『教会の最終兵器「天の雷」? ああ、あの「眩しい光」ならカーテンで防ぎました』
――地上、聖法教会・総本部。
そこには、数千人の神官たちが集結し、巨大な魔法陣を取り囲んでいた。
中心に立つのは、教皇その人だ。
「邪悪な魔王に、神の鉄槌を下すのだ!」
「「「おおぉぉぉ!!」」」
彼らが発動しようとしているのは、国の防衛結界すら一撃で貫く、対空殲滅兵器『天の雷』。
本来なら、邪神が復活した時にしか使わない禁断の奥義だ。
「照準、天空の浮遊大陸!」
「魔力充填率120%!」
「放てぇぇぇぇッ!!」
教皇の絶叫と共に、魔法陣から極大の閃光が放たれた。
それは、空を引き裂き、雲を蒸発させ、一直線に俺たちの家へと迫る『死の光』だった。
◇
――天空、浮遊大陸。
「きゃああああ!! 何か来るわよぉぉ!!」
「お、終わりだ……! あんな光を食らったら、骨も残らない!」
移住したばかりの難民たちが、パニックに陥って逃げ惑う。
無理もない。
下から迫りくる光の柱は、直径1キロメートルにも及ぶ極太レーザーだ。
当たれば、この浮遊大陸ごと消滅するだろう。
「主様!!」
アイリスが血相を変えてリビングに飛び込んできた。
セラフィナも聖剣を構え、顔を青ざめさせている。
「敵の超長距離砲撃です! 直撃まであと10秒! 回避不可能です!」
「私の聖剣でも……あれだけの出力は相殺しきれません……っ!」
二人の最強戦力が、初めて『敗北』を予感していた。
それほどまでに、敵の殺意は強大だった。
だが。
「……んあ?」
ソファで昼寝をしていた俺は、瞼の裏を刺すような『眩しさ』に目を覚ました。
「眩しっ! なんだよ、西日か?」
「違います! 敵の攻撃です!」
「攻撃? ……あー、なんか光ってるな」
俺は窓の外を見た。
視界が真っ白になるほどの光。
熱量もすごい。
このままだと、せっかくの昼寝が妨害されるし、家具が日焼けしてしまう。
「チッ、安眠妨害しやがって……」
俺は不機嫌になりながら、アイテムボックスから『あるアイテム』を取り出した。
昨日のガチャで出た、インテリア用品だ。
【UR:神絶の遮光カーテン(全属性反射)】
説明:いかなる光、熱、視線、魔法も100%遮断する最強のカーテン。プライバシー保護に最適。物理攻撃も跳ね返します。
「とりあえず、これ閉めとくか」
俺は窓枠に手をかけ、バサッとカーテンを広げた。
「えっ……主様……?」
アイリスが呆然とする中、俺はただ無造作に、窓を覆った。
その瞬間。
カァァァァァッ!!!!
『天の雷』が、ログハウスに直撃した。
世界が白く染まる。
鼓膜が破れそうな轟音。
だが。
「……あれ?」
いつまで経っても、熱くない。
家も揺れない。
数秒後。
光が収まると、そこには無傷のログハウスと、欠伸をしている俺がいた。
「ふぁ……。よし、これで暗くなったな」
「…………は?」
アイリスとセラフィナが、口をあんぐりと開けて固まっている。
そして、窓の外を見たポチ(天竜王)が、『ワンッ!(ヤベェ!)』と叫んだ。
◇
――地上、聖法教会・総本部。
「……な、なんだと?」
教皇の手から、杖が滑り落ちた。
彼らの放った必殺の光は、天空の城に直撃したはずだった。
だが、その光は、城の表面にある『布きれ』一枚に当たり――
「反射」
物理法則を無視して、180度反転して戻ってきたのだ。
「ひ、光が……戻ってくるぞぉぉぉ!?」
「退避ーッ! 退避ーッ!!」
「間に合わん! ぎゃあああああ!!」
ズドォォォォォォン!!
自分たちが放った極大魔法が、自分たちの総本部に直撃した。
大聖堂が吹き飛び、結界がガラスのように砕け散る。
神官たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
「馬鹿な……! 神の鉄槌を……弾き返しただと……!?」
煤だらけになった教皇が、瓦礫の中で空を見上げる。
そこには、何事もなかったかのように悠然と浮かぶ、天空の城があった。
「あそこには……神でも住んでいるというのか……!」
◇
――天空、リビング。
「す、凄い……! あの極大魔法を、ただの布一枚で……!?」
セラフィナが震える手でカーテンを撫で回している。
「これこそ、神具『アイギスの盾』をも凌駕する、絶対防御の聖布……! 主様は、この聖布を『カーテン』と呼び、日除けに使われるとは……!」
「いや、カーテンだし」
俺は再びソファに寝転がった。
これでやっと安眠できる。
「主様」
アイリスが、どこか誇らしげに(そして少し恐ろしげに)微笑んだ。
「今の一撃で、地上の教会の戦力は壊滅したようです。……ですが、あの教皇という男、まだ諦めていない気配がします」
「えー、まだやるの? しつこいなぁ」
俺はうんざりした。
せっかくスローライフを送りたいのに、なんでこう、次から次へと邪魔が入るんだ。
「ポチ、ちょっと行って、脅かしてきてくれ」
『ワンッ!(任セロ!)』
俺が適当な指示を出した、その時。
【ピロン♪】
【システム警告:次元の歪みを検知しました】
【エラー:想定外の『上位存在』が召喚されようとしています】
また新しいログが出た。
今度はなんだ?
◇
地上。
半壊した大聖堂の中心で、教皇は狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ククク……こうなれば、もはや人の手には負えん。……禁忌を犯すぞ」
彼は懐から、白く輝く『天使の羽根』を取り出した。
それは、かつて神が地上に落としたとされる、本物の聖遺物。
「いでよ、神の尖兵! 天空の魔王を討ち滅ぼせ!」
教皇が自らの心臓に短剣を突き立て、その血を羽根に捧げる。
ゴゴゴゴゴゴ…………ッ!!
空が割れた。
俺たちのいる浮遊大陸よりもさらに上。
本当の『天界』への扉が開く。
そこから降りてきたのは、背中に六枚の翼を持つ、光り輝く巨人――『熾天使』だった。
「……人間風情が、私を呼んだか?」
天使の声が、世界中に響き渡る。
そのプレッシャーは、ポチ(天竜王)すらも震え上がらせるほどだった。
「あーあ……」
俺はモニター越しにその姿を見て、頭を抱えた。
「なんか、ヤバそうなのが出てきたな」
だが、俺のアイテムボックスには、昨日のガチャで出た【UR:神殺しの槍】が眠っていたりする。
……これ、使わないとダメかな?
(続く)




