガ領空ヲ侵犯シテイルゾ。即刻、地上ヘ落トシテヤル』
「いや、俺だって落とせるもんなら落としたいんだよ!」
これ、どうやって着陸すればいいんだ?
ずっと浮いたままなのか?
『問答無用。灰トナレ』
黄金竜が口を大きく開けた。
灼熱のブレスが、今まさに放たれようとしている。
「チッ……! アイリス、迎撃だ!」
「御意!!」
アイリスがトリガーに指をかけた、その時だった。
「あ、そうだ」
俺はふと、ポケットに入っていた『ゴミ』の存在を思い出した。
さっきの10連ガチャで出たハズレ枠だ。
「食べるには硬すぎるし、捨てるのも面倒だな」と思ってポケットに突っ込んでいた果物。
俺はとっさにそれを掴み、ドラゴンの口目掛けて全力で投げつけた。
「これでも食ってろ!」
ヒュンッ!
俺の『投擲』スキル(これもログボで勝手についた)が発動し、光る物体は吸い込まれるようにドラゴンの口内へ飛び込んだ。
『グオッ!?』
ドラゴンがのけぞり、ブレスが不発に終わる。
何かをゴクンと飲み込む音がした。
訪れる静寂。
セラフィナが「ああ、終わった……」と顔を覆う中、ドラゴンはピタリと動きを止めていた。
『…………ン?』
ドラゴンの黄金の瞳が、パチクリと瞬きをする。
『美味イ……?』
「は?」
『ナンダ今ノハ……!? 溢レル魔力、芳醇ナ香リ、ソシテ魂ヲ震ワセル甘味……! 我ガ千年生キテキテ、初メテ味ワウ至高ノ珍味ダゾ!?』
ドラゴンが身を乗り出して、巨大な顔を窓に近づけてきた。
さっきまでの殺意はどこへやら、鼻息を荒くして興奮している。
『オイ人間! 今ノハ何ダ! ドコデ手ニ入レタ!』
「え、今の?」
俺はアイテムボックスを確認した。
【UR:黄金のリンゴ(神々の果実)】
説明:神界の果樹園でしか採れない禁断の果実。一口食べれば不老不死、丸ごと食べれば神に近づくと言われる。
「……ただのリンゴだけど」
『リンゴダトオオオオ!? 神話ノ記述ニシカ無イ「黄金ノ果実」ヲ、タダノリンゴ呼バワリダト!?』
ドラゴンが驚愕に目を見開く。
「いや、俺にとってはハズレ枠だし。まだ倉庫に99個くらい余ってるぞ」
『キュ、99個……!?』
ドラゴンの動きが止まった。
そして次の瞬間。
ズシンッ!
空気が震えた。
攻撃されたのではない。
全長100メートルはある巨大な黄金竜が、空中で器用に手足を折りたたみ、ログハウスの庭に着地したのだ。
そして、地面に頭を擦り付けた。
いわゆる、土下座である。
『オ頼ミ申ス!!』
プライドのかけらもない声が響いた。
『ソノ「リンゴ」ヲ、我ニ恵ンデハ頂ケヌダロウカ!? 代ワリニ、我ガ宝物庫ノ財宝ヲ全テ献上シヨウ!』
「財宝? いらん」
俺は即答した。
ガチャ産のURアイテムに勝る財宝なんて、この世界にあるわけがない。
『ナラバ、コノ背中ヲ貸ソウ! 世界ノ果テデモ、宇宙デモ、貴様ノ行キタイ場所ヘ運ンデヤル!』
「移動手段かぁ……」
家ごと浮いてるから、買い物に行く足がないのは困るな。
セラフィナも地上に用事があるかもしれないし。
「……ま、いいか。ゴミ処理も手伝ってくれるなら」
俺はアイテムボックスから、追加で『黄金のリンゴ』を5個ほど取り出した。
「ほらよ。食え」
放り投げると、ドラゴンは犬のように空中でキャッチし、バリボリと咀嚼した。
『ウ、ウマァァァァァイ!! 力ガ……全盛期ヲ超エテ湧キ上ガルゥゥゥゥ!!』
黄金の鱗がさらに輝きを増し、ドラゴンの体が一回り大きくなった気がする。
【ピロン♪】
【システム通知:『天竜王バハムート』が仲間になりたそうにこちらを見ています】
【テイムしますか? YES / NO】
ドラクエかよ。
俺は迷わずYESを押した。
【テイム成功!】
【バハムートの名前を変更できます。現在の名前:天竜王バハムート】
「名前か……。バハムートって長いしな」
俺はリンゴを貪り食うドラゴンを見た。
アホ面で果汁を垂らしている姿に、威厳など欠片もない。
「よし、お前は今日から『ポチ』だ」
『ポチ!? 我ハ誇リ高キ天竜……』
俺は無言で、追加のリンゴ(最高級)をチラつかせた。
『ワンッ! 我ハポチ! ポチデゴザイマス!』
「よしよし」
こうして、天空の支配者は、わずかリンゴ6個で俺のペットになった。
◇
「信じられない……」
一部始終を見ていたセラフィナが、乾いた笑いを浮かべている。
「神話級のドラゴンが……『ポチ』……? しかも、餌付けされて尻尾を振っている……?」
彼女の中で、俺への畏怖(という名の誤解)が、また一段階深まった気がする。
まあ、害はないからいいか。
「主様」
アイリスが、少し不満げにミサイルを収めた。
「あのトカゲ、随分と燃費が悪そうですが。私の敵ではありませんね?」
「喧嘩するなよ。ポチは移動用、お前は護衛だ」
「移動用……ふふ、あのような下等生物にはお似合いの役回りですね」
アイリスがマウントを取り、ポチが「ナンダト小娘!」と唸る。
賑やかになりそうだ。
とりあえず、空の安全は確保された。
俺はポチの背中に乗り、下界を見下ろした。
「さて、ポチ。とりあえず地上の様子を見てきてくれ。この家が浮いたせいで、下で騒ぎになってないか心配だ」
『御意、御主人様!』
ポチが翼を広げ、雲海を切り裂いて急降下する。
しかし、俺は知らなかった。
この時、地上では俺の予想を遥かに超える『騒ぎ』が起きていたことを。
◇
――地上、旧王都跡地。
俺たちが住んでいた荒野の大地が、ごっそりと抉り取られた巨大なクレーター。
その縁に、数千の軍勢が集結していた。
「な、なんだこれは……!?」
声を震わせているのは、俺の兄・レグルス王子だ。
彼は、騎士団長ゲルツが消息を絶ったことを受け、自ら精鋭部隊を率いてやってきたのだ。
俺を処刑するために。
だが、そこにあるはずの『俺』も、『荒野』も消えていた。
あるのは、底が見えないほどの巨大な穴と、空へと続く『魔力の残滓』だけ。
「殿下! 空をご覧ください!」
兵士の指差す先。
雲の切れ間から、神々しい光が降り注いでいた。
そして、その光の中に、巨大な影がうごめいている。
「あ、あれは……伝説の天竜王バハムート!?」
「馬鹿な! なぜ神話の怪物が現世に!?」
軍勢がパニックに陥る中、レグルスは青ざめた顔で空を睨んだ。
「まさか……ライル、貴様なのか? 貴様が、竜を使役して……国を滅ぼそうとしているのか!?」
もちろん誤解だ。
俺はただ、リンゴをあげていただけなのだから。
だが、この瞬間、世界中に伝令が走った。
『追放された第七王子、天竜を従え、天空より国を狙う』
俺が知らない間に、俺は『人類共通の敵(魔王)』として認定されようとしていた。
(続く)




