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004:初陣

ポーション屋のドアを開けると、大勢の大人たちが走りだしている。


「襲撃ッ!!!!襲撃だぁッ!!!」

「東からきやがった!武器を手にとって戦え!」

「誰でもいい、手を貸してくれ!」

「グールだ!グールの群れがやってきたぞ!」


熊野平村の東側……。

既に廃線になって使用されていないトンネルからグールが襲撃してきているようだ。

グールは大融合事変後に発生したモンスターの一種。

文字通り、大融合事変後に犠牲になった人間がベースだ。

緑色に変色して蠢いている状態の【人間が成れ果てた姿】である。


グールの正体は魔法世界側から持ち込まれた寄生虫が原因だ。

この寄生虫は空気に触れるだけで死ぬ。

体内でしか生存することができない。

だが、一度体内に入り込むと厄介な存在だ。


人間が感染すると脳神経に寄生し、脳神経を乗っ取って意のままに操る。

他の動物への感染例は報告されていない。

例外的に研究目的のために人為的に霊長類の猿に感染させた例はあるが、その際にも他者への攻撃性が確認されている。


寄生虫に感染すると、感染してから3時間以内に他者への攻撃性が高まり、寄生虫を退治するポーション薬を12時間以内に服用しないと、寄生虫が脳に浸透してグールと化してしまう。

その上、グール化した人間に噛まれてしまうと寄生虫が体内に入り込んでしまうため、感染防止のためにグール化した者は『特定危険感染症患者』と見なして攻撃しても罪にならない。

言うなれば、死体が暴れているという意味になっているのだ。


この寄生虫の目的は宿主を操り、自身を増殖することだ。

人間に寄生して操ることで、原始的な道具を使って広範囲に動いて宿主の身体がボロボロになって死に絶えるまでに次の繁殖先となる人間に感染するようだ。

なぜ人間が感染するのかは不明だが、気色悪い上に、見た目も臭いもキツイ。


ダンジョン化現象において大勢の人間を死に追いやったのも、こういった魔法世界経由で持ち込まれたモンスターや寄生虫などの脅威が原因だ。

……ゾンビ映画よろしくの光景だが、俺もただ突っ立っている状態でいることはしない。

住民たちに混じってグール討伐に向かう。


「おう!回収屋の兄ちゃん!グールの討伐に手伝ってくれるんか?」

「ポーションを売ってくれた恩があるからね。少なくとも手は貸すよ」

「御色気ポーション屋のラウムのお陰だな!ありがとよ!」

「全くだ、グール化した輩には悪いが、処分させてもらおうか」

「さっきもグールが襲ってきたが……人数は8匹程度だったよ。あれは先遣隊だったようだな……」

「つまり、これが本隊というわけか……」


2時間前の襲撃はグールだったというわけだ。

なら、ここに人間が大勢いると認識して襲っているのだろう。

グールにも複数種類はあれど、司令塔となるグール・キャプテンと呼ばれる奴がいる。

そいつが他の寄生体に指示を出しているので、ソイツを潰せば司令塔を失ったグールたちは集団統制が取れずに瓦解する。

言い換えれば、集団行動をしているグールは強い。

それに、グールはモンスターの一種に分類される。

故に、他のゴブリンやオークなどから攻撃を受けることはないし、喰われもしないので数が中々減らないというわけだ。


「とはいえ、こいつらは数で押してくる。皮膚は脆くてしっかりと道具で殴って脳や心臓を潰せば死んでくれる……悪く思うなよ」


俺はスコップを取り出して柵をよじ登ろうとしてくるグールの手を突き刺した。

グール化した元人間の皮膚は脆い。

一瞬で肉や骨が見えたかと思ったら、すぐに斬り落ちてしまう。

呻きながら倒れるグールにスコップで頭を叩き潰す。

グールの首を切断しても3時間程ならこいつらは生きてしまう。

だから心臓か頭部を完全に破壊して活動停止させる必要がある。


宿主となっている奴の頭部ないし心臓を叩き潰すこと。

徹底的に潰して安らかに死なせてやることだ。

身体は既に半死状態であるが、寄生虫に操られているだけに意識が殆どない状態で動いているだけの屍と同じだ。

可哀そうに、見た限り何処かの都市部から集団移動してきた群体のようだ。


「アイスストーンで倒してもキリがないわね……」

「すまねぇラウム、持ちこたえられそうか?」

「大丈夫よ、慣れているわ」


ラウムも魔法使いとしてグールたちを攻撃している。

魔法による攻撃は強力で、一度にグールたちが倒れていく。

それでも、グールたちは物量作戦で攻撃を続行していく。

一体、また一体と柵を壊そうとしてくる。

まるで無限の噴水から湧き出る水の如く、大勢のグールが群れとなって押し寄せてきている。

村の大人たちが力を合わせてスコップや鍬、それに監視塔からM1カービン銃で狙撃しているが、グールが死んでもそれを踏み越えて数で押し通してくる。

ふと、気になるグールを発見した。


「ん?あれは……グールの司令塔か?」


グール・キャプテンと思われる眼鏡を掛けたサラリーマンの男が大きく手を振り被って、村の周囲を囲っている柵をよじ登るように他のグールたちに命じているようだ。

奴はグールたちの中央に位置して陣取っており、そこで身振り手振りで動かしているようにも見える。

あいつが司令塔であれば、アイツを潰せばグールたちはバラバラに動きだすだろう。


「まだこいつら柵を登ろうとしているぞ!」

「なら、グール相手ならこれが一番いいだろう、ちょっとスコップを持っていてくれ」

「おうよ!兄ちゃん……ところで、一体何をしようとしているんだい?」

「ん?グールのキャプテンを潰すんだよ」


スコップを隣のおっさんに渡して、俺は腰に身に着けているホルスターから拳銃を取り出す。

ドイツ製のヴァルター・P1……。

新潟の銃市場で落札した銃だ。

生憎好きなアニメキャラが使っていたP38は手に入らなかったが、コイツに関しては元々大融合事変前にフィリピン経由で密輸された代物らしい。


密輸先であった新潟の暴力団が所持していたが、皮肉なことに大融合事変後に治安部隊の一員として駆り出された際に所持していた武装などを一度解除させた上で、警察官や自衛隊や米軍の装備品に更新されて、規格外の武器などは放出されることになった。

その際に新潟の銃市場で競売にかけられていたので、俺が入手したというわけだ。


中に込められている弾丸も通常の弾丸じゃない。

モンスターなどにダメージを発揮する加工が施された「加護弾」というものを装填している。

王国派の魔法技術供与によって作られた加護弾は、通常の弾丸に魔法の効果を付与したものだ。

こいつがなければ安全地帯の外で生き延びることはできないだろう。

それにグールは一発だけのヘッドショットだけでは倒せない。

確実に2~3発ヒットさせる必要がある。

両腕を構えてグール・キャプテンの真正面に銃口を向ける。


(安らかに、眠ってくれ……)


1発目のトリガーを引く。

脳に直撃して眼鏡が吹き飛んだ。

それでもまだ立っている。

しぶといな、大脳だけでなく小脳までダメージを与えないといけないのだ。

2発目が残っていた小脳に直撃すると、グール・キャプテンは地面に崩れ落ちる。

すると、他のグールたちの身動きが一気にぎこちない様子となり、右往左往している。


「グール・キャプテンを倒した!グール・キャプテンを倒したぞ!!!」


周囲の人間に聞こえるように大声で叫ぶ。

こうなればもうグールの群れは烏合の衆だ。

右往左往に動くだけの存在になった。

熊野平村の住民たちがスコップや鍬などの道具を使ってグールたちの頭目掛けておもいっきりフルスイングをかます。

身体の部位が千切れていく。

何とも言えないぐらいにスプラッター映画のような光景に大変身する。


ただ、グールたちを放置するわけにはいかない。

彼らは生きていたらいけない。

もう死んでいないといけないんだ。

かつては学校に行ったり、仕事に行ったり、遊びを楽しんだ連中なのだろう。

グール化した人間たちの服装を見れば分かる。

学生服の奴もいれば、バスケの試合をする服を身に着けた奴もいた。

身体を突き刺すたびに、寄生虫と思われる糸状の物が飛び出してくる。

だからしっかりと眠ってもらう必要があるのだ。


「ごめんなさい……」


俺は小声でつぶやく。

僅かに蠢いていたグールたちを永眠させる。

グールには魔法攻撃も効果を発揮しずらい。

だから物理攻撃に限る。

グールの群れは統制を失い、村人たちによって残りは殲滅された。

太陽もすっかり登った午前8時40分に最後の1匹を倒した。

そして、グールの死体は一か所に集められてからラウムの火炎魔法によって焼かれて、丁寧に火葬を行ったのである。

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― 新着の感想 ―
誤字ですが、後半のグールがグーグルになっていますよ。
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