014:一対一
「いたぞ!真田隊の偵察部隊だ!」
「撃てッ!確実に始末しろ!」
ラウムが作りだした幻影魔法に反応してか、一斉に銃撃音が聞こえだした。
乾いた発砲音だが、乱射しているというわけではなさそうだ。
少なくとも近場から3名、遠くから1名が発砲している。
幻影魔法は個々に動きを見せるため、あたかも生きている人間のように見える仕組みだ。
一定のダメージが入ると消失してしまうが、逆に言い換えれば攻撃を受けても数発程度であれば耐えて相手の弾を無駄撃ちさせることになる。
そのため、こちらを攻撃しようとしてきている連中もそれが幻影であることを気がつかない。
これが出来るのはラウムの魔法技術が卓越している事と、同時に複数の幻影を出して反撃しているように見せることができるという点だ。
より自然に真田隊の部隊だと思わせて敵を誘い込むことができるというわけだ。
「アリアケさん!左側から二人来ています!」
「分かった!ギンはそのままラウムを守っていてくれ!襲撃者はこっちで排除しておくよ!」
「……はいっ!」
魔石反応は無いが、人間の足音などを聞き分けるギンが敵の位置情報を教えてくれる。
改造マフラーで爆音を轟かせている族車レベルでそういった物音を識別できるようだ。
やはりギンを助けて正解だったな。
27式小銃を構えて、足音が近づいてくるやいなや向かい側に立て掛けられていた柵目掛けて引き金を引いた。
「うぐぅっ!」
「ぎやぁっ!」
悲鳴が聞こえる。
柵を撃ち抜いて対面側の相手に当たったようだ。
よくテレビゲームでは柵が障害物のオブジェクトとして銃弾を貫通しないように設定されているが、実際にはコンクリートブロックなどでない限りは銃弾は貫通し、威力はそのままの状態で相手に被弾する。
特に7.62mm弾は5.56mm弾よりも貫通能力に優れている。
木材で出来た柵に至っては障子を破くようにスパスパと穴を開けていく。
「オガ!トク!ちくしょう!相手も銃を持っているのか!」
「すまねぇ!撃たれちまった!」
「足をやられたッ……動けねぇ……」
「こっちまでこいっ!回復ポーションを付けてやる!」
もう一人の男が駆け寄ってきたようだが、こちらから狙えない場所に隠れてしまっている。
狙撃は無理だが、相手が倒れている場所は知っている。
三人には悪いが、無力化させるためにこいつを使って眠らせてもらう。
腰から催眠ポーションを取り出して、三人が固まっている場所目掛けてポーションの瓶を投げ込んだ。
ガシャンという音と共に、即効性のある催眠ポーションだったために、すぐに倒れて眠ったようだ。
近くにいる相手は排除できたが、もう一人狙撃をしてきている奴を仕留めなければならない。
一発、また一発と銃声が聞こえるが、それでもここから聞こえてくる音は遠い。
幻影魔法で作りだした囮が一体ダメージが蓄積したことで消えてしまったようだ。
ラウムが叫んできた。
「アリアケちゃん!1体やられたわ!残りの個体もあと60秒が限界よ!」
「60秒か……分かった。それまでに攻撃を行うような動作を幻影たちに作り出してくれるとありがたい。そうすれば奴は良く狙ってくるはずだ!」
幻影が長く持ちそうにない。
そうであれば、一分以内に片付ける必要がある。
銃声の間隔からして一発撃ちこむのに5~10秒ほどのタイムラグがある。
軍用アサルトライフルではなく、ボルトアクション式の小銃を使っている可能性が高い。
セミオートモデルの銃であればもっと間隔が短い。
狙撃に適している銃を使っているとなれば、この脅威となる人物は高所から撃ち込んでいるはずだ。
(高所で狙撃が出来る場所……さっきの送電塔か……)
先ほど光った場所はやや高い場所からだ。
塀の上とかではない……この辺りで高い場所といえば送電塔だろう。
あそこから狙撃していれば運転席なども遠くから狙えるはずだ。
ここからだと狙えないので、空き家の裏手側を通ってブロック塀の隙間から送電塔にスコープを向ける。
……いたッ!
狙撃手が一名、空き家に15秒間隔で幻影に向かって弾丸を打ち込んでいる。
だが、スコープ越しに覗き込んだ際にピカッと光の反射が見えた。
(やばっ、奴はこっちを見ているのか?!)
その直後、近くの幻影の標的に弾丸が命中した。
幻影の後ろに置かれていたエアコンの室外機を貫いていた。
危ない……もし身を乗り出していたら間違いなく俺も無事では済まなかっただろう。
この建物が鉄筋コンクリートで良かったとつくづく実感させてくれる。
今のは幻影を狙っていたようだ……もし俺を狙っていたら物語はここでおしまいだったな。
(連射が効かないとなると、ボルトアクション式の単発ライフルだな……村田銃か?それも、魔法世界側の技術で改良した銃となれば威力も上がるな……)
異世界側の魔石加工技術によって、手に持っている27式小銃を含めて部品に魔石が使われている。
レアメタルに代わる鉱石であり、従来の素材よりも強度が増すという事で、民生品の銃には魔石と鉄板を混ぜ合わせた素材で作られた素材が使われているのだ。
戦前に製造された村田銃に関しても、単発式で構造が簡易的という理由で販売されており、モンスターの狩猟目的で所持している人間も多い。
おまけに、オリジナルは旧日本軍で使用していた11mmだが……弾薬の互換性と魔石による銃本体の強化により12.7×99mmNATO弾を使用できるように改良されているのが民生用の村田銃が生産・販売されている。
逆に、64式小銃や89式小銃、MINIMI機関銃などの自衛隊が保有している武器は高度な加工技術が必要であるため、戦後に作られた軍用銃が一般に出回ることはかなり少ない。
民生用がフルオート機能を排除したのも、暴動や反乱の際に使用された場合、自衛隊が対応できない事態になりうるというのが理由だ。
そのため、セミオートないし単発式の銃が一般人が買える銃であり、その中でも出回っているボルトアクション式ライフルの中でも高威力である村田銃が一撃確殺の武器として選ばれているのも理由の一つだ。
ここからセミオート連射していけば当たりそうな距離ではある。
距離にして約400メートル以上は離れているが、倍率スコープを付けているので銃声が鳴ったらこちらは引き金を絶え間なく引く事で連射できる。
パァーン……。
銃声と共に幻影が一つ消えた合図だ。
やってやるさ、魔石回収屋としてのプライドがあるんだ。
こっちは連射できる。
送電塔にいた狙撃手目掛けて引き金を引いた。
一発目……外れ。
二発目……外れ。
三発目……外れ。
(クソッ、ラウムに掛けてもらった加護魔法の付与効果が切れたか?!)
まずい、こっちは引き金を引いて撃っているが当たらねぇ……。
四発目……外れ。
クソッ、おちつけ、弾道の位置を修正しろ!
五発目……惜しくも下の鉄筋に命中、下げ過ぎた!
少し右、それで上だ!
相手の銃弾が弾込めを終える頃合いだ。
次で決めないと俺が幻影のように頭が吹き飛ぶ番だ。
息を呑み込んでトリガーを引いて六発目の弾丸に俺の命を賭ける。
……引き金を引いた直後、俺の左耳の傍で何かが掠める音がした。
そして送電塔にいた人物が銃と共に地面に落下していった。