015:尋問
命中したのは良かったが……問題は襲ってきた相手だ。
睡眠魔法を掛けたおかけで連中はぐっすりと眠っていた。
魔力を消耗したラウムに代わって、俺は結束バンドを持ち出して連中の手足を縛る。
「ギン、ドアを開けてくれ。こいつらを家の中に連れて尋問するぞ」
「うん……私も運ぶのを手伝うよ」
「重たいが大丈夫か?」
「大丈夫」
ギンは成人男性を軽々と持ち上げて家の中に入っていく。
俺よりも力持ちなんじゃないかな……。
さて、全員を家の中に連れ込んでから身元チェックの時間だ。
やつらの身ぐるみを剥がした結果、全員が灰燼のメンバーだったことが判明したのだ。
「こいつら灰燼の連中だ……ほら、右肩に連中の刺青が入れてあるぞ」
「灰色の狼……」
「灰燼の狩人として元々狩猟生活していた連中らしいな」
「ええ、でも戦争で連邦に敗れてからは連邦の一派として活動しているわ。正式には自治としての扱いで国家にこそ属していないけど、王国派や帝国派の人達を拉致して人身売買の奴隷市場で売りさばくこともしている。所謂奴隷商人を生業にしている連中よ」
「連邦の一派なのに、何故一匹狼を名乗っているんだ?」
「連邦の汚れ仕事を引き受けているからよ。何か問題があっても灰燼がやった事だといえば、相手もそれ以上の手だしが出来ないし、灰燼からしてみれば下手人を差し出した上で、連邦の汚れ仕事と引き換えに恩恵を受けられるからよ。だから、連邦でも魔法が上手く使えない落ちこぼれの人達が行くことがあるわ」
灰燼の連中は、狼のようなシルエットのマークを彫っている。
これは魔法世界において流浪の民として各地を転々としていた事に由来しているが、中にはこちらの安全地帯から追放された人間も合流しているという話を耳にしている。
灰燼はバラバラに拠点を保持しているが、人数の総数としては1万人以上いるといわれている。
連邦の一派ではあるが、表向きは何処の国家にも属していないことから、集団で群れを成して無政府主義的思想を掲げる一匹狼のような連中だ。
(灰燼であれば、ある程度銃火器を扱える連中がいるのも納得だな……民生用の銃を中心に取引していると聞いているが、連邦では非魔法武器は蔑視の対象として向けられているからな……銃に対して偏見がないのと魔法が使えない連中がいるとなれば、銃火器を使用する理屈も通るってわけか……)
ギンは灰燼のタトゥーをまじまじと見ている。
何か気になる事があるらしい。
何度か確認するような素振りをしてギンは言った。
「この人達……私達を攫った商人と同じ刺青をしている……」
「マジか……それじゃあ、ギンたちの集落を襲ったのは灰燼の連中か?!」
「灰燼は各地に拠点を持っているわ。でもギンちゃん……本当に灰燼なの?」
「うん……右肩に狼の刺青をしていたよ。それも襲ってきた人達はみんなそんな感じだった」
「であれば……ハニュを襲ったのはその灰燼の連中で間違いないわね」
「するとあれか、こいつらはギンたちを奴隷として灰燼内の拠点で労働力として使おうとしていたのか?」
「……恐らくは、音や匂いをかぎ分けることに長けている種族であることに目を付けて、魔石採掘のために徴用するつもりだったはずよ」
労働力の確保のために帝国派の集落を襲撃する……。
それはまだ分かる。
日本政府とは休戦協定を結んでいるからな。
安全地帯に襲撃を仕掛けるバカな真似は避けたのだろう。
だが、そんな連中が上田を中心に実力のある真田隊を襲撃した事が不可解であった。
「この人もそうね……でもどうして真田隊を襲撃したのかしら?」
「大方、食い詰めていたからやったかもしれんが……それでも真田隊を襲撃するなんてことは自分たちにとってもリスクが大きすぎる行為だ。自殺行為に等しい、本隊がその事に気が付けば、自衛隊や米軍の連中を引き連れてアジトを吹き飛ばされるぞ。」
「明らかに敵対的な行為をしているのは不可解ね……」
元々真田隊はこの辺りでも有名な回収屋ギルドだ。
下手に手を出せばヤケドをする……それは常識のはずだ。
それを知らずに手を出したのか、分かっていて手を出したのか……。
目の前で安らかな顔で爆睡しているこいつらは、少なくとも俺たちのことを真田隊の増援だと思って銃撃をかましてきた。
であれば、真田隊と敵対して大きな被害を被るリスクを承知の上でも、そのリスクを上回るメリットが存在している理由があるはずだ。
ハイリスクで見返りが無いローリターンな仕事は誰もしたがらない。
ハイリスクだけど、高額報酬などが貰えるハイリターンな仕事を欲しがるものだ。
今は情報が必要だ。
こいつらから聞きだす必要が生じたからね。
「何か事情があるはずだ。本来こんな事はしないんだが……今は時間がない。こいつらを尋問して情報を聞き出す」
ちんたらやっていては埒が明かない。
多少荒事になるが、なぜ真田隊を襲撃したのか調べる必要がある。
俺は眠っていた一人の男を叩き起こして尋問することにした。