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005:助手

グールを倒し、熊野平村は安息を取り戻した。

討伐に協力した上に、グール・キャプテンを倒した功績を認められてか、村の村長直々に報酬を出してくれた上に、朝食までご馳走する運びとなったのだ。


「おっしゃ!おっしゃ!アリアケがグール・キャプテンを倒したのか!!!」


まず声を挙げたのは村長のサクマだった。

体格もがっちりとした大柄なオーガである。

全長2メートル50センチもの巨体。

まさに村の長としての貫禄が出ている。

角の片方が掛けているが、これはドラゴンと対峙した際に出来た傷だと自慢している。

オーガ特有の大声でサクマはみんなの前で俺を褒め称えた。


「よくぞやってくれた!グール・キャプテンを倒すとは中々に見事だ!」

「ああ、偶々見つけたからね」

「何、折角だから礼を行いたいッ!家まで来てくれんか?」

「いや、ちょっと立ち寄るつもりだったんだけどなぁ……」

「まぁそう慌てるな、ちょっとぐらい長居したって大丈夫だろう?」

「それはそうなんだが……まぁ、いいだろう」

「よーし!それじゃ家に行こうか!」


サクマの家……。

変電所跡地の本屋だった場所だ。

トタンや木材などで加工して出来上がった村長の家に案内までされて客室に通された。

増改築を重ねた結果、破損していた窓ガラスなどは全て取り替わっており、元の建物の外観はすっかりと様変わりしている様子だ。

客室にはテーブルにソファーまで設置されている。


『テーブル:49800円(税込み)』

『ソファー:69800円(税込み)』


……値札が付けられているので、どこかの家具店から持ち出してきたやつだろう。

それを咎めることはしないが、こんな世の中では安全地帯の外にある魔法世界側の村や都市では、科学文明側の跡地から物を拝借することは日常茶飯事だ。

すでにこの家具などを取り扱っている店も大融合事変の際に閉店してしまっただろう。

ソファーに座ると、サクマはお茶を出してくれた。

この地域で栽培された茶葉を使ったほうじ茶だそうだ。


「まぁ、茶でも飲んでいけ」

「どうも」


暖かいほうじ茶を飲みながら、俺を称えた上でグール・キャプテンを倒した礼を言った。


「アリアケのお陰でグールたちを倒す手間が省けたよ。礼を言うぞ」

「それはどうも……」

「これは少ないが、心ばかりの礼だ……とっておいてくれ」


サクマは旧紙幣で50万円を現物でだしてきた。

50万円の現物は魔石回収でも運がいい時に換金してくれる金額と同等だ。

悪くないな。


「では、有難くとっておこう」

「あれだと数で押しきれそうだったからな……柵を増やしたが、物足りないな……」

「サクマ村長、前来たときよりも柵を増やしたのか?」

「そうだ。ここ最近は高崎市のダンジョンも活性化しているようでな……襲撃が増えているんだ」

「襲撃が?」

「ああ……さっきのグールの襲撃を含めて、最近は2~3日に一回は襲撃がくるようになってきているんだ。明らかにダンジョンで活性化が起こっているとしか思えない……」

「検問所でも聞かれたな……その話、詳しく話してもらえるか?」


検問所でも聞かされたな……。

高崎市のダンジョンが活性化しているという話。

どうやら繋がりがあるようだ。

サクマはその事について詳しい話をしてくれた。


「直接関わりがあるかどうかは分からないが……部下から聞いた話によれば、2週間前に上田の回収屋団体が高崎市に行ったきり戻ってこないそうだ……アリアケ、何か知っているか?」

「いや、戻ってこないなんて話は聞いたことが無いな……そんな事があれば有名になるはずだし」

「何でも安全地帯では緘口令が敷かれているらしくてな、ここに立ち寄ってくる回収屋でも知らないと驚いた様子だったよ」

「上田の回収屋団体だよな……?いくつか心当たりはあるが……何か特徴的なマークとか描かれていたか?」

「車両は全て黒色で丸い円で真ん中が四角にくりぬけた模様を六つのマークで塗装していたよ。車列は3台……うち真ん中の一台は装甲板を取り付けていて角ばった感じの大型の車だったよ」

「それは六文銭……それでいて装甲車を運用しているという事は……もしかして真田隊の事か?」

「詳しいのか?」

「勿論だ。上田市を本部に活動している集団回収屋だ。規模こそは中堅だけど軽井沢でも名を知らない人はいないよ。安全地帯では名の知れた武闘派で戦闘能力も高い。自衛隊や米軍の装備を使っている奴らだ」


真田隊は上田市で結成された集団回収屋だ。

規模は200人前後……。

集団行動を模範とし、組合ギルドを結成して複数の部隊に分かれて活動をしている連中だ。

俺みたいな一人で魔石を回収するソロの回収屋とは違い、複数のチームを組んで魔石を回収し、隊に回収した魔石の3割を納めて山分けする方式を取っている。

集団でやっているため、分け前を考えれば一人当たりの報酬は減るが、組織の福利厚生は良く入隊倍率も高い。


そして何よりも、自衛隊の戦闘部隊の中でも精鋭である空挺団に所属していた元自衛官が立ち上げた回収屋だけに、軍隊式の訓練を行っていたり、車両や装備も軍用仕様の物を運用をしている事でも知られている。

陸上自衛隊で使われていたジープや高機動車、兵員輸送車などを六文銭のマークで塗装し、服装なども真田家風の格好をしていることでも知られている。

そして元自衛官や格闘家などを採用しているゴリゴリの武闘派組織だ。

地元のヤクザですら彼らとは揉め事を起こさないように避けている事でも知られている。

そんな真田隊の一派が戻ってこないのは異常事態だ。


「あそこは自衛隊や米軍から払い下げられた銃や車両を使っているんだ。元空挺団の隊長が根回ししているから装備も段違いで良いんだ。下手に負けたとしても何人かは戻ってくるはずなんだが……」

「それが一人も帰ってきていないみたいなんだ。ついこの間も同じマークを付けた1台の車で向かっていったが……それっきりだ」

「真田隊の1チームと偵察車両が戻ってこないとなれば、高崎市のダンジョンでヤバい敵と遭遇したかもしれないな……様子見のために派遣された偵察の車両かもしれんが……何が起こっているんだろうな……」

「アリアケ……高崎市のダンジョンの様子がどうなっているか分からんが、それでも行くのか?」


心配そうな様子でサクマは俺に尋ねる。

ソロであれば問題ない。

身体さえ無事であれば問題ないからね。


「ああ、独り身でやっていけば大丈夫だ。ダンジョンでの敵が活性化して襲い掛かってきたか……もしくはどこかの野盗集団が攻撃を仕掛けたのかは不明だが、危ないと判断すれば引き返すよ」

「悪いことたぁ言わんが、お前さんがそこまで言うのであれば止めはしない。若いころの俺を見ているようでな……何か選別でもくれてやろう」

「ん?選別なんていいぞ。グール・キャプテンを倒した際に使った加護弾があればそれで十分だ」

「そうか……あとな、一つこちらから頼みがあるんだ」

「頼み?」


サクマは周囲を見渡してから俺に小声でつぶやく。


「ラウムの事なんだがな……」

「ラウム……彼女がどうかしたのか?」

「無理にとはいわんが、ラウムを魔石回収の手伝いとして雇ってもらえないだろうか?」


魔女のラウムを手伝いとして雇う?

どういう事だ?

彼女の美貌とポーション技術は確かだが、それでも戦闘能力に関しては未知数だ。

戦闘になれば戦うことになるかもしれないし、今までの独り身……ソロでやってきた以上、回収屋としての仕事を請け負っている身としては一人増えたら用意した食材などの消耗品では足りなくなる。

難色を示しつつ、俺は真意をサクマに尋ねた。


「……それはマジの話か?冗談は好きじゃないぞ」

「冗談ではない。本気だ……」

「俺はソロ用の装備しかないし……なぜ手伝いとしてラウムを雇う必要があるんだ?」

「実はな……熊野平村の魔石の備蓄が不足しているんだ」

「……どのくらい足りないんだ?」

「木材などの燃料をかき集めて燃料は確保しているが、もって三週間といったところだ。あれがないと魔物が寄り付いてきて今以上にキツくなってしまうんだ」

「それは分かったけど……ラウムは大丈夫なのか?」

「彼女は1人でポーションの材料を集めに村の外に出ていることが多い。彼女の能力については申し分ない、それは俺も保障する」

「……つまりラウムの了承は得ているのか?」

「勿論だ。魔石の取り扱いに関しては彼女が村で一番だ。必要な食材や消耗品、物資などはこちらで全て無料で手配する……取り分に関しても必要数を獲ってきてくれたら市場価格の1.25倍で旧紙幣で支払いに応じよう……それでいいかね?」


悪くない条件ではある。

ラウムが加わることで必要な食材や消耗品や物資などを無料で加える上に、旧紙幣で取引をしてくれるのであれば、持ち帰ってギルドなどに売るより儲かるだろう。

それにラウムは魔女だ。

魔法の使い手でもあるし、魔石なども上手い具合に取ることができるかもしれない。

リスクとリターンを天秤にかけた結果、ラウムを雇うことになった。

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