071:潜入
「真田隊の人達を助けにいく必要があるな……これ以上被害を出すわけにはいかないからね……」
俺はギンとラウムに伝える。
このまま放置していい問題ではないし、何よりも今後の事を考えると放置していい問題ではない。
金に苦心して見境なしに襲っているようであれば、それはもうこちらとしても対応しなければいけない案件だ。他の個人でやっている回収屋も含めて、王国派や帝国派の住民までも巻き込んだ事件になっているからな……。
熊野平村は王国派に属しているし、それにギンは帝国派出身の村だ。
これを踏まえても、このまま放置すれば国や所属も関係なく襲い掛かってくるバーサーカーを相手にするようなものだ。
下手なモンスターよりもタチが悪い。
もし、放置をして第二、第三と身柄を攫われたり、命を奪われたりした人が増えていけば、いずれ連邦との全面戦争にもなるかもしれない。
灰燼が連邦の一派となれば、政府としても黙っているわけにはいかないだろう。
それに、金策に苦労しているとなれば、熊野平村なども襲ってくるかもしれない。
襲撃者たちが隊列を組んで村を襲撃すれば、サクマがいたとしてもタダでは済まないだろう。
予防的な防衛措置……。
俺は傭兵でもないが、灰燼の危険性を鑑みれば……戦力を削いで真田隊の人達を助けるべきだろう。
「真田隊の人達を助ける……?それは本気なのアリアケちゃん……」
「ああ、リーダーが金に困っているってことは、それだけ見境なく魔石回収屋を狙ってくるという事でもあるし、他の連中にも危害を加えるリスクが高まっているということだ。それを放置しているわけにはいかんのだよ……熊野平村を襲撃する恐れもある」
「村を襲撃するのッ?!」
「ゼロじゃない。金に困って後先がないと判断して追い詰められた連中は何をしでかすかわからない。今日だっていきなり発砲してきてこの捕虜たちみたいに襲ってきただろう。真田隊の他の車を拝借しているとすれば、真田隊に偽装して襲う可能性だってある。それを防ぐためにアジトに潜入して真田隊を助けるべきだと思う……俺はやるが、ラウムはどうする?」
「……そうね、いいわよ。アリアケちゃんと一緒にいくわ」
ラウムは少し驚いた様子だったが、このまま放置すれば危険である旨を伝えると納得してくれたようだ。
ギンも連邦の一味に故郷を攻撃されてさらわれた身だ。
その恐怖は身に染みて覚えているだろう。
「ギン、真田隊を救助しにいくが……お前も行くか?」
「うん……真田隊の人達……助けないと……!」
「だけど、かなり危険な目に遭うかもしれないし、リスクも高い……それを承知で引き受けてくれるか?」
「うん……!!!」
ギンは頷いてくれた。
何か自分に役に立てることがあれば、それを生かしたいと……。
そのギンの想いも無駄にするわけにはいかない。
捕虜に松井田インターチェンジにいる灰燼のメンバーの人数と、捕虜になっていると思われる真田隊の人達がどのくらいいるか尋ねた。
「さて……灰燼のアジトである松井田インターチェンジにいる兵隊の人数と、囚われている真田隊の人達の数を教えてほしい」
「あ……ああ、兵隊は俺たちを含めて40人程度だ。私が把握している捕虜は7名……そのうち、2人は何処かに連れて行かれたと聞いているが……どうするんだ?」
「どうするも何も……真田隊の人達を取り返すのさ」
「わ、私があまり言える義理じゃないが……危険すぎる。相手は魔法も駆使して戦いに挑んでくる……かなり厄介だぞ?」
「ああ、それでも俺は行かなきゃならないんだ。無謀に思えるかもしれないけど……」
真田隊とは面識は殆どない。
強いて言えば魔石回収屋の信越ブロックの集会に参加した時に軽く挨拶を交わした程度だ。
本来なら助ける義理もないかもしれない。
メリットよりも命が奪われるデメリットの可能性のほうがデカい。
ただ、このまま黙って指をくわえている状況を待っているわけにはいかない。
俺たちは松井田インターチェンジに乗り込んで、真田隊を助ける選択肢を選んだ。