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008:トラップ

車を走らせて20分が経過した……。

大融合事変後に道路交通法は安全地帯外で適応外とされている上に、道路に設置されている速度取り締まり機であるオービスも機能不全だ。

つまり、理論上は速度を出し放題という事だ。


一部の命知らずの大馬鹿者の走り屋が、大融合事変の最中に伝説を求めて黒の32Z-Turboで上信越自動車道上り線を時速300km近いフルスピードで走り抜けたという話があるが、その後どうなったかという話は聞いていない。

作り話かもしれないし、マジで大融合事変後の最速伝説を作りたくてやった可能性もある。

下り線は大勢の避難民の車で大渋滞していた反面、上り線は逆走車などを除けば比較的空いている。


ただ、それも混乱が収拾しきれていなかった大融合事変直後の話。

今では上信越自動車は軽井沢方面に繋がっている道路などは分厚いコンクリートで塞がれている上に、自由に出入りもできない。

認可を受けた俺みたいな回収屋が安全地帯外での魔石狩りや物品回収を営んでいるだけだ。


最速伝説みたいに飛ばそうと思えば、この国道18号線の高崎市までの終着点までに時速100km以上を飛ばして進むこともできるが……それはしない。

今の車のメーターは時速40km……。

国道18号線の制限速度は50km……。

サンデードライバー並に安全運転だ。

道路の片隅でドアやトランクが空いて放置されている車両。

横転してそのままになっているダンプカー。

そういった通行の邪魔になる車両が左右に展開されている。


おまけに、それまで行われていたメンテナンス作業がされていない道路は陥没や地面から生えてくる雑草でコンクリートがめくれ上がっている。

5年間もほったらかしにされていればコンクリートは脆くなる。

おまけに、重量税が加算されるような大型モンスターが歩いた道では、モンスターの足跡に沿ってコンクリートに足跡が付いている。


……そのおかげで、こっちはそこまで速度を出して走れないというわけだ。

いくらこの運転している車がタイヤのインチアップをしてサスペンションも改造してオフロード仕様にしても、デコボコして管理されていない道路を走るとガタガタと揺れるのだ。

隣に座っているラウムの乳みたいに揺れてしまうもんだ。

揺れるたびに隣からボインボインみたいな音が立てている気がする程さ……。

それにしてもラウムはこれだけの運転の振動よく平気だな。

普通の人なら車酔いするレベルの振動ではあるんだが……。

念のためやせ我慢していないか聞いてみるか。


「なぁラウム……」

「ん?どうかしたの?」

「しばらく道が荒れているから車体結構揺れると思うけど大丈夫?」

「うん、平気よ。酔い止めの魔法を既に掛けているから……」

「既に掛けていたのか……」

「ええ、昔サクマ村長が大型車の荷台に乗せてもらったことがあるの……それで具合悪くなって思いっきり……」

「ああ……もう言わなくても大丈夫だ。大変だったな」

「あの経験をしてからは予め酔い止めの魔法を付与しておいたのよ。こうすれば揺れていても問題ないわ。私は大丈夫よ」

「そうか、もし具合が悪くなったら遠慮なく言って欲しい。酔い止めの薬とか、万が一具合が悪くなった時用の袋はダッシュボードに入れてあるんだ」

「分かったわ。ありがとうね。アリアケちゃん……」


これだけ荒れ地のような状態の道路を走っていても酔わないための酔い止め魔法か……。

もし大融合事変前にあったら、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていたに違いない。

製薬会社も生き残った地方都市においては必需品の生産を請け負っている関係で、魔石を原料にした向精神薬であったり、魔法世界側で培ってきたポーションのノウハウなどを買い取って生産している。

そのため、ダンジョン化した都市から持ち帰る魔石の利用価値に関しては医薬品であったり、電化製品の代替用品としての需要もある。

薬にもなるし、電子部品の材料にもなる……。

海上輸送網シーレーンが崩壊した後の日本にとって、魔石は科学文明を維持する上で必須の鉱石資源だ。


安全地帯外での魔石採掘には色々とメリットとデメリットが存在する。

メリットとしては魔石の買取需要は常にある上に、政府から認可を受けていればこうした仕事でも多くの人達の役に立つ。隔週で1~2日程働くだけで一回で20~40万円の稼ぎとなり、車の維持なども出来るぐらいには稼げるというわけだ。

現にサクマ村長が市場の1.25倍の値段で買い取ると言っているので、先ほど貰った現金と合わせれば程度にもよるが、100万円以上の売上になるのは確実だ。

燃料代や弾薬代などを差し引いてもお釣りがくる。


その代わり、デメリットも高い。

命の危険が及んだ場合の自己責任という事。

モンスターの種類によって魔石の大きさが異なり、同一種でも魔石の量には差があるという事だ。

当たりはずれがあるため、強力なモンスターを倒してもドロップした魔石が小さい……なんてこともあるのがこの魔石回収業界だ。

それでも……報酬目当てだと大概は俺みたいなやつが飛びついてくるというわけだ。

危険な事をしてでも手っ取り早く大金を稼ぐのは、この方法が一番だろう。


それにソロで魔石を獲得する場合には、組合ギルドに加盟している連中の邪魔をしないという協定も結んでいる。

ハイエナみたいにギルド連中を襲撃して魔石を横取りをしたりした場合には、もれなく()()()という形で処分を受けることになるだろう。

危険を承知で行っているだけに、そういった横取り行為は万死に値すると言われている上に、ヤクザ組織ですら魔石回収を生業とするギルドに対しては余程の事がない限りは手を出さない。

言わば、大融合事変後のヒエラルキーにおいて上位に君臨する存在となったわけだ。


「この辺りに真田隊も通ったかもしれないがタイヤ痕がないな……」


その魔石回収ギルドとして上田地域一帯を中心に有名な真田隊の一派が行方不明となっているとサクマ村長から聞かされたわけだが……彼らの痕跡が見当たらないのだ。

ラウムは気になる様子で尋ねてきた。


「その……タイヤ痕で痕跡が分かるものなの?」

「ああ、重量の重たい装甲車であれば、傷んでいるコンクリート部分にタイヤ痕が残るんだ。そのタイヤ痕も2週間程度であれば残っているはずさ」


……真田隊の痕跡が見当たらない。

大型の装甲車が通れば必ずコンクリートの辺りにめり込んだタイヤ痕などがくっきりと残るからだ。

通常のアスファルトの状態なら早々残る物ではないのだが……。

5年間もメンテナンスもされておらず、雑草などがコンクリートを突き破って昇りだしている状態では、当然ながらコンクリートも劣化している分、傷がつきやすい。

ましてや装甲車クラスの重さになればコンクリートがめくれ上がって剥き出しになることも少なくないのだ。

ここを通過していないのであれば……他のルートを通ったのか?


「このルートで高崎市に向かったんじゃないとすれば……松井田インターチェンジから向かったのかもしれないな……」

「……自動車が沢山埋め尽くされている場所かしら?」

「ああ、あそこはスラム街になっているからね……所謂追放された人間たちが行きつく街だよ。ただ、あの街は俺は好きじゃない。お尋ね者が群がっているから、あまりいい印象はないんだ……」


今の高速道路は安全地帯外においては無法地帯そのものだが、パーキングエリアやサービスエリア、そして出入り口であるインターチェンジで街が形成されている。

現に、この辺りでは松井田インターチェンジを通じて高速の上り車線を使って向かうルートもあるにはあるが、そこでは『灰塵かいじん』と呼ばれているグループによって仕切られている。高速道路の通行料金を法外な値段で吹っかけたりもしてくる。

一度、松井田インターチェンジを使った際には5万円という通行料金をせびられたものだ。


他にも反社会的勢力……。

ヤクザ組織なども安全地帯外での活動に手を出しているので、そのシノギとして放棄されたサービスエリアなどを要塞化して首都圏に向かう場所に街を作っていると聞いている。

運悪くマイナンバーカードや保険証などを無くして住民基本台帳が作れなかった人や、不法入国状態で大融合事変に巻き込まれた外国人、安全地帯で窃盗などの犯罪を犯して逮捕されて追放された罪人などが行き着く街だ。

ラウム達のような魔法世界側の住民と違い、彼らは科学文明社会の名残を好んでいるため魔法世界の住民……特に連邦派に属していたグループと抗争する程仲が悪いことでも有名だ。

おまけに、そうこうしているうちに放置車両の数も増えてきた。


「ここもいつまで経っても片付けられない道だからなぁ……車がとにかく多いもんだ」

「そうね……素材集めのためにここまでくることはあるけど……車の死角からモンスターが襲い掛かってくることもあるわね……」

「横川駅周辺辺りから放置車両が込み始めてくるからなぁ……高速道路が大渋滞になって、それから一般道で長野県方面に逃げようとした人が多かったんだ。だから、こうして障害物となって放置されているってわけだ……まぁ、使える部品とかは回収屋の連中が洗いざらい持って行っているけどね」


国道18号線の主要道路を走行しないと、これから先はモンスターが多く出没するエリアに入る。

廃墟化した集落などに住み着いていて、野生動物などを狩って生活している。

ゴブリンなども良く出るそうだ。

交通事故を起こして放棄された車両や、モンスターに襲撃されてフロントガラスが砕け散った車両などが多く点在している。

言わば、ここには車にも平気で攻撃してくるモンスターがいるエリアになる。


車両に銃撃を行った弾痕の跡が複数あるが、これは前にもあった。

空になった薬莢などが散らばっており、そのすぐ近くには野生のモンスターに食い荒らされて白骨化したホトケになった亡骸が転がっている。

最後まで銃を握りしめて戦っていたようであり、右手付近には拳銃が握られていた。

中々出てくるもんじゃないな……そう思った時だった。


『ピピピピピピ……!!!』

「魔石探知機が反応しているッ?!」


腕時計の隣に身に着けた魔石探知機が反応をした。

それも写っているのは一つや二つだけじゃない。

ざっと見て10体ぐらいだ。

前方に反応があった。

その直後にボンネットに弓矢が何の前触れもなく飛んできた。

それも、一つや二つだけじゃない。

無数に飛んできたんだ。

装甲板を取り付けてあるボンネットには矢は突き刺さらない。

だが、生身で無防備な状態であればズタズタに貫かれていただろう。


「……!襲撃だ!!!ラウム!!!」

「ええ!分かっているわアリアケちゃん!!!」

「こいつは……知能種モンスターのゴブリンか!!!」


草むらの影から飛び出してきたのはゴブリンの群れ。

俺たちを襲って根こそぎ奪おうとするらしい。

悪いが、そう簡単に装備や命を渡すわけにはいかないんだ。

それに、ゴブリンにも体内に魔石が存在している。

倒してこちらの物にしようではないか。

一旦距離を離れるために車をバックで後ろに下がった後、300メートル程離れた場所に停車してからラウムに加護魔法を付与してもらってから車から降りて戦うことになった。


「ラウム、加護魔法を掛けてもらえるか?」

「勿論よ!あのゴブリンを倒すのね?」

「ああ、あいつらの弓矢から届かない距離からコイツで撃ち抜くよ」


後部座席からお気に入りのアサルトライフルを取り出す。

7.62mm弾……ヴァルターP1よりも強力な弾丸を装填できる。

州政府が助成金を出して軽井沢にある拳銃製造メーカーが製作した小銃「27式民生小銃」だ。

20式小銃などの最新鋭の銃は自衛隊が最優先で納品される。

そのため、フルオート機能付きのライフルが出回るのは稀だ。

代わりに新規に生産できる民生モデルの小銃が生産されることになった。


フルオート機能などを排除する代わりに、製造コストを抑えて木製パーツなどを取り付けて各々で改造できるようにしてあるというわけだ。

M14自動小銃の民生モデルであるM1Aを改造し、日本人の体格に合わせたモデル……。

それがこの27式小銃というわけだ。

値段もそれ相応ではあったが、買える範囲では一番取り扱いがしやすい銃でもある。

20式小銃などのアサルトライフルはこれが7つほど買える値段であり、かなり割高である上にメンテナンス費用も高い。

故に、ソロなどの魔石回収屋はこの銃を使うのだ。

ゴブリンたちがこちらに向かってくるまでに、ケリを付けよう。


「ラウム、準備はいいか?」

「勿論、アリアケちゃんを援護するわ!」

「よしっ……それじゃいくぞッ!」


ゴブリンとの戦闘は久しぶりだ。

知能種モンスターとして油断ならない相手でもある。

気を引き締めて取り掛かろう。

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